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買っていないのに買ったつもりになる人間の心理的メカニズム

2020.08.16

 駅の改札を抜けてから今朝、駅のキオスクで買ったとばかり思いこんでいたミントタブレットがジャケットのポケットにはないことに気づいた……。

キオスクでの買い物を忘れていた

 口臭予防と気分転換の目的でミントタブレットは基本的に欠かさないのだが、いつもは最寄り駅のキオスクで買うのが習慣になっている。今朝家を出るときにタブレットが少なくなっていることに気づき、電車に乗る前に買っていかねばと、自分に言い聞かせたことは憶えている。

 ……しかし、買ってはいなかった。ひょっとしてどこかで落としたかもしれないと一瞬思ったがそんなことはない。振り返ってみればタブレットのことはすっかり忘れて電車に乗っている自分がいたことは疑いようがなかった。

 JR西川口駅の改札を出て西口へ向かう。階段を降りるとJR系コンビニがあったので、入店してミントタブレットを購入することにした。梅雨も明けていよいよ夏本番に迎えようとする時期だけに、冷たい飲み物に加えてミントタブレットもますます欠かせなくなる。

 そしてもちろん冷たい飲み物だ。正確に言えば冷えたビールである。大宮での用件を終えた帰路、ちょっと喉をうるおしていこうかと、ここ西川口で降りてみたのである。時刻は午後6時半でまだ明るい。

※画像はイメージです

 それにしても今朝、どうしてタブレットを買うのを忘れてしまったのか、まだ少し気になる。物忘れが増えてくるとすれば厄介な話になるが、幸いにも仕事に支障をきたすような酷い物忘れはまだ経験したことがない。ミントタブレットの購入という、あまりにも些末な用件であるが故に軽く考えすぎてスルーしてしまったというようにも思える。

 いつも行くスーパーに行く直前、切れかかっている調味料があるから買おうと頭に思い浮かべるも、現地で実際に買い物をはじめると目先の商品を選ぶのに気を奪われて調味料のことなどすっかり忘れてしまうケースに近いと言えるのかもしれない。物忘れというよりも、そんな些細なことはすでに解決済みで問題にすらならないという一種の“無視”であるのかもしれない。

西川口の中華料理店へ

 駅西口を右に建物沿いに歩いていくと、「西川口 一番街」の表示が見える。ラーメン店や中華料理店などの派手な看板がまず目に入るものの、よく見ればいろんな飲食店を遠巻きに確認できる。明らかに中国人経営と思われる中華料理店もいくつかある。

 そんな一軒の店先で足を止めて、店先に飾られた料理写真を眺めてみると、ラム肉の串焼きのメニューに目を奪われた。何度か食べたことはあるが、独特のスパイスの風味がよく美味しかった記憶しかない。店先は看板を含めほとんど中国語表記で、日本語表記はほんのわずかだ。お客も中国人がメインであることは間違いない。

 カジュアルなお店であることは間違いないが、そうした事情でやや敷居が高いともいえるのだが、躊躇していたところ中から店の人が出てきて招き入れてくれた。中国の人にしてはなまりの少ない日本語をしゃべっていて注文にはまったく問題はなさそうだ。どうやら無事に羊肉の串焼きにありつけそうである。

 当然のことながらまず最初に生ビールを注文して喉を潤す。初夏の夕暮れに飲む冷えたビールは最高だ。メニューを眺めながらラム肉の串焼きを4本と、前菜的なキクラゲの和え物を注文。それほど長居をするわけではないのでこれでじゅうぶんだ。

※画像はイメージです

“買ったつもり”になる心理的メカニズム

 話は戻るが、やはりスーパーでの“買い忘れ”は一般的な物忘れとは違うような気がする。そして興味深いことに最新の研究では、日常生活の中での慣れ切った行動はエラーを生じやすくさせ、場合によっては偽の記憶を刻ませるものであることを報告している。スーパーでの買い物のように、毎日のように同じ場所で繰り返す行動では、“買い忘れ”などのエラーの可能性が高まり、また“買ったつもり”になるという偽の記憶を生み出しやすいというのである。

 米・イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校の研究チームが2020年7月に「Personality and Social Psychology Bulletin」で発表した研究では、慣れ切ったありふれた慣行と意思決定が、偽の記憶を生み出しやすいことを示している。「そういえば調味料買わないと」と自分に言い聞かせた時点で、我々はすでに調味料を“買ったつもり”になっているというのである。


 人がそうすることを意図しただけで、ありふれた行動決定をしたことを思い出すという、これまで理解されてこなかった心理的メカニズムを5つの実験で調査しました。この研究で進められている理論的な概念では、意図と行動が類似している場合、このエラーは錯誤帰属(misattribution)に起因しているとされます。

SAGE Journals」より引用


 研究チームは5つの実験を行って、たとえばいつものように駅のキオスクでミントタブレットを買うといった習慣化したありふれた行動は、「今日買わなきゃ」と意図した時点で買ったものだと思い込みやすいことを指摘している。もちろんこれは偽の記憶であり、冷静に振り返ってみれば自分でもこれが“買ったつもり”になっていただけであることに気づける。

 我々は自分で考えている以上に“したつもり”になりやすいことが示されているのだが、こうした偽の記憶の生成をどうやったら防止できるのだろうか。

 研究チームによれば、意図ではなく行動にフォーカスすることで偽の記憶を防止しやすくなることを示唆している。つまりミントタブレットを“買う”ことを自分に言い聞かさせるのではなく、駅のキオスクに“行く”ことを自分に要求するのである。スーパーであれば、調味料の売り場に行くことを思い浮かべればよいのだろう。

 ……待望のラム肉の串焼きがやってきた。冷えた生ビールを4口目くらいで飲み干し、次はハイボールを注文する。串を一口食べると、香ばしいスパイスとゴマの風味が口から鼻に抜け、確かにこの味だという記憶がよみがえる。美味しい。

※画像はイメージです。

 ご存知の通り、日本を含む先進各国は“超高齢化社会”を迎えつつあり、社会構成員の認知機能の低下は大きな社会問題となっている。認知機能の低下による社会的損失も無視できない問題となっているのだ。

 加齢による認知機能の低下はある意味では仕方ないともいえるが、心理的メカニズムによるミスジャッジや思い込みはできる限り防止せねばならない。したがって頭の中で“したつもり”になる愚を避けるためには、やはりメモに残しておくことに尽きるのではないだろうか。

 常にメモと筆記具を持ち歩き、意思決定をしなければならないことや、行動をおこさなければならないことについてこまめにメモに記しておくことで、かなりの部分、誤った思い込みを防げるのだろう。齢を重ねるほど“メモ魔”ならなければならないとも言える。

 ラム肉の串焼きは期待通りの美味しさだった。しかし過去一番最近に羊肉の串焼きを食べた記憶が曖昧だ。食べたのは確か池袋だったと思うのだが、どのくらい前のことだったのか覚束ない。とすれば今宵のこの貴重な食体験も、写真を撮りメモに残しておくことで有意義に振り返ることができるのだろう。

 ようやく日が暮れた街はまだ7時半だ。この店を出たらたぶん2軒目へと誘われてしまうだろう。とすれば明日、ますますこの今の記憶がおぼつかなくなるかもしれない。店を出る前に注文したメニューを億劫がらずにメモしておくとしよう。

文/仲田しんじ

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