人気のタグ
おすすめのサイト
企業ニュース

コロナ禍で警戒すべき、一部の中小企業の歯止めがきかない悪しき流れ

2020.09.15

■連載/あるあるビジネス処方箋

 この原稿を書く数日前に、少々困ったことがある。サービス業の中小企業(社員数40人)の経営者(40代後半、男性)をインタビュー取材し、4000字ほどの原稿に書き上げ、ラインで送った。事実関係の確認をしてもらうためだ。通常、この場合はメールで送る。ラインでのやりとりは、取材相手300人に1人くらいだ。経営者いわく「パソコンを持っていない」のだという。

 経営者は、取材時にかつて勤務した会社の社長(60代)を徹底してなじった。「あんな奴が社長では、あの会社は破たんする」「あの人の下には、部下として永遠に仕えたくなかった」と繰り返した。私は、その場で「この部分を記事に盛り込んでいいか」と尋ねた。経営者がその会社を退職するいきさつがよくわかる言葉だったからだ。「何ら問題はない。このまま書いてほしい」と答えた。数回、念を押したところ、「話した通りに書いて問題はない」とのことだった。「書かないならば、掲載しなくていい」とまで語る。

 私の30年程の経験をもとに言えば、取材時にここまで勇ましいことを言う人は得てして一連の言葉を記事にされることにおびえる。原稿をラインで送った翌日、この経営者も「記事にされては困る」と言い始めた。そして、「記事にしてもらわなくていい」と返信をしてくる。電話で確認すると、やや興奮した口調で「記事にはしてほしくない」と言う。結局、私の判断で取りやめとした。補足すると、経営者は社員たちのことも否定していた。「仕事ができない」「使えない」「期待外れ」などとバカにする。

 こういう経営者は社員数が300人以下の中小企業で、特にサービス業、飲食業、建設業、流通業、不動産業などに目立つ。これらの業界は創業時に、新規の市場参入の障壁が比較的低く、ある意味でスムーズに「社長」になれる場合がある。そして、売上で言えば、数千万円から数億円になると、社員には高圧的な態度になる人が現れる。ちなみに中堅、大企業の経営者で、取材時にかつてお世話になった会社やその経営層をなじる人は滅多にいない。社員をこき下ろす経営者も見たことがない。

 なぜ、私がこんなことを書いたのか。最近、コロナウィルス感染拡大に伴い、一部の中小企業経営者の言動を警戒すべきと思うからだ。特に次の点である。「経費削減」「事務所の移転」「在宅勤務」「賃金の削減」「リストラ」…。私が4月~8月に取材してきた範囲で言えば、すでに一部の中小企業では、在宅勤務を認める一方、より小さな事務所へ移転をしたケースがある。この会社は、夏の賞与は例年基本給の2か月分だが、今年は支給しなかった。さらには、社員に退職を迫るケースもあったと聞く。

 私がかねがね問題視しているのは、小さな会社では経営者に対し、ストップをかける社員がほとんどいないことだ。企業内労働組合がある会社は、極めて少ない。社員の定着率は低く、入社と退職の出入りが激しい。いわゆる、人事の仕組み(毎年、コンスタントに人を雇い、定着させ、育成する仕組み)が正しく機能していない。結果として、経営者に情報や権限、権力が集中する仕組みになり、社員の立場は得てして弱い。中堅、大企業と比較し、顕著だ。ある面において、経営者の言いたい放題、やりたい放題になる可能性がある。厚生労働省や東京都の調査で、小さな会社でパワハラが多いのはこのような構造があるからだ。

経営者の言いたい放題、やりたい放題の1つが、冒頭で紹介した事例だと私は思う。そして、この数か月、このような会社で「経費削減」「事務所の移転」「在宅勤務」「賃金の削減」「リストラ」の流れがはっきりと見えるようになってきたのだ。実は、冒頭の経営者も40人程の社員のうち、5人程を退職に追い込んでいた。

 新聞やテレビなどのマスメディアは、感染拡大を憂いて、国の政治を批判したりする。それも、国民生活が危機にさらされている以上、大切ではあるのだろう。だが、企業社会の最前線で進む問題、つまり、一部の中小企業で歯止めがきかない悪しき流れがあることも伝えるべきと思う。何事も影の部分だけを報じるのは問題があるが、光だけを伝えるのも避けたいものだ。

文/吉田典史

新型コロナウイルス対策、在宅ライフを改善するヒントはこちら

@DIMEのSNSアカウントをフォローしよう!

DIME最新号

最新号
2020年9月16日(水) 発売

DIME最新号の特別付録は「マルチレンチ&ツール14」!特集は「オンラインビジネス入門」「Z世代の新・経済学」「軽自動車」

人気のタグ

おすすめのサイト

ページトップへ

ABJマークは、この電子書店・電子書籍配信サービスが、著作権者からコンテンツ使用許諾を得た正規版配信サービスであることを示す登録商標(登録番号 10401024号)です。詳しくは[ABJマーク]または[電子出版制作・流通協議会]で検索してください。