
コロナ禍によって企業や店舗が大きな影響を受けている中、それを救うべく、事業者向け保険がぞくぞく登場している。特に店舗に生じるリスクにはどんなものがあるのか。リスクごとに保険商品の例を集めてみた。
1.テイクアウト・デリバリーの食中毒リスク
コロナ禍ではテイクアウトやデリバリーを強化したり、提供を始めたりした飲食店は多くあるだろう。しかし食中毒のリスクはテイクアウトやデリバリーではさらに不安が高まる。
厚生労働省の調査(※1)によると、食中毒の発生場所は半数以上が飲食店であり、東京都では、食中毒発生場所の約8割(※2)が飲食店や食堂というデータもある。
※1 厚生労働省調査「令和元年食中毒発生状況」より
※2 2019年東京都福祉保健局調査「食中毒発生状況」より
万が一、食中毒が疑われる場合には、保健所による厨房の立ち入り検査などが行われ、店舗が原因と判断された場合、業務停止命令書が届き、強制的に数日間の営業停止処分を受けることになる。さらに被害に遭われたお客様への賠償金やお見舞金の支払いも発生する。
こうした万が一の状況に備えてリスクヘッジしておくことは重要といえる。
USEN-NEXT GROUPのUSEN少額短期保険株式会社が2020年5月8日から販売している店舗の運営リスクに備える保険「ビジネスリスクGuard」の飲食業向けには、食中毒が発生した場合の賠償費用や営業停止による損失の補償が含まれる。
USEN少額短期保険の担当者によれば、発売以来、当保険には大きな反響があるという。その背景には、コロナ禍において飲食店は新たな販売経路を模索し、デリバリーやテイクアウトなどのサービスを展開するケースが増えているため、食中毒に対する意識がより高くなっていることがあるのではないかとのこと。
実際、コロナでテイクアウトを始め、リスクを懸念して契約に至ったケースは非常に多いという。
「事業形態が変わり、テイクアウトがメインになっている店舗も増えています。また店内提供だけではなくデリバリーを始めたことで食中毒のリスクをさらに意識し始めたお客さまなどのお申し込みが増えました」(USEN少額短期保険担当者)
ビジネスリスクGuardは、一般的な火災保険では補償がされない店舗の運営リスクを包括的に補償する保険として開発された経緯があり、食中毒などの「事業リスク補償」のほか、「災害休業補償」もある。コロナによる休業は補償外だが、台風など自然災害により損害を受け休業した場合、その損失について休業保険金の支払いが発生する。台風が増えてきた今の時期は、自然災害による休業補償も早めの準備が必要になるだろう。
2.テイクアウト・デリバリーの客とのトラブル・配達中のリスク
テイクアウト・デリバリーは、食中毒リスクのほか、配達中の第三者への賠償事故やスタッフ自身のケガ、SNS上での悪評の拡散などに関するリスクも伴う。
東京海上日動火災保険は2020年7月より、飲食店向け保険「テイクアウト・デリバリー総合補償プラン」を販売開始した。
新たにテイクアウトやデリバリーなどの「中食」サービスの提供を開始した飲食店の事業者から、「多様なリスクを包括的に補償する商品に加入したい」という多くの要望があったのが開発の背景だという。
当プランには、テイクアウト・デリバリーで提供したものが原因で生じた「食中毒に関する補償」のほか、SNS上での根拠のない悪評について弁護士へ相談した場合の費用などの、「客とのトラブルに関するリスクの補償」、デリバリーした際に誤って飲食物をこぼして玄関を汚したり、配達中のスタッフが交通事故に遭い、入院費用がかかったりした際などの、「配達中のリスクの補償」が含まれる。
テイクアウト・デリバリーは事業活動が「店内」から「店外」へと拡大し、配達スタッフが店外で動くことになる。従来の状況との違いをよく見極め、備えておくことが重要であるようだ。
3.コロナ休業によるリスク
コロナによる休業を補償する保険についても、各保険会社から登場している。
損害保険ジャパン株式会社は、2020年8月下旬に、感染症発生による休業リスクに対する補償の必要性が高まっていることを受け、新型コロナウイルス感染症による休業損失を新たに補償対象とする商品改定を発表した。
同社は2020年5月に食中毒・感染症による休業損失を補償する商品で、施設で新型コロナウイルス感染症が発生し、保健所等の指示に基づき施設の消毒を行った場合等の費用等に対し、定額で20万円を支払う商品改定を行った。しかし中長期の休業補償の必要性のニーズが高まっていることを背景に、感染症による休業補償の対象に新たに新型コロナウイルス感染症を加えた。
対象となる保険は「企業総合補償保険」で、「食中毒・感染症補償特約(休業損失補償条項)」、「食中毒・特定感染症利益補償特約(費用・利益補償条項)」のいずれかの特約を付帯している契約となる。
改定内容は(1)新型コロナウイルス感染症に関する補償と(2)未知の指定感染症に関する補償の2つで、新型コロナを含む特定の感染症発生により、施設の営業が休止または阻害されたために生じた損失に対して、休業日数等に応じて保険金が支払われることなどが含まれる。
同様の理由から、三井住友海上火災保険とあいおいニッセイ同和損保も、新型コロナウイルス感染症を新たに補償対象とした休業補償商品を開発、販売することを2020年6月下旬に発表した。
新型コロナの収束がまだ見えない今、コロナ休業リスクには早々に備えておきたいというのは店舗を運営する立場であれば当然のことだろう。
飲食店のテイクアウト・デリバリーに関するリスクや、コロナ休業によるリスクをカバーする保険商品を紹介してきた。これに加えて、何が起きるかわからない今の時代、台風などの自然災害についても考慮するなどして、万全のリスクヘッジをしておきたいものだ。
取材・文/石原亜香利
こちらの記事も読まれています