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【開発秘話】40万冊以上売れているキングジムのクリアファイル「カキコ」

2020.09.26

■連載/ヒット商品開発秘話

 クリアファイルは書類の保管に便利な反面、何かを書き込みたいときはいったん取り出さなければならない。取り出すことなく直接書き込むことができれば……と思ったことは、一度や二度はあるのではないだろうか?

 そんな、より便利なクリアファイルをつくったのがキングジム。2018年2月に発売した『カキコ』のことである。

『カキコ』の特徴は、上下のフラップで書類を挟むこと。見開き2ページを使えば倍の大きさの書類が収納できる。サイズはA4とA3(2020年4月発売)、カラーは赤、水色、ネイビー、黒、白の5色(A3はネイビーのみ)、ポケット数は20ポケットと40ポケット(A4のみ)で展開している。2020年2月に発売された姉妹品の『カキコホルダー』と合わせて、これまでに40万冊以上が売れている。

悩ましかったフラップの形状と配置場所

『カキコ』は開発を担当した干田(ほしだ)恭子さん(開発本部電子文具開発部ラベルライター課 リーダー)が目にした光景が元になって企画された。2015年から1年間、研修でベトナムのファイル工場に赴任していた干田さんは、日本から来た社員がベトナム人の現地スタッフと試作図面に書き込みながらコミュニケーションを取っている姿を何度となく見てきた。日本から来た社員は図面をクリアファイルに入れて持ってきたが、干田さんは「書類を取り出すことなく直接書き込むことができるクリアファイルがあれば便利なのに……」と思うようになっていた。

キングジム
開発本部電子文具開発部
ラベルライター課 リーダー
干田恭子さん

 研修を終え日本に戻った干田さんは、ベトナム赴任前までいた営業部門ではなく、現在の部署に配属される。配属されたラベルライター課は同社の看板商品『テプラ』の開発を主に担当するところだが、同社の開発部門は担当以外のものも自由に開発できることから、思いがけず『カキコ』をつくるチャンスに恵まれた。ただ、新しく配属されたので、仕事を覚える意味から当分の間は、『テプラ』関連の業務に専念。本格的に開発に取り組んだのは2017年に入ってからで、試作品をつくりながら仕様を詰めていった。

 試作では、フラップの形状や配置場所を変えて検証を繰り返した。

 最初に検討したのは、ポケットの四隅に三角形のフラップを配置したもの。これは書類を挟んだ状態でページをめくると外れてしまった。その後、ポケットの四隅にL字形のフラップを配置したパターンや、ポケットの左右に帯状のフラップを配置したパターンを検証。これらも、書類の保持力などに問題があった。

ポケットの四隅に三角形のフラップを配置した試作品

 この後に検証したのが、L字形フラップと帯状フラップを合成したものをポケットの上下に配置したパターン。検証したところ書類の保持力はなかなのもので、A3サイズの書類を挟み込んでめくっても外れなかったが、書類が挟みにくいという問題があった。

L字形フラップと帯状フラップを合成した形状のフラップをポケットの上下に配置した試作品

 そこで考案されたのが、ポケットの上下に帯状のフラップを配置したパターン。社内でこのパターンについての意見を求めたところ、「フラップを上げないと書類が挟み込みづらい」という声があったことから、フラップを帯状ではなく中心部が高いアーチ状に変更。こうすることで、書類をアーチの高いところから滑り込ませるように挟み込めるようになった。

 フラップの形状と配置場所にこだわったのは、A3サイズの書類をしまうためであった。「スタートが図面だったので、A3サイズをしまうことを忘れてはいけないとこだわっていました」と干田さんは振り返る。

 もう1つこだわったのが、ペンホルダーと表紙裏につけたポケット。ペンホルダーは書き込みを前提にしたクリアファイルであることから設けた。ポケットは構造上、1ページにA4サイズの用紙しか挟めないので、A4より小さい書類などをしまうスペースとして用意することにした。

表紙裏のポケット(A4サイズのみ)。封筒などをしまうのに適している

背見出しに隠されたコスト削減のアイデア

 干田さんは2017年6月、商品化の可否を決める開発会議で『カキコ』を上申。閲覧性の高さに書き込める機能をプラスしたことを強調し、用途として書類や図面の書き込みのほか、楽譜への書き込みも提案した。楽譜の書き込みを用途として提案したのは、楽譜には頻繁に書き込みをすることをオーケストラに所属する社員から教えてもらったため。直接書き込める楽譜専用のファイルがすでに売られているが、楽器店など限られたところでしか入手できないことから、普通の文具店で同様の機能を持つものを手に入れられるようにすることを目指した。

 上申は通過。発売に向けてポケットの厚み、フラップの形状、アーチの高さ、表紙の大きさなど細部の詰めを行なうことになった。アーチの高さは保持力と書き込めるスペースをつくる観点から、マイクロソフトのワープロソフト『Word』で初期設定されている書式の余白を参考にして決定。表紙については当初、既存のA4クリアファイルより大きくするつもりだったが、店頭で並べづらくなることから既存のA4クリアファイルと同サイズに収めることにした。

『カキコ』に採用されたフラップの最終仕様。端を切り落とし角を丸くしたのは、サイズを小さくしA4サイズにする過程でフラップ同士が干渉して折れ曲がることがあったことへの対処だという

 同時に取り組まなければならなかったのが、コスト削減であった。特殊な機能を持つため普通のクリアファイルより価格が高めになることから、値ごろ感を出すためにコスト削減が避けて通れなくなったのだ。

 代表的なコスト削減箇所が背見出しである。表紙の色に関係なく1つで統一。表紙の色ごとに用意し余分な在庫を持たなくてもいいようにした。

クリアファイルでは一般的に、表紙の色と同じ背見出しが使われるが、『カキコ』では表紙の色に関係なく共通の背見出しが採用されている。イエローをアクセントカラーに使い、グレーの三角形は鉛筆の芯を模したという

 ちなみに、『カキコ』は楽譜を曲ごとにしまうことを念頭に入れていたことから、背見出しをつけるに当たっては試作品を楽器店に持って行っては譜面台に置き、引っかからないかどうかを検証したほどだった。

使い方や用途を実演販売で示す

『カキコ』は文房具が一番売れる春先に発売したこともあり、発売開始とともに好調に売れていった。しかし、いくら発売のタイミングが良かったとはいえ、特別な機能を持っている以上、使い方や用途をユーザーが理解しないと購入には結びつかない。

 これらをユーザーに理解してもらうために取り組んだのが、店頭での実演販売であった。『カキコ』のほか特別な機能を持ったファイルの実演販売を、一部の文具店で実施。使用用途を明示したPOP商品に貼り実際にめくってもらうことを促したり、このPOPをA3サイズにして『カキコ』に挟んだりすることもした。

実演販売の様子

『カキコ』の中に挟み込まれたA3サイズのPOP。主な用途を明示している

 想定以上の売れ行きを示したこともあり、同社では『カキコ』の新たなバリエーションを模索。ユーザーアンケートで「薄型のものが欲しい」という声が目立ったことから企画・開発したのが、『カキコホルダー』であった。

『カキコホルダー』は固くて丈夫なクリアホルダーに『カキコ』のフラップを移植したようなものだが、『カキコ』のフラップと違い溶着部付近に破れるのを防ぐ切り込みが深めに入っている。溶着部にかかる力が逃げにくくなったことから変更された。

2020年2月に発売された『カキコホルダー』。A4タテ型と見開きにするとA3サイズの書類がしまえるA4タテ型2ポケットタイプの2種類あり、『カキコ』同様ペンホルダーも完備。カラーはともに赤、水色、ネイビー、黒、白の5色のほか、透明タイプも用意している

取材からわかった『カキコ』のヒット要因3

1.実用性が高い

 クリアファイルなのに取り出すことなく書き込みが可能。紙もしっかり保持するので、ファイルとしての機能も満たしている。

2.普通の文具店で買える

 同様の機能を持つ楽譜用のファイルがすでにあったが、購入できるところが楽器店や通販などに限定されていた。しかし、『カキコ』は普通の文具店で購入可能。面倒な思いをせず買えるので、探していた人には喜ばれた。

3.ニッチではなかった

 用途が図面や楽譜などへの書き込みに限定されると思われていたが、契約書作成時に使うなど思った以上にビジネスユースでも使われたという。ニッチな商品と思われたがニッチではなかった。

 同社が実施したユーザーアンケートでは、『カキコ』に対する今後の要望として、差し替えできるタイプやインデックスがついたタイプの発売、サイズ違いやカラーバリエーションの追加など様々なものが挙がったという。今後の展開がいろいろ考えられる要望が多い。ラインアップの拡充を求める要望の声の多さに、今後の展開に期待が持てる。

製品情報
https://www.kingjim.co.jp/sp/kakiko/

文/大沢裕司

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