多くの電力会社は頻度が高まる異常気象の発生で、財務リスクを問題視
気候変動は異常気象の原因ともなり、電力網にも影響を及ぼしている。
コスト効率よく迅速に電力網のレジリエンスを確保するためには、デジタルや新興テクノロジーを活用して電力システムの柔軟性を高めることが欠かせない。
例えば、電力供給の冗長性、分散型発電、蓄電技術を積極的に活用することで、異常気象時の電力供給の維持や、電力網の被害からの迅速な復旧が可能になる。
アクセンチュアの調査によると、電力会社の経営幹部の95%が「温室効果ガスの排出による気候変動が、過去10年間に起こった異常気象の要因である」と考えていることが判明している。また、90%が「今後も異常気象の発生頻度が高まり、送配電事業の財務リスクが上がる」と回答した。レポートの詳細について見てみよう。
電力網のレジリエンス強化
調査対象者の95%が「電力網全体のレジリエンスを強化する上で、電力網の再構成、組込型の蓄電、冗長化、電圧管理などによって、電力網の適応力を高めることが今後10年間で重要になる」と考えている。また、93%は「長期的なレジリエンスを実現するためには、電力システムの柔軟性向上が最もコスト効率に優れた方法だ」と回答した。
さらに、93%は「より高度な保護設備のほか、車両を電力網につなぐV2G(Vehicle to Grid)、電力網の自動修復、ドローンによる損傷検査など、レジリエンスに関する革新的なソリューションの実証を行っている」と回答した。
しかし、電力網の柔軟性を高めることは容易ではない。経営幹部の95%は「太陽光発電、風力発電や、蓄電技術など分散型発電の活用が、電力網の長期的なレジリエンスを支えるカギになる」と回答した一方で、84%が「比較的小規模な分散型発電設備の場所や規模、規格、運用状態に関する情報が不足しているため、短期的なレジリエンス構築に支障を来している」と回答した。
また、業界全体にわたる指針や基準のあいまいさが、レジリエンス強化の取り組みを阻害していることも判明した。このほか、電力網のレジリエンスにおいて、電力業界の経営幹部が懸念している天候は、強風(23%)、洪水(17%)、凍結や吹雪(15%)が挙がった。
アクセンチュアの送配電事業を統括するマネジング・ディレクターのアモル・サビニス(Amol Sabnis)は次のように述べている。
「電力会社は、電力網の最適化戦略に対して大規模な投資を行い、政策立案者や顧客および利害関係者と協力することで、長期的なレジリエンスの強化を図ることが可能になります。
しかし、新型コロナウイルス(COVID-19)によってレジリエンス強化がさらに急務となる中、修理作業員への感染防止の配慮とともに、大規模な災害時における作業員への支援や保護のあり方について新たな課題が生じています。
こうした課題を解決するためには、検温、ソーシャル・ディスタンスの確保、大気モニタリングなどで、業務中の従業員の健康を守ることに加え、業界全体が一丸となって、人間とテクノロジーの協働を促すことが重要になります」
調査方法
アクセンチュアのデジタルグリッド調査は、電力網のデジタル化がもたらすインパクトを分析する年次調査だ。最新調査では、電力業界に従事する206人の最高経営幹部や役員クラスの経営幹部を対象に、28カ国(日本、アルゼンチン、オーストラリア、ベルギー、ブラジル、カナダ、中国(香港を含む)、デンマーク、フランス、ドイツ、インド、インドネシア、アイルランド、イタリア、マレーシア、オランダ、ノルウェー、フィリピン、ポーランド、ポルトガル、シンガポール、スペイン、スウェーデン、スイス、タイ、英国、米国)で調査を行った。調査は2019年11月~2020年1月にかけてオンラインで実施された。
構成/ino.