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スカウト経験や企業への転職で築いた第2の人生を、アスリートたちのセカンドキャリアサポートに捧げる元Jリーガー

2020.09.24

 今月初旬、アスリートの価値を社会に還元するプラットフォーム「APOLLO PROJECT(アポロ・プロジェクト)」の設立が発表された。

 彼らはアクションプランの一つとして、アスリート向け教育事業(A−MAP)を運営。パートナー企業である大前研一氏学長のBBT大学(ビジネス・ブレークスルー大学)を通じて、現役・元アスリート向けに開発したマインドセットプログラムを提供するという。すでに大相撲の中村親方・嘉風雅継氏が2021年1月からの第1回受講生となることが決定。目下、他のスポーツ界からも希望者を募っているところだ。

 ラグビー日本代表元キャプテンの廣瀬俊朗氏らとともにこの斬新な取り組みに打って出たのが、元Jリーガーの山内貴雄代表理事。彼は2001〜2002年にセレッソ大阪でプレーした右サイドバック(SB)だ。同期入団には大久保嘉人(東京V)、チームメートには森島寛晃(現社長)や西澤明訓(仲介人)ら日本代表クラスがいたという。2シーズン実績成績は公式戦30試合出場1得点。まずまずの実績を残したが、2002年末にいきなり戦力外通告を受ける。それが紆余曲折のセカンドキャリアのスタートだった。

どんな仕事も人と人

「関西学院大学時代はセンターバックで、SBで使われ始めたのはプロになってから。もともと持ち味は守備で攻撃面が課題でしたが、僕の中では『3年目が勝負だ』と思っていたんです。そんな矢先にゼロ円提示を受けた。自分としては平静を装っていたつもりでも、やはり驚きと戸惑いはありました。当時はまだJでやりたいと思っていたので、トライアウトも受けました。その場所が国立競技場。人生初の国立がトライアウトというのは皮肉だなと感じましたね(苦笑)。でもJからはオファーは届かなかった。当時JFL(3部に相当)の大塚製薬(現徳島ヴォルティス)からは誘ってもらいましたけど、どうしてもJへのこだわりが強くてお断りし、最終的に引退を決断するに至ったんです」
 直後にセレッソからスクールコーチの打診を受けたが、もともとスポーツビジネスやマネージメントに興味があった彼の中では指導者へのイメージが湧かなかった。そんな時、ヴィッセル神戸から「地元・関西の選手をスカウトしたいから、ウチのスタッフにならないか」と声がかかり「やってみよう」と決意。新たな世界に飛び込むことにした。

 スカウトの世界は人間関係が勝負。当時は鹿島アントラーズの平野勝哉氏、FC東京の鈴木徳彦氏(現岡山代表取締役GM)ら百戦錬磨の名人がいたが、彼らに名刺を配って情報を教えてもらうのが第一歩だった。
「年がら年中全国の大会を回って、懇親会に出て…という感じで選手時代と全くことなる多忙な日々。『〇〇高校の先生は焼酎のお湯割り』『××大学の監督はウイスキーのロック』と好みを伺いながら、サッカーに対する情熱や選手育成の考え方などを学びつつ、人間関係を創っていきました。夜中の3時までお付き合いすることはよくありましたね(笑)。その成果として現在もJで戦う河本裕之選手(大宮)を滝川第二高校から獲得できた。それは本当に嬉しかった。多くの方との関わりを通して『自分は1人じゃ生きていけない』と痛感したのも社会人1年目の収穫でした」

 ただ、山内氏はスカウトという職人の世界で生き抜いていく覚悟を持てなかったという。この世界に10年いるよりも、ビジネスで10年頑張ってサッカー界に還元できる人材になりたいと感じ、1年で神戸を退社。就職活動をすることにした。
 そこで目を付けたのがリクルートだった。大学卒業後は社会に出て働くことにも興味があったため、就職活動もしていた彼は、同社の採用試験にトライして落ちた経験があった。これを踏まえ、「面白そうで、自分自身が成長できそう。しかも起業する人が多い会社」と興味を抱き続けていたのだ。ちょうど姉の友人がリクルートエイブック(現リクルートキャリア)で働いていることを知り、そのツテを通じて同社のマネージャーと会うことに成功。自身が転職者として登録をすることなった。その後、キャリアアドバイザーと何度か話をする中で「ウチの会社の中途採用があるから受けてみますか」と言われ、チャレンジしたところ見事に合格。2004年に入社したのだ。

