
■連載/阿部純子のトレンド探検隊
新生活様式が鍋料理にも波及、一人一人が個別で楽しむ新しい鍋スタイルに
ぐるなびではビッグデータ、アンケート調査などを基に、毎年その年に流行すると予想される「トレンド鍋」を発表。2009年よりスタートし今年は12回目となる。昨年のトレンド鍋「発酵鍋」は、健康志向の高まりから健康食材の発酵食品が注目され、食トレンドに敏感な年齢層から特に支持が集まった。発表後は多くの飲食店でもメニューで出されて話題となり、その年の鍋商戦を盛り上げた。
2020年のトレンド鍋が発表され、小さい鍋で取り分けて出す「みんなでこなべ」に決定。鍋料理といえば大きな鍋をみんなで箸をつついて楽しむものだったが、コロナ禍の状況で、鍋にも新しい生活様式が求められている。ソーシャルディスタンスを保って、家族や友人との鍋でも、一人一人が個別で楽しむ「こなべ」は、今年を象徴する新しい鍋スタイルだろう。
小鍋そのものはコロナ前から注目が高まっていた。単身世帯や、家族そろっての食事ができない、野菜、肉が同時に一つの鍋で食べられるという観点から小さい鍋が人気に。ぐるなびビッグデータでも、小鍋の取り扱い指数は1年間で約1.3倍の伸び率を示している。
また、一人鍋業態の増加も小鍋人気の要因。近年、おひとり様の飲食が増えていく中で、しゃぶしゃぶやすき焼きで一人鍋を提供する店も増えている。おひとり様で検索される数はここ4か月で約3.5倍に増加。コロナ禍で楽しむ外食スタイルとして、おひとり様が注目されている。
加えて、コロナ以降、感染予防の観点から飲食店でも大皿料理は避けて個々に取り分けた料理の提供が推奨されている。ぐるなびが飲食店に行った今後の宴会に関するアンケートでも「料理をひとりずつ配膳」が最も多い回答に。鍋に関しても個別での配膳を意識することが新しいスタイルとして求められている。
テイクアウトもこの5か月で約3.6倍になっており、冬の代表料理である鍋ものもテイクアウトメニューで、一人用のカップスタイルで提供する形で広がりを見せるのではないかと予想されている。
ぐるなびのアンケートでは約77%が小鍋を食べてみたいと回答。だし、具、〆を自由に選べる、味変が楽しめるといった、個人の好みに合わせて食べられる小鍋が求められていることがわかった。ぐるなびでは、管理栄養士の柴田真希さんがレシピ監修を行った「みんなでこなべ」3品を提案する。
〇「トマト風味! 進化系バターもつ鍋」
定番のもつ鍋を2020年風にアレンジ。具材はもつや緑黄野菜をふんだんに取り入れている。緑黄色野菜、チーズにはビタミンA、C、Eが豊富に含まれており、風邪が流行する季節に積極的に取り入れたい食材。にんにく入りで冬でもぽかぽかと温まる。
小鍋にすることで好みに合わせてバターを入れたり、食べている途中でチーズを加えたりと個々で自由にアレンジできるのもポイント。店では人気のラクレットチーズをかければおしゃれなもつ鍋に変身。
〇「味変!あごだしみそしゃぶ鍋」
最初はシンプルにあごだしで豚肉や白菜などの野菜をいただく。炒めた長ねぎとにんにくに味噌と豆板醤を加えた「焦がしねぎ味噌玉」が溶けだしていくと味が変化。あごだしのさっぱり味からパンチの効いた味噌味となり、見た目だけでなく香りや風味の変化も楽しめる。味噌玉の量は調節して、好みの濃さに仕立てることができる。
お腹の調子を整え、免疫力を高める効果が期待できる発酵食品の味噌、ねぎ、にんにくなどの香味野菜を加えてビタミンB1の吸収率をアップ。〆の楽しみとしては卵や天かす、チーズ、黒コショウなど好みに合わせてトッピングした、オリジナル雑炊もおすすめ。
