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店先で焼く焼き鳥の強烈な誘惑…実際に目で見て耳で聞いたことが心に深く刻まれるワケ

2020.09.02

 池袋での用事を終えて、この後の予定は特になかった。時刻は夕刻だ。そこで小さな旅、今風に言えば“マイクロツーリズム”として、池袋駅から電車で1駅目で降りてみようという案が浮かんだ。そうと決めたからには行動あるのみだ。

路面の焼き台に並ぶ焼き鳥の誘惑

 西武池袋線に乗るべく改札を目指したのだが、途中で40代くらいの女性に声をかけられる。しかしマスクをしていることもあり何を言っているのかすぐにはわからなかった。

 何度か繰り返してもらってからようやく、池袋駅の西口に行きたいことがわかり、大雑把な道順を教えた。こちらのマスク越しの声も聞き難かったであろうことは明らかだ。これもまた“ニューノーマル”の暮らしの一面ということになるのだろうか。

 各駅停車の車両に乗り込み1駅目の椎名町駅で降りた。かなり久しぶりだ。北口を出ると商店街が広がっている。有名な立ち食いの肉そば店も健在だ。左に進んでいくと線路沿いにアーケードの商店街が伸びている。

※画像はイメージです。

 残念ながらシャッターが下りたままの店舗もいくつか目に入るのだが、ここには老舗の個人商店、個人飲食店が軒を並べていて“昭和感”に満ちている。

 商店街を抜けると某スーパーに直面する。ここを右に折れるとまた別の商店街が伸びているのだが、左に折れると西武線の踏切を渡ることになる。踏切を渡った道の先には広い公園が見えるのだが、ここを左折して少し進むと、鶏肉の焼ける匂いと共に焼き鳥店が見えてくる。

 店先から焼き台が丸見えの作りになっていて、店の女性が次々に串肉を焼いていて、肉が焼ける音と香ばしい煙が立ち上っていて食指を動かされる。店先にはガラスケースが設置されていて、焼きあがった各種の串がケースに収められている。焼きたての大ぶりの焼き鳥のビジュアルにも食欲がかきたてられる。

 焼き台のある店先の隣の区画にはサッシ戸がある。テイクアウトがメインでありながらも中に入って飲食もできるようだ。

 昨今は焼き鳥業態のチェーン店も多くなってきているが、この店のように店先に焼き台がある店は少なくなっているような気もする。店の前を通りかかった時に、肉の焼ける音が聞こえ、串をひっくり返しながら焼けていく様子を目撃するのは多くにとって“飯テロ”な体験になってしまうだろう。このビジュアル、音、匂いが混然一体となった誘惑は強力だ。

 店の前を素通りすることはできず、焼き鳥をテイクアウトして帰ろうかとも思ったが数名のお客が並んでいたこともあり、サッシ戸を開けて店内に入らせていただく。

実際に目で見て耳で聞いたことの強い影響力

“イートイン”的な場所を想像していたのだが、店内は思ったより広くこざっぱりしていて雰囲気もよかった。店内にはいずれも一人客らしき2人のお客がグラスを傾けていた。テーブル出入口近くの席に着く。

 店先で繰り広げられる焼き鳥の“ライブパフォーマンス”を直接目撃し、その誘惑に抗うことができなかったのだが、どうしてこれほどまでに訴求力があるのか……。

 と、その前に注文が先だ。「酎ハイサワー」に焼き鳥を適当に5本注文した。成り行きのままにこうして焼き鳥居酒屋に入ってしまったのだが、最初から焼き鳥が食べたかったわけではない。やはり店先で実際に串を焼いている光景を見てしまったことが決定打になったと言えるだろう。

 自分で考えている以上に、我々は実際に目で見て耳で聞いたものからの影響を強く受けていることが最新の研究からも報告されている。

 米・オハイオ州立大学の研究チームが2020年7月に「Journal of Sociolinguistics」で発表した研究では、実験を通じて我々が人物の外見と声から考えられているよりも強い影響を受けていることが示されている。


(行動や意思決定に)適用できるかどうかにかかわらず、(人間は)入手可能なすべての情報に影響を受けます。

 あなたの感覚が感知する社会的に関連する情報を無視するのは難しいことです。たとえそれが、あなたが今持っている仕事に関連していないとしてもです。

※「Ohio State News」より引用


 実験参加者は人物の写真と声を耳目にし、人物のルックスと声の訛りの程度をそれぞれ別々に評価した。すると人物のルックスの影響が声の評価に影響を及ぼし、また逆に声がルックスの評価に影響を及ぼしていることが浮き彫りになったのだ。写真の人物と声は同一人物ではないと知らせた場合においてさえ、その影響力からは逃れられなかったのである。

 焼き鳥がやってきた。けっこう大ぶりな串で食べ応えがあって美味しい。ネギマ2本をタレで、ハツ、スナギモ、レバーを1本ずつ塩でいただく。そういえばスナギモは久しぶりだ。その独特の歯ごたえを存分に楽しむ。そしてメニューを見て気になった「ハマグリ焼き」をオーダーする。

※画像はイメージです。

無視できない印象強い人物の影響力

 オハイオ州立大学の研究では実際に目にし、耳にしたものはたとえ意識的に無視しようとしてもその影響からは完全には逃れられないことを示している。日々の社会生活の中ではさまざまな人物を見かけているわけだが、目に入った人物に何か特徴や目立つ点などがあると、自分で考えている以上に印象深く記憶に刻まれることになる。

 隣の4人がけテーブルに座っている一人客の男性はこの店の常連らしく料理を届けにきた店長の男性と少し雑談を交わしていた。作業服を着た体格の良い男性で声はけっこう大きく、現在の感染症禍の中でどこどこの店は昨夜何時まで営業していたなどの話をしている。常連客のテーブルに運ばれてきたキノコのバター炒めらしき料理は確かに美味しそうだ。

 一方でカウンター席には小柄なスーツ姿の一人客がスマホを眺めながらグラスを傾けていた。リラックスした様子でひょっとすると常連客なのかもしれないが、こちらは店長と話を交わすことはなく黙々とゆっくり飲んでいる。肴はブリの刺身だろうか。

 注文したハマグリ焼きも到着した。このサイズのハマグリを食べた記憶はもはや昔のこと過ぎて辿ることができない。味を思い出すうえでも良い選択をした。もちろん期待通りのうまさだ。

※画像はイメージです。

 店内の2人のお客を私の観点から眺めれば隣の作業着姿の男性のほうが印象が強い。もちろんこれは勝手な私見であり、2人が本来どんな人物なのかは知る由もないことだが。

 そして彼らが今食べている酒の肴のどちらが食べたくなるかと問われれば、作業着の男性のテーブルにあるキノコのバター炒めのほうだろう。ブリの刺身も好きだが、やはり印象深い人物が食べているメニューのほうがより魅力的に見えてくるということなのかもしれない。

 とすればいかに他人同士であれ、隣に居合わせたことで当然ではあるがこの男性から何らかの影響を受けていることになる。そして今回の研究にならえばそれは自分が思っている以上に強い影響なのである。

 居心地は悪くない店なのでもう一品追加してみてもよさそうに思えた。キノコのバター炒めを注文するのかどうか、あるいは別のメニューにするか、ひとまずこのハマグリを片付けてから考えようか……。

文/仲田しんじ

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