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組織にどっぷり浸かっている人こそ気づかない〝身内びいき〟とその落とし穴

2020.09.13

 つい先ほどまで所用で地下鉄の千代田線が利用できるエリアにいた。そこで帰路に乗り換え駅である西日暮里駅界隈を少し歩いてみようと考えたのだ。

ガード下のもつ焼き居酒屋で一献

 地上に出てきてさっそく街歩きをはじめる。地下鉄に乗る直前はまだ日は暮れていなかったが、今は完全に日が落ちている。幅広い陸橋の下を抜けてJR西日暮里駅を通過した。

 駅前に大規模な鉄道の陸橋がある一方で、周囲にはあまり大きなビルはない。JR路線のガード下には飲食店が連なっていてどうやらここがメインの繁華街のようだ。昭和の時代から続いていそうな渋い店構えの店が目立つ。しかし山手線の駅の繁華街としてはかなり小規模であることは否めない。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 さっそく左に折れて繁華街へを足を進めたかったが、前方に某ドラッグストアを見つけたので横断歩道で信号待ちをする。使い捨てのマスクがあとわずかしか残っていないのだ。こうした買い物習慣も“ニューノーマル”ということになるのだろうか。使い捨てマスクの価格もだいぶ下がってきている。7枚入りのものを購入して店を出た。用も済んだことだし、さっそく繁華街へと足を延ばそう。

 思った通り昭和の雰囲気が味わえる繁華街なのだが、ひとつひとつの店をよく見てみると、古くからの店はそれほど多くないようでもあった。外食チェーン店も少なくない。それでもガード下というロケーションは独特の風情があり、特に酒飲みにとってはちょっと一杯ひっかけたくなる絶好の舞台演出なのではないだろうか。

 ガード下に立ち並ぶ店の中でも、誰がどう見ても一番古いと思うであろう一軒の居酒屋がある。入り口の暖簾には「もつやき」の文字があり、文字通りのもつ焼き居酒屋だ。ここまで来たら入らない手はない。

 カウンターがメインの広くはない店内だが、ちょっとした座敷もあり団体の飲み会にも対応できる。実際にこの日は座敷で酒宴中の地元サラリーマンらしき人々がいた。

 店員さんに空いているカウンターに案内されて席に着く。とりあえず瓶ビールを注文。卓上にあるメニューを眺め、マグロの山かけともつ焼きのタンとカシラをオーダー。もつ焼きはいわゆる“2本縛り”で、1種につき最低2本を注文しなければならない。

 カウンターに座ると背後に位置する座敷席のグループ客の賑やかさが伝わってくる。会社内の話題でいろいろと盛り上がっているようだ。

 焼きたてのタンとカシラがやってくる。マグロの山かけも目の前の調理場から手渡しされる。空腹だったこともあり、串焼きのタレの味が口いっぱいに染みてくる。若焼き気味のカシラ肉は歯ごたえがあって、いわゆる肉を食べている感じにさせてくれる。

※画像はイメージです(筆者撮影)

※画像はイメージです(筆者撮影)

グループに深くコミットしているほどバイアスが強まる

 真後ろの座敷の人々はてっきり他愛ない話題で楽しく飲んでいるのかと思いきや、意外にも会社内の仕事のことでわりと真剣に話し合っているようだ。ある人物の発言に「それは偏見というものだよ」という返答の声が聞こえてくる。具体的にどういう話をしているのかはまったく読めないが、なかなか妥協点が見いだせない議論になっていそうだ。

 職場での“偏見”は確かに大きな問題だろう。いわゆるパワハラやセクハラ、モラハラなどに社会の厳しい目が向けられている昨今、仕事の現場での“偏見”は見逃せない問題となる。

 誰しも偏見やバイアスを持っているものだが、肝心なのはそれに気づけることである。自分の内にある偏見やバイアスを知ったうえで意思決定を行うべきなのだ。

 ではこの自分の内にある偏見やバイアスに気づけない人とはどんな人物なのか。最新の研究では、偏見やバイアスはその人物の考え方や属性からくるものであるというよりも、その人物の組織へのコミットメントの度合いが大きく影響していることを報告している。

 米・デューク大学をはじめとする研究チームが2020年8月に「PNAS」で発表した研究では、グループ志向の人と非グループ志向の人の内集団バイアス(in-group bias)のメカニズムを解明する内容になっている。


