北海道遺産にして「ご当地ラーメン」の火付け役
「次の世代へ引き継ぎたい有形・無形の財産の中から、北海道民全体の宝物」として認定される「北海道遺産」。
現在67軒ある北海道遺産の1つが、「北海道のラーメン」だ。
ラーメンは、道民の重要な食文化として発展。道内各地に名店が生まれ、地元民のみならず、観光資源としても道外の人たちを引き付けてきた。さらには、「ご当地ラーメン」のブーム火付け役でもある。
そんな北海道ラーメンが、コロナ禍の影響で危機的な状況にあるという。中心都市の札幌でも、緊急事態宣言まもなく売上が9割減少する店が続出するなど大苦戦。道外百貨店で開催される人気の北海道物産展も、春季は軒並み中止。一時は「ギリギリの状況下」に落ち込んでしまい、コロナ以前へ回復するには「1年はかかる」という予測もある。
名店のラーメンをサブスクで提供
現状を打開すべく、各店のみならず自治体・業界団体は、知恵を絞った対策を打ち出している。今回紹介する北海道サブスクリプションプロジェクトもその1つだ。
北海道サブスクリプションプロジェクトのウェブサイト・トップページ
北海道サブスクリプションプロジェクトは、北海道ラーメンをサブスク形式で届けるサービス。毎月2店から1食ずつ(計2食)が、冷凍便で自宅に送られる仕組みで、月々の支払いはクレジットカード決済で、税込み1998円+送料となる。現時点(9月下旬)でサブスク形式は14店舗が参加。いずれも屈指の名店ぞろいで、ラーメン好きの期待を裏切らないラインナップとなっている。ただし、調理するのはもちろん店の主人でなく、申し込んだ当人。そのへんに不安はないだろうか?
調理は簡単で想像以上のうまさ
筆者は、試しに「サブスクの名店ラーメンコース(2食)」、そして単品販売の2食を取り寄せてみた。
サブスクの商品は、行列のできる店として名を馳せている、虎の一番人気「琥珀」と、安倍前総理大臣も来店したという、吉山商店の「焙煎ごまみそらーめん」。
単品商品は、某有名ラーメン雑誌で殿堂入りを果たしている、まるはBEYONDの「中華蕎麦」と、ミシュラン北海道でビブグルマンを獲得した麺屋169の「芳醇醬油そば」と、いずれもそうそうたる面々。
で、そのうちの麺屋169の看板メニュー「芳醇醬油そば」1食を調理・実食してみた。
写真をご覧のとおり、いずれも麺、スープ、具材で1セット。ネギなどの生鮮トッピングやごま・のりといった食材は、自分で用意する。作り方も共通していて、スープと具材を袋に入れたまま湯煎して、麺を茹で合わせて、別途購入した好みの食材を加える。
さて、自然解凍が始まらないうちに、さっそく「芳醇醬油そば」を作ってみる。調理道具で用意するのは、基本的に大きめの鍋2つとザルだけだ。指示を読むと、「鍋2つに水を張り、それぞれ必ず沸騰させる」とあり、まずこの作業から始まる。沸騰したら、片方の鍋にスープと具材をパックのまま投入、もう一方には麺を入れる。
どのくらいの時間加熱するかは、指示に書かれているので、キッチンタイマーを使って厳密に計るのがコツ。スープと具材は同じ鍋に入れても、それぞれ加熱時間は異なるので注意。
キッチンタイマーが鳴ったら、念のため麺を一本味見。茹で具合も丁度良かったため、麺をザルで湯切りして丼へ。スープと具材も封を開けて入れる。最後に、好みの食材を盛りつければ完成。今回は冷蔵庫にありあわせの食材で試したが、お勧めの具材はウェブサイトに記載されている(麺屋169の場合、葱、味玉、あさり、海苔がお勧め)。
ラーメン老舗の逸品と身構えてのぞんだが、ご覧のとおり調理は意外なくらい簡単であった。料理の素人でも難なくできるよう、3パックでお膳立てがなされているため、まったく肩肘はらず、特別なテクニックも要さずに作れるようにしたのは、さすがだと思う。
「琥珀」も同様の手順で調理し、小分けして4人の知人に食べてもらい、忌憚ない感想を聞いたが、「麺にこしがあり、スープ・具材ともに冷凍という先入観を吹き飛ばすおいしさ」と共通した賛辞を受けた。さすが、北海道遺産の選び抜かれた店のことだけはある。
北海道サブスクリプションプロジェクトの代表、多田信幸さんによれば、「本プロジェクトを立ち上げるにあたり、まずは保健所に何度も足を運び、店主とも打合せを繰り返し、より安全な品質の確保に力をいれた」という。物件調達、設備構築、人員・資金の確保から、各店主から理解を得ることまで、相当な苦労があったようだ。
今は、2店から1食ずつ送られる「名店ラーメンコース」のほかに、1店から2食ずつの「名店ラーメンコース 同店2食パック」。また、道内有名カレー店のカレー版「北海道厳選カレーコース」、そして名店のラーメンを単品注文できる通常のオンライン通販も展開中だ。
サブスクは開始早々大好評だそうで、「“海鮮コース”や“北海道極上グルメコース”などラインナップを増やし、さらに海外へと展開していきたい」と、多田さんは今後の展望を語る。コロナ禍という逆境をバネに北海道ラーメンの全国的躍進を目指す姿勢から、われわれが学ぶべきことは多そうだ。
文/鈴木拓也(フリーライター兼ボードゲーム制作者)