〇「世界を旅するピリ辛スパイス鍋」
豆乳ベースのシンプルな鍋を、個性の異なるピリ辛スパイスで飽きることなく楽しめる鍋。北アフリカ、アジアなどのスパイスを好きなように組み合わせることで、旅行気分も味わえる。
ベトナムの「サテトム」は、海老風味のピリ辛スパイスで海老の旨みにさわやかなレモングラスの香りが特徴。中国の「麻辣醤」は山椒や花椒、唐辛子を使ったしびれる辛さで、近年日本でも人気のスパイス。北アフリカの万能調味料「ハリッサ」はパプリカをベースに、香り豊かなスパイスがふんだんに使われている。
小鍋の魅力は「カスタマイズしやすいこと」
発表会では、和食料理店「凧(はた)」のオーナーシェフで、トライアスロン エイジグループ日本代表として、世界選手権出場の経験を持つ料理家・高橋善郎さん、日本全国で年間800店以上の飲食店を回っている、“ぐるなびグルメ番長”こと、ぐるなび エディトリアルプロデューサー・松尾大さんによるトークセッションが行われた。
松尾さん「今年のトレンド鍋は『こなべ』。大鍋をみんなでつつくのが嫌という人、自由に食べたいという人が増えたことにより、小鍋は数年前から出てきていたが、そこにコロナの状況が重なった」
高橋さん「僕が『遅く帰った日のきちんと小鍋』を出したのが2018年11月。オリンピックに向けて健康志向の高まりや、家庭でも少人数で食事をする人が増えたという背景があった。小鍋はお昼に食べても、遅く帰ってきたときでも栄養が摂れるし経済的。大鍋はいろいろな食材が加わることで、旨みが生まれるが、小鍋も家に余っている野菜を入れるだけで作ることができるので無駄なく使える」
松尾さん「一昨年、しびれ鍋があったが、僕は何でも山椒をかける。特に和歌山のぶどう山椒が好き。山椒をかければ塩分も少なめで済む」
高橋さん「鍋は基本、だしを使っているので、塩分を抑えめで調理できる。僕はすごく海苔が好きで、海苔も旨みが詰まっているので、刻み海苔でも板海苔でも鍋に入れるとおいしくなる。海苔は家庭だと使いきれなくて湿気ってしまうことも多いが、鍋になら湿気った海苔でも使える。味変にもおすすめ」
高橋さん「小鍋のいいところはカスタマイズしやすいこと。鍋はお酒が付き物だが、鍋が1種類だとお酒も限られてしまう。小鍋なら合わせるお酒も増えるのではないか。ワイン好きならトマトベースの小鍋を作ればいいし、日本酒好きなら定番のあっさり鍋を作ればいい。
鍋に欠かせないのがだし。かつおと昆布から取ってもらうのがベストだが、忙しい方なら顆粒だしでもOK。だしを使うことで旨みが加わり、減塩にもつながる。複数の素材を入れる鍋料理の味をだしがまとめてくれる。1ℓの麦茶を入れるポットに4~5㎝の昆布1枚を入れて12時間ほど冷蔵庫に置いておくだけで昆布だしが取れ、さらに鰹節を加えておくと合わせだしが取れる」
【AJの読み】新生活スタイルに合った「こなべ」
コロナ以前から、鍋を大勢でつつくということに抵抗がある人は少なからずいたと思う。最初はきちんと取り箸を使っていても、お酒が進むうちに直箸で鍋をつつく人がいるからだ。
私は辛いのが苦手でさらに暑がりのため、食べたとたんに汗が噴き出るチゲ鍋やしびれ鍋が苦手なのだが、多数決で辛い鍋にメニューが決まれば仕方なくほんの少しつついていた。小鍋なら個々で味を選べるというのも大きな利点。ただ、大きな鍋を囲んで和気あいあいという雰囲気がなくなるのは、少し寂しい気もするが。
文/阿部純子
こちらの記事も読まれています