めくるめく進化を遂げる渋谷に、ご当地クラフトビールが誕生した。その名も「渋生」。9月26日から渋谷区内の飲食店、ホテル、小売店で発売される。
東急プラザ渋谷GRAND SESSIONで開かれた「渋生」のお披露目会。左から、「渋生」ラベルをデザインした千原徹也さん、プロジェクトチームの合同会社TNZQの五十嵐糸さん、渋谷区観光大使の小宮山雄飛さん、コエドブルワリー社長の朝霧重治さん、渋谷区観光協会の小池ひろよさん。
3種の酵母でダイバーシティ&インクルージョンなビール
渋谷にはクラフトビールが飲める店は多々あるが、渋谷を代表するビールというとあまりピンとはこない、そんな街である。そこに渋谷区観光協会が渋谷ブランディングの一環として、クラフトビール「渋生」(しぶなま)という直球を投げ込んだ。
「渋生」(しぶなま)/YEAST DIVERSITY ALE:渋生のラベルにはハチ公、銀座線、スクランブル交差点などなどが盛り込まれ、複数のタイポグラフィが混在している。いろいろありのダイバーシティ感満載。瓶333ml入り、390円(税抜き)
製造元は、クラフトビール界でおなじみコエドブルワリー。しかし。コエドといえば埼玉県川越市生まれのビール会社である。渋谷ブランドなのになぜコエド? 一般財団法人渋谷区観光協会の小池ひろよさんに聞いた。
「コエドさんといえば、地元の素材を副原料に使ってビールを仕立て、そのビールで地元を元気にしてきたブルワリーさん。クラフトビールを通じて街の活性化させるというコンセプトが、今回の渋生プロジェクトと同じ方向だったので、コエドさんにお願いしたのです」
一般財団法人渋谷区観光協会・理事兼事務局長の小池ひろよさん。
その「渋生」のコンセプトはダイバーシティ&インクルージョン。今の時代に欠かせないキーワードだ。このオファーに対して、コエドブルワリーが打ち出したアイデアが「3種の酵母の共演」だ。3種といっても、ビール酵母を3種類ではない。驚くなかれ、ビールと日本酒とワイン、異なる3つの酒の酵母を使用している。
コエドブルワリーの社長、朝霧重治さんは、このチャレンジなビールについてこう語る。
「多様性を表現するには? と考えたときに、いろんな酵母を組み合わせることでお酒の共演をしてもらおうと考えました。3つの酵母が織りなす複雑な味わい……、日本酒のまろやかな酸味、ワインのフリーティで華やかな香り、ホップ由来のビール特有の苦みを楽しんでいただきたいと思います。
麦も大麦だけでなく小麦も使っています。ビールの面白いところは、いろんなものを組み合わせることで個性が出る、複雑な味わいが出せることだと思います。もちろん複雑なだけでなく、それらのバランスを取りながら、おいしいビールに仕上げる。何度も試行錯誤しながらつくり上げました」
試飲すると朝霧さんの説明の通り、“複雑な”味がする。言い換えれば“多様な”味わい。いろいろな風味がするのにスッキリした飲み口、後に残る柑橘系の苦みなどに、明確なオリジナリティが感じられる。
アルコール度5%、IBU(苦みの指数)23.6。柑橘系の風味を残す爽やかな飲み口。
「渋生一丁!」が聞こえてくる日は近い?
そもそも渋谷区観光協会はなぜクラフトビールを造ろうと思い立ったのか。実は、クラフトビールが好き過ぎてビアジャーナリストになってしまったというプロジェクトチームTNZQ の代表五十嵐糸さんの発案だ。
「クラフトビールって、その土地に好まれる工夫がなされて、その土地らしいビールがあるんですよね。その土地の名物料理によく合う味とか。では、渋谷のビールってどんなのだろう? と。渋谷といえばトレンドの変化の速さが特徴ですけれど、そのせいか、京都の八つ橋のような伝統の味がないんですよね。後世に語り継がれる味がないというのは、ちょっとさびしい。渋谷に帰って来た人が、渋生を飲んで“あー、帰ってきたな”とホッとしたり、渋谷に来た人が“渋生を飲んで帰ろう”と記念に楽しんでもらえる、そんなビールがあったらいいな」(五十嵐さん)ということで、ご当地ビールづくりが始まった。
たしかにこれまで、渋谷にはソウルフード、ソウルドリンクがなかった。
渋谷区観光協会の小池ひろよさんは、「種類の豊富さといい、カジュアルな雰囲気といい、クラフトビールはダイバーシティ&インクルージョンを表現できる飲み物です。アメリカのブルックリンにはブルックリン・ラガーがあるように、渋谷には渋生がある、そんな存在になれたらと思っています」と語る。
「渋生一丁!」「渋生くださ~い」。
大転換期のまっただ中にある渋谷の、居酒屋やレストランでそんな声が聞こえて来る日も近い?渋生 https://www.shibunama.com
取材・文/佐藤恵菜
こちらの記事も読まれています