
ポップなイラストでクラフトビールの魅力をギュッと詰め込んだ『エンジョイ! クラフトビール』(スコット・マーフィー&岩田リョウコ著/KADOKAWA)は、数あるクラフトビール本の中でもかなり異色。なぜなら著者のひとり、岩田リョウコさんはアルコールが苦手! もうひとりはアメリカ人のミュージシャン、スコット・マーフィーさん。そんなふたりがクラフトビールの本を出すことになる経緯はこちら。さらにクラフトビールの魅力を語ってもらった。
ビールとコーヒー、飲むならどっちだ!?
アルコール苦手の文筆家&イラストレーターとミュージシャンの手による『エンジョイ! クラフトビール』は随所にそのセンスが光る。たとえば、ビールスタイルを音楽にたとえた図。IPA→ロック、ダブルIPA→パンクロック、サワー/ランビック→エモといった具合に。
スコット ホントはビールのスタイルと音楽って関係ないけど(笑)、当てはめていったらけっこうハマって面白い。
岩田 とてもしっくり来ますよね。コーヒーマニアの私がコーヒースタウトから入ったように、音楽好きの人がクラフトに入るきっかけになるといいですよね。
------ビールとコーヒーの脳への作用の仕方を比較説明したページは、仕事にも役立ちそうです。「ビールはアイディアを生み出すのに最適」で「コーヒーはそのアイディアを遂行するのに最適」と解説されています。
岩田 私は家で飲むのはコーヒーで、1人で家飲みをすることはあまりありません。でもこの前、今進めている本の原稿を書いているとき、「もうこれ以上書けない!」と行き詰まりまして…。2日ぐらいどうしようかな~と悩んで、それでも書けない。そのとき、「これ、ビール飲んだほうがいいんじゃない?」と気づいて飲んでみたら書けました。アイディア出しの段階で飲むならビール、集中して仕事をすすめるならコーヒーなんだなと実感しましたね。でも、飲み過ぎると書けないので、締め切りよりずっと前に飲むのがいいかな。ところでスコットさんはライブ中にグイグイ飲みますよね?
スコット ベースとボーカルのない曲がけっこうあるから、飲む時間もあるね。酔っ払わないように、度数のあまり高くないものを選んでいます。ツアーの時はいつも会場に前乗りするから、まず、その土地のブリューパブや酒屋に行って、その土地のクラフトビールを味見して、気に入ったビールをステージ用に買っておきます。そうすることでその土地に来たことが感じられるし、ステージでビールのラベルが見えれば、そのビールのプロモーションにもなるし。
岩田 ステージに上がる前から飲むの?
スコット そう。緊張感がやわらぐし、ステージのMCも面白くなる。飲み過ぎるとだめだけどね。1本か2本か3本ぐらい、ちょうどいいバランスのところで。
岩田 私は原稿を書くときは飲めないけれど、曲作りのときは飲みますか?
スコット 飲む。ビールは曲作りにも役に立っている。ぼくには必要かな。詞を書くときも飲む。クリエイティブな作業に向いているのは本当だと思う。
本の原稿と音楽づくり。どちらもクリエイティブな作業だが、脳の使い方が違うことが、ふたりの仕事中の飲み物からうかがい知ることができて興味深い。あなたは仕事中、許されるならビールを飲みますか?
クラフトビールはキリがないから面白い
-----おふたりの好みのビールを教えてください。
スコット ぼくはアルコール度高めのスタウト系と、バレルエイジドビール。ウイスキーやバーボンも好きなので、樽の風味や、前に入っていたスピリッツの香りが染みこんだビールが好き。
岩田 私はサワー系です。ジュースのようなビールにも驚きました。最近、衝撃を受けたのは「レインボーシャーベットサワーエール」というビール。まるで本物のシャーベットを溶かしたような味でした。これをビールの素材で創り出しているのがすごい。缶のデザインもレインボーでとてもポップです。もうひとつ驚いたビールがあります。スコットからブラインドで「飲んでみて」と言われて飲んでみたら、ケーキの味がするんです、ホントに。「バースディケーキスタウト」というビールでした。
スコット どちらもアメリカのPrairie(プレーリー)というブルワリーのビール。こういうユニークなビールがアメリカにはたくさんあります。
------日本のクラフトビールの印象はどうですか? リクエストとかありますか?