「最初の1年は大阪で採用支援を求める企業の新規開拓を担当しました。数多くの会社を回りましたが、ある商社の年輩社長に『相槌を打つ時は”うん”と言うな』とお説教されたり、電話が鳴るたびにムチャな注文をしてくるメーカーの人事担当者がいたりと苦労はありましたね。特に後者に関しては僕も苦手意識を持っていたんですが、『相手の立場に立ったアプローチをしよう』と気持ちを入れ替え、まずは人事担当者の社内における立ち位置を理解しようとしました。さらにデータで採用市場の難易度を示したり、採用要件の提案をするといった努力をしたんです。すると、彼は僕の異動が決まった時に『2人だけで送別会をしよう』と声をかけてくれた。どんな仕事も人と人なんだなと痛感した瞬間でした。スカウト時代の経験も生きたなと強く思いましたね」

引退後も自分らしいキャリアを送れるようにアスリートも経験を踏まえてサポート

 次なる異動先はJリーグ。2002年に設立された「Jリーグ・キャリアサポートセンター(CSC)」で選手のキャリア支援を担当する仕事だった。元選手で戦力外通告された経験のある山内氏にはうってつけ。当時リクルートエージェントの社長を務めていた村井 満(現チェアマン)から直々の電話を受け、東京に赴くことになったのだ。
「2005〜2008年の2年半、東京・御茶ノ水のJFAハウス内に席を置き、西日本のクラブ担当として現役選手に学びの場を提供するのが最初の仕事でした。クラブを回ってアンケートを取り、インターンシップでやりたい仕事を実現させる努力をしました。一般企業に行った選手もいれば、飲食店の板前、競走馬の養成など多種多様な例がありましたね。見たことのない世界を見てもらうという意味では価値があったのかなと思っています。
 こうした流れからクラブとの関わりが深くなり、強化部から契約満了になる選手を直接教えてもらえるようになりました。その情報を基に全選手にコンタクトを取り、人生のビジョンを聞いたり、就職相談に乗ることもあった。『CSC=引退勧告』と受け取られる傾向が強かった設立当初と比べ、支援を要請してくる選手は増えていて、その仕事を通じて、アスリートのキャリアをサポートする必要性をより強く感じましたね」

 2008年にリクルートに復帰。8年間は主に一般企業の採用支援や営業マネジャーとして組織マネジメントを行いつつ、Jリーグ新人研修やJリーグ版よのなか科(Jr.ユース選手向けキャリア教育)の講師を務めるなど、ライフワークとして選手のキャリア教育を続けていた。「アスリートの価値を高め、社会に貢献できる人材作りに関わりたい」という思いも日に日に強くなり、2017年末に退社を決断。2018年から独立した。

「最初の2〜3カ月は欧州サッカーの現場を見たいと思い、各地を転々としていました。その中で今、久保建英選手が所属しているビジャレアルも見る機会に恵まれたんです。育成スタッフを務める佐伯夕利子さん(現Jリーグ常勤理事)から人材育成やクラブ改革の話を聞いて胸がトキメキました。2019年から携わっている水戸ホーリーホックの『Make Value Project(メイクバリュープロジェクト)』の設計にもこの経験を生かしています。現役選手の価値を高め、人として成長してもらえるような研修内容を考え、実践しています」

 冒頭の「アポロ・プロジェクト」もこうした流れの一環だ。リクルート時代やCSC時代に関わった白崎雄吾理事、八田茂理事らを介して同じ志を持つ廣瀬氏と出会い、意気投合。この7月に一般社団法人を設立し、本格的に動き出すことになったのだ。
「受講生には自らがホストとなって自治体や企業と連携し、それまで競技を通して培ってきた自身の強みや『A−MAP』で学んだことを生かし、社会課題の解決につながるイベントやプロジェクトを企画・運営するところまで力をつけてもらうつもりです。
 そうやって自ら旗を掲げ、発信きるような人材になれれば、現役選手としての価値を高められますし、結果的に引退後も自分らしいキャリアを送れる。現役生活を1年でも長く続けてもらうためにも、僕らの『A−MAP』を受けてもらうのは意味あることだと考えます。僕ら元アスリートも経験を踏まえてサポートしていくので、積極的に学ぼうという人が増えてほしいですね」

 こう目を輝かせる山内氏。彼の言うように、現役中、あるいは引退後の勉強というのはこれからのアスリートにとって必要不可欠だ。来たるべき引退後に向けて何の準備もせずにノホホンと過ごし、予期せぬ「ゼロ円提示」を受け、どうしたらいいか途方に暮れる人間を1人でも少なくするために、彼らには大いに力を尽くしてほしいものである

取材・文/元川悦子

長野県松本深志高等学校、千葉大学法経学部卒業後、日本海事新聞を経て1994年からフリー・ライターとなる。日本代表に関しては特に精力的な取材を行っており、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは1994年アメリカ大会から2014年ブラジル大会まで6大会連続で現地へ赴いている。著作は『U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日』(小学館)、『蹴音』(主婦の友)『僕らがサッカーボーイズだった頃2 プロサッカー選手のジュニア時代」(カンゼン)『勝利の街に響け凱歌 松本山雅という奇跡のクラブ』(汐文社)ほか多数。

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