
コロナ禍の今、大規模災害が発生したらどうなるのか?
まさに泣きっ面に蜂。だから見過ごすわけにはいかない。
南海トラフを震源とする巨大地震の発生確率は今後30年以内に70~80%と想定されている。つまり、いつ大規模地震が起きてもおかしくない状況だ。
それでは新型コロナウイルスが流行している今の時期に大規模災害が発生した場合、日本はどうなるのか。被災地の病院や医療機関は感染症だけではなく、地震や津波により負傷した人の受け入れも必要になる。
また、医療機関自体が大きな被害を受けたり、医療従事者自身が被災することもあり、受け入れのキャパシティは通常時より逼迫する可能性が大いに考えられる。
今回非常に興味深い分析レポートを見つけたので紹介したい。
Specteeは新型コロナウイルス感染症が流行する今、もし大規模災害が発生した場合、どのくらいの感染者が出るかを分析。 まずは、東日本大震災クラスの大規模災害が発生した場合を想定して、発生から1週間~4週間の週ごとの避難者数は以下のとおりだ。
避難所における感染者の発生や増加はクラスターが発生するかどうか、またクラスターが発生した場合にどのくらいの人が感染するかが重要になる。
しかし、今回の新型コロナウイルスについて、「避難所」と近い状態で医療機関以外のクラスターが発生したものについての明確な数値が出ていない。そこで、スペクティでは避難所に近い状態の例として「ダイヤモンド・プリンセス号」のケースをもとに、クラスターが発生した場合の感染率を試算した。
[ダイヤモンド・プリンセス号による感染者数の状況]
・乗員・乗客数 3,711人
・PCR検査陽性者数 712人
・クラスターあたりの感染率 19.2 %
つまり、建物や施設など室内空間でクラスターが発生した場合、約5人に1人が感染するとの試算になる。
次に、災害時の避難所でクラスターはどのくらい発生するのだろうか?これについても明確な数値がなかったため、スペクティでは国内外の様々な報告事例を検証し、2つの仮説を立てて分析を行った。
[避難所での感染症発生事例]
東日本大震災で宮城県名取市の避難所(公立小学校、避難者数約200人)でインフルエンザが集団発生し、約20人の感染が報告されている。
[仮説1] 発生から4週間の間、15%(約6分の1)~ 25%(4分の1)の避難所でクラスターが発生すると仮定。
仮説1を想定すると、東日本大震災クラスの災害が発生した場合、発生から1週間後に約1万人が新型コロナウイルスに感染し、発生から4週間後には約4万人が感染すると予想できる。
仮説は、あくまで新型コロナウイルスが流行する「いま」災害が発生した場合を想定している。
[仮説2] クラスター発生率を25%~40%、クラスターあたりの感染率を25%に引き上げて、仮説1よりも悪化したケースを検証。
仮説2では、災害発生から4週間、毎週避難所の約3分の1でクラスターが発生し、クラスターが発生した場合に、1つの避難所で4人に1人が感染することを想定。その場合、東日本大震災と同じレベルの災害を想定すると、最初の1週間で約2万人~ 3万人が感染、4週間経過した時点で5万人~ 6万人が感染することが考えられる。
もし、いま南海トラフ巨大地震が発生したら、4週間で35万人の感染者、最大60万人超
東日本大震災の想定と同様の手法で、南海トラフ巨大地震が発生した場合に、仮説1のケースを当てはめ検証すると、発生後1週間で約16万人の感染者が発生し、4週間後には約33万人が感染すると予測。
より悪化した想定の仮説2のケースで検証すