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3世紀半の歴史を紡ぐ石川県の伝統行事「あばれ祭」の歓びの声を聞かせたという日本酒の味

2020.10.05

「神事」が岐路に立たされている。

新型コロナウイルスは、我々の生活を一変させてしまった。当たり前が当たり前でなくなり、親しい友人や家族、恋人までも分断した。「外出や移動ができない」ということがこれほど苦痛だったのか。2020年の人類は、自宅の中での長い長い1日を余儀なくされている。

が、どのような現象にも必ずプラス面とマイナス面がある。あえてプラス面を挙げれば、最先端テクノロジーの利用が各方面で進められているという点だろう。それは日本各地の伝統行事や地域物産、そして冒頭の「神事」にも多大な影響をもたらしている。

石川県の荒行事「あばれ祭」

石川県能登町宇出津では、毎年7月に『あばれ祭』という行事が行われる。

この行事は、何も知らない人間がおぼろげに連想する「祭」ではまったくない。

「キリコ」と呼ばれる巨大奉燈が、担ぎ手の掛け声に押されながら道路を進む。県外から来た見学者は、誰しもその煌びやかな巨体に唖然となる。だが、この巨人は決して穏やかな性格ではない。

街中に設置された、まるで怪物のような大きさの松明が夜空に向けて焔を上げる。その周りをキリコが走る。男も女も老いも若きも、舞い上がる無数の火の粉に熱狂し、歓びの声を喉の奥から捻り出すのだ。

あばれ祭はそれで終わらない。次は「あばれ神輿」の出番である。鉄の腕を持つ屈強な男たちが神輿を担ぎ、町を練り歩いたあとはそれを地面に叩きつけ、川に落とし、轟々と燃え上がる焚き火にくべてしまうのだ!

火と水と怒号と歓喜。その集合体が能登宇出津のあばれ祭である。

しかし、2020年のあばれ祭はキリコと神輿の巡行が中止になった。理由は冒頭の通り、新型コロナウイルスの感染拡大である。その入れ替わりとして疫病の終息を願う鎮疫祭が催されたが、この鎮疫祭は記録に残る限りでは1860(万延元)年以来の開催だ。

キリコと神輿の巡行中止は、3世紀半に及ぶあばれ祭の歴史の中では初めての事態である。

あばれ祭は「平和の象徴」

17世紀中頃、宇出津で疫病が流行した。

それを鎮める目的で、桜井源五という人物が京都の祇園社から牛頭天王(ごずてんのう)を勧請し、祭を実施した。直後、大きな蜂が病に侵された人を次々に刺した。

が、彼らは落命するどころか、たちまちのうちに病を治してしまった。

「牛頭天王が我々を救ってくれた!」

これがあばれ祭の始まりである。

桜井源五が宇出津に移住したのは1664(寛文4)年だそうだ。

1664年の日本は、すでに徳川幕府体制下で盤石の平和を確立していた。豊臣を滅ぼした大坂の陣も天草・島原の乱も、もはや過去の話。明朝再興を目指す鄭成功が日本に援軍を求めたこともあったが、江戸の幕閣はそれを黙殺し続けた。何が何でも対外戦争を回避する徳川幕府の方針は、大衆の情熱を地域振興や平和的産業に向けさせる流れを作った。

同じ頃のヨーロッパでは、フランスを中心にした大戦争の嵐が吹き荒れようとしていた。1665年、カルロス2世がスペイン王の座を継承。このカルロス2世はハプスブルク家の近親婚が限界に達した人物で、子孫を残せる身体ではなかった。そしてこの戴冠にフランス王ルイ14世が大反対した。自分の王妃はスペイン前王の娘だから、継承権も自分にあるという主張だ。これをきっかけに1667年、フランスとスペインの間でネーデルラント継承戦争が勃発する。

その後、仏蘭戦争と再統合戦争、ファルツ継承戦争を経て、フランスが再びスペインの継承問題に介入。全ヨーロッパを巻き込んだ大戦争に発展する。宇出津の男たちがあばれ神輿を担いでいたその時、フランスの男たちは銃を担いで戦場に赴いていたのだ。

17世紀から18世紀にかけてのヨーロッパでは、王家の継承問題や民族独立問題が表面化して常に戦争が発生していた。それとは対照的に、極東アジアは徳川幕府の外交方針が奏功してまったくの無風状態だった。宇出津のあばれ祭を始めとした日本各地に残る荒々しい神事は、江戸日本人が対外戦争をする必要がなかったからこそ生まれた伝統行事である。

そのようなイベントが中止になってしまったことは、文として書く以上に深刻な問題だ。

日本酒の香りと辛さ

クラウドファンディングMakuakeにこのようなものが出ている。

あばれ祭の「歓びの声」を聞かせながら製造した日本酒だ。祭の音源をAIが解析し、人々が歓喜の時に発する声だけを抽出して、それを醸造タンクに設置のスピーカーに流す……という仕組み。

これは神事である。大相撲の土俵上で、力士が塩を撒いたり四股を踏むのと同じことだ。世界最先端の技術が組み込まれた、次世代の神事と表現すれば正解か。

その結晶が『継音(つぎね)』という日本酒だ。

筆者の手元にも試供品が届いたので、早速味わってみた。

蓋を開けてグラスに注いだ瞬間から、日本酒の香りが筆者の鼻を掴んだ。そう、この香りこそが日本酒たるゆえんなのだ。筆者の稚拙な文章力ではなかなか表現できない点が悔やまれる。

匂いを楽しみつつ、一口飲んでみる。やはり辛い。が、それは舌の付け根で広がる心地の良い辛さである。今年で36歳になる筆者は、日本酒ならではのこの味わいをようやく理解できるようになった。

美味い。本当に美味い。ひと口、またひと口と飲む度に、筆者は多幸感を含んだ溜め息をつく。

今日という日に起こったことをいろいろと思案しながらも、明日に向けてリセットできる酒。継音にはただの嗜好品を超越した付加価値が隠されている。

歴史を紡いだ音と共に

何となく、Makuakeのページを見てみる。この継音は1本(720ml)につき3000円で出展されていると書いてある。

これは高いのか安いのか。そのあたりは受け止め方によるだろう。筆者はライターとして、額面の数字に踊らされないよう気をつけているつもりだ。

ひとつ断言できるのは、この酒1本で金曜日の夜が素晴らしいひとときになるということ。小銭で買える缶チューハイでは、このような美しい時間は手に入りにくい。

これを最近では「体験価値」と呼ぶそうだが、継音が三十路も半ばを迎えてしまった静岡出身のしがない男に大きな清涼を与えてくれたのは、否定しようもない事実だ。

そして筆者は胸躍らせる。自分は今、3世紀半の歴史を紡いだ音を味わっているのだ。こんな幸福は滅多にあることじゃないだろう、と。

※クラウドファンディングには立案会社の問題でプロジェクトが頓挫する可能性や支援金が戻らなくなるリスクも稀にあります。
出資に当たっては、読者様ご自身でご判断いただきますようお願い致します。(編集部)

【参考】
疫病払い「あばれ祭」の歓声で醸したAI日本酒「継音」をオンライン飲みで楽しもう!-Makuake

取材・文/澤田真一

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