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加速する運転手の高齢化とコロナ禍で退職者が急増するタクシー業界のリアル

2020.10.03

■連載/あるあるビジネス処方箋

 コロナウィルスの感染が拡大し、経済界が深刻な影響を受けている。その1つが、タクシー業界である。今回は、タクシーや観光バス、自動車教習所などの労働組合「自公総連」の菊池和彦 書記長に取材を試みた。

 この業界ははるか前から、根深い問題を抱え込んでいる。今回の取材ではそこまでアプローチをしたい。感染拡大のところで思考を停止すると、本質的な問題が見えてこないからだ。タクシー運転手の労働の実態に迫りたい。

Q コロナウィルス感染拡大の影響はいかがですか?

 ここ数か月で労働環境は、さらに悪化しつつある。特にシニアの運転手が退職するケースが目立つ。乗客が減り、それに伴い、賃金が減る。そのうえ、感染でもしまったら…と思っているのか、次々と辞めていく。もともと、賃金や労働時間など労働条件は他の業界に比べて総じて悪い。ここを放置したままで長年いたことで、労使関係にもともと問題があったのだと思う。

Q 私も同感です。コロナウィルス感染拡大にだけ、目を奪われるべきではないですね。事の真相が見えてこない。ところで、タクシーの運転手のことを「社会の底辺」といった見方をするし人がいます。どのように受け止めますか?

「確かに、タクシーの運転手は、ある意味で企業社会の“底辺”のような印象を与えているのかもしれない。たとえば、採用試験では、学歴や職歴について不問にして雇い入れる場合もあると聞く。結局、辞めていく人は多く、出入りが激しい。それでも私は“底辺”だとは決して思わないが、労働環境を大幅に変えていかないと、状況は変わらないのでないか。

 労働時間は、他の産業の労働者と比べると確かに多い。厚労省の「賃金構造基本統計調査」(2018年)によると、自動車運転労働者の2018年の年間総労働時間は全産業平均が2192時間で、バスが2410時間、タクシーは2293時間。

 タクシーは、2000年では2510時間(全産業平均は2218時間)であったことを踏まえると、減りつつあると指摘する人がいる。その捉え方には、私は否定的だ。“タクシーの年間総労働時間は2293時間”といった数字は、実際の状況とは大きな差がある。減ったかのように見えるのは、「定時制乗務員」(通常、月に8回勤務)と呼ばれる年金受給の運転手や、嘱託など短時間雇用の運転手が増えているからだと思う。フルタイム(通常、月12回勤務)で勤務する正社員のドライバーの労働時間は、実は2000年前後とさほど変わらない。

 通常、都市部では、多くのタクシー会社は運転手の勤務シフトは隔日が多い。1日置きに2労働日分働く。この場合、たとえば、月、火と勤務し、水は休日、木、金と勤務となる。労働時間規制の上限はタクシーでは、21時間。始業を午前8時とすると、休憩、残業を含み、翌朝5時となる。正規社員の運転手の多くは、このシフトで月平均12回勤務しているケースが多い。この場合は、実労働18時間×12回×12か月=2592時間となり、2000年の2510時間に近くなる。やはり、年間総労働時間が減っているとみるのは、一面的であるのではないか。

 このような誤った感覚に陥るのは、特に60代後半以降の年金受給の運転手が増加していることを見逃しているからだ、と思う。(中堅、中小企業などでは)65歳前までの賃金がなかなか伸びないために、定年後にタクシーの運転手をする人が増えているととらえることもできる。このあたりの背景まで含めて、年間総労働時間を考えるべきではないだろうか」

Q 今回の取材前に、都内の大手タクシーの運転手(60代後半)に労働状況を聞くと、同じ営業所に勤務する運転手で60代以降の中に、急きょ、亡くなる人がいるようだ。仮眠室で亡くなっていた人もいるみたいでした。その運転手は、「過去10年程で3人の遺体を仮眠室で見た」と話していた。本当にこういう問題が生じているのでしょうか。