スコット ぼくが初めて日本に来たのは2001年だったので、その時代と比べたら大きな違いがありますね。2014年に日本に引っ越しましたが、その頃と比べてもブルワリーが増えているし、どんどんレベルアップしていると思います。ぼくの好きなバレルエイジは2014年の頃はほとんど見なかったけれど、今はいくつかのブルワリーで仕込まれています。あと何年かしたら、いいバレルエイジがちょこちょこ出てきそうで楽しみです。
岩田 私はちょっとしかアルコールが飲めませんが、いろんな種類を飲みたい。だからメニューに、もっと小さなサイズがあったらいいなと思います。
スコット ビアフライト(3〜4種類が飲めるテイスティングセット)のサイズが、独立してあるといいね。
岩田 今はコロナの影響で、あまりバーに飲みに行けなくなったのがさみしいですね。全国のブルワリーのビールがオンラインショップで買えるようになってきましたが、私はやっぱり、ビアバーでタップリストを眺めながら一杯ずつ選ぶのが好きです。
スコット バーで飲んでいると、お店の人がいろいろ教えてくれるしね。ぼくもそれがクラフトビールの楽しいところだと思う。
-------スコットさんはこの先、ブリュワーになる予定とかありませんか?
スコット 今はバンドが忙しいけど、いつか自分のブリューパブができたら最高。自分で造ったビールもサーブできるし、好きな音楽をかけて、おしゃべりしたり歌ったり。飲み放題になるしね(笑)
岩田 スタウトばっかりのバーになりそう。ラガーを置かないとか。
スコット ラガーは入れるよ(笑)
------スコットさんはクラフトビールの何にそこまで惹かれるのですか?
スコット クラフトビールのいいところはキリがないところ。何百種類もあるし、同じタイプのビールでもブルワリーによって味も香りも違う。ぼくは日本酒も好きですが、幅の広さやバリエーションの豊富さはクラフトビールの方があると思います。今回、ぼくがリョウコさんと『エンジョイ! クラフトビール』を書いたのは、クラフトビールを知らない人にもそれを伝えられたと思ったから。
------岩田さんは今後、どのようなクラフトビールを飲んでいきたいですか?
岩田 今はコロナで行けないけれど、アメリカのシアトルのブルワリー巡りをしてみたいですね。住んでいたとき(2016年までシアトル在住)はビールに興味がなかったので、ぜんぜん知りませんでしたけど、ワシントン州はアメリカの中でブルワリーがいちばん増えている場所なんだそうです。行かなくちゃもったいない。それからベルギー。私もかなりのオタク気質なので、これだけビールにハマッたからには、とことん突きつめようと思っています。
もともとアルコールが苦手だった岩田さんが、クラフトビールと出会い、今はビアバーでタップリストを眺めるのが楽しいと言う。コロナ禍が収束した暁には、以前住んでいたクラフトビール大国アメリカと、ビールの聖地とも言うべきベルギーのブルワリー巡りもしたいと夢を語る。ビール苦手を自認していた人がそこまで夢中になるクラフトビール、その魅力は人によってさまざまなのだ。
そのエッセンスを詰めた『エンジョイ! クラフトビール』は、岩田さんの手によるポップなイラストで彩られ、パラパラとめくっているだけで楽しい。好きなビールを片手にパラパラしてみてほしい。飲みたいビールがもうひとつ見つかるかもしれない。
『エンジョイ!クラフトビール 人生最高の一杯を求めて』
スコット・マーフィー&岩田リョウコ 著
KADOKAWA 1500円(税別)
岩田リョウコさん (写真左)
1979年生まれ。文筆業/イラストレーター。コーヒーマニアにしてサウナマニア。著書に『週末フィンランド ちょっと疲れたら一番近いフィンランドへ』(大和書房)。『シアトル発 ちょっとブラックなコーヒーの教科書』(ガイドワークス)。
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スコット・マーフィーさん (写真右)
1979年生まれ。アメリカ・シカゴ出身。ミュージシャン。アメリカのパンクバンドALLiSTERではボーカル・ベースを担当。現在は細美武士(the HIATUS/ELLEGARDEN)とのロックバンドMONOEYESでベース・ボーカルを担当。3rdフルアルバム『Between the Black and Gray』が9月23日に発売となる。
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取材・文/佐藤恵菜 撮影/篠田麦也
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