 グループ分割は、人類の歴史の継続的な特徴です。実験的および行動経済学からの手法を用いたこの研究は、個人レベルでのバイアスを考慮することにより、割り当て配分の決定および社会的選好における典型的な内集団バイアスのメカニズムを解きほぐします。

 結果は、政治的設定で内集団バイアスの偏見を示す同じ個人が、非常に簡略化された社会的文脈でもグループ内の偏見を示すように、内集団バイアス関連の差別にまつわる一貫した個人の偏見を明らかにしました。

 調査結果は、社会的分断を理解する上での個人の「グループ志向」の役割を指摘しています。

※「PNAS」より引用


 内集団バイアス(in-group bias)は“身内びいき”のことであり、自分が属しているグループにいるメンバーをひいきし、高く評価するバイアスのことである。近しい関係にある人々を優先するという意味では、ある種仕方のないバイアスだが、やはり自覚的であらねばならないだろう。

 研究チームは実験参加者の党派性(共和党か民主党か、党員なのか支持者なのか)と、芸術的な好み(絵画や詩)を明らかにしてから各人に報酬を分配する課題を行った。

 党派性を明らかにする調査では、たとえば共和党(民主党)支持者でなおかつ共和党(民主党)党員である者をグループ志向者(groupy)と定義し、今のところは共和党(民主党)を支持しているという者を非グループ志向者(non-groupy)と分類した。

 報酬分配課題では、提供された資金をランダムに対面した他の参加者に配分したのだが、グループに深くコミットしているグループ志向者ほど“身内びいき”である内集団バイアスが強いことが浮き彫りになったのだ。たとえば芸術の好みがかなり一致していたとしても、グループ志向者はその人物が同じ党派ではなかった場合は報酬配分の金額が少なくなる傾向が見られたのである。グループ志向者は“身内びいき”が激しかったのだ。

 その一方、非グループ志向者は同じ党派でなかったとしても、芸術の好みが近い人物には相応の配分を行っていた。つまりバイアスが弱かったのだ。しかも非グループ志向者は配分を決める判断が早いという興味深い傾向も明らかになった。

組織のトップの役割は“偉大な部外者”!?

 喉が渇いていたこともあり早くもビールの瓶が空になる。酎ハイと共にホルモン焼きを2本注文する。

 組織に深くコミットしている者ほど、身内びいきが強くなるということになるが、座敷で議論をしている人々を例にあげれば会社への帰属意識が強い人ほど内集団バイアスが強くなるということかもしれない。仕事が終わった酒の席でも会社内の問題を話し合っているくらいだから、帰属意識が弱いはずもないのだろう。

 今気づいたのだが、カウンターに座っている年配の男性の2人組もまた座敷のグループに関係する人々のようだった。時折、後ろを振り返って座敷の人と短く言葉を交わしていた。

 ホルモン焼きがやって来る。これも食べ応えじゅうぶんだ。定期的に食べたくなってしまう味だ。常連さんが多そうなのもうなずける。

※画像はイメージです(筆者撮影)

「後で○○さんの意見を聞いてみよう」という発言が後ろの座席から聞こえてくる。自分たちで結論を出すのはいったん保留にしたということだろうか。

 組織にどっぷりと浸かり、組織のことをまず最優先に考える“内集団”の人々には、その褒められるべき忠誠心からすれば皮肉なことに、見えてはこない景色や世界があるといえるのかもしれない。そして本人も気づけないような内集団バイアスを抱えがちなのである。

 とすれば座敷の人々が“○○さん”という当事者グループからは少し距離を置いた人物の意見を聞いてみようとしているのは賢明な判断だといえるのだろう。

 組織は内集団バイアスを育みやすい一方、長く続いている組織にはそうした持続可能性を整える“知恵”が備わっているはずだ。そのひとつがが例えば“相談役”や“外部アドバイザー”だったりするのだろう。だとすれば組織のトップの役割は実は“偉大な部外者”であることなのかもしれない。

 さて、うまいもつ焼きも楽しめたことだし店を出てもう少し街を歩いてみようか。この街で明らかに“部外者”の自分だが、だからこそ得られる新鮮な発見に期待しつつ……。

文/仲田しんじ

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