「それに似た話は、我々も労働相談や組合へのアンケートを通じてよく聞く。タクシーの運転手の多くは長時間に及ぶ労働で、深夜に及ぶケースが目立つ。座る時間が長いこともあり、脳や心臓の循環器系の疾患になる人もいる。座りっぱなしが長時間に及ぶために心身に相当な負担になっている場合があることは否定しがたい。

 直近3年間では、脳、心臓疾患の過労死の認定率は、全産業は「0.48」だった。2015年∼17年ではトラックはその9.8倍、バス・タクシーは3.9倍になった。過労死が認定される場合、発症前の残業が月で45時間を超え、80時間以上であることが必要になる。タクシーの運転手が、他の産業の労働者に比べ、労働時間が相当に長い傾向があることは間違いないのではないか。

 運転中の事故も、以前に比べると増えている。国土交通省「事業用自動車事故統計年報」の「運転手の健康状態に起因する事故等の件数」によると、2006年はタクシーの事故件数は29件、2016年は68件になっている。06年から16年までほぼ毎年、増加している。高齢の運転手が増えていることも理由に挙げられるだろうが、乗客などを巻き込んだ事故になりうるだけに深刻な問題だと我々は認識し、政府や経済界に訴えている。

Q 報道によると、「新卒者(大卒)でタクシー会社に運転手として入社するケースが増えている」とある。世代交代が進み、業界はある程度は変わっていくのではないでしょうか?

 そのような動きが、大手タクシー会社の一部であることは我々も心得ている。若い人を採用しようとする試みは好ましいが、雇用はその後まで含めて考えるべきではないか。我々が把握している限りでいえば、新卒で入った運転手の中に早々と辞めている人もいる。労働条件や就労環境に不満を持つ場合もあるのでないか。ある人は乗客からのパワハラに怯え、辞めたという。少なくとも、「新卒者の採用が、成功している」とは言い切れないだろう。

 一方で、80代以上の高齢の運転手が増えていることにも懸念するものがある。実際、高齢の運転手が事故を起こすケースが目立つようになってきた。特に地方で多い。タクシー会社が労働力不足を補うために、そのような高齢を雇おうとしている動きを憂慮し、「運転手の定年は75∼80歳までにしたほうがよいのでないか」と訴えている。まずは、労働環境を全産業の平均的なレベルにまで整えるのが先決だと思う。高齢者に頼るよりも、若い人にとって魅力のある職場にするほうが大切ではないか。

 賃金についても、状況は変わっていない。厚労省の「賃金構造基本統計調査」(2018年)ではタクシーの運転手(全国で約28万人)は全国平均で年収は304万円で、前年が294万円だった。平均年収が300万円を超えたのは2000年以来であり、18年の全産業の男子常用(正規)の平均年収が502万円であるのを踏まえると、依然として198万円の差がある。しかも、労働時間は全産業の平均よりもはるかに長い。

 本来、労働組合が労働条件の改善に取り組むべきであり、我々もその思いは以前と変わらない。だが、運転手の高齢化が進み、組合員の数が減り、組合活動に参加する人が少なくなっている。状況は、ますます悪化しているのが、現実なのだ。地方では過疎が進み、車の運転ができない高齢者や都内でも介護が必要な人が増えている。タクシーの運転手の存在はもっと注目され、社会で認められ、高く評価されるべきだと思う。

取材を終えて

 コロナウィルス感染拡大に伴い、多くの会社が苦しんでいる。新聞やテレビは、それをセンセーショナルに報じるように私には見える。それは止むを得ないのだろうが、なぜ、経営難であるのかと深く考え、報道するケースが少ないのではないか。実は、タクシー業界のように、はるか前から深刻な問題を抱えていたがゆえに今回、一段と危機に陥った業種や会社は多い。つまりは、業界が時代の流れについていくことができていないのだ。

 今回のピンチをきっかけに、このような問題を少しでも解決するように試みるべきだと私は思う。マスメディアもそこまで踏み込んで報じるべきだろう。

文/吉田典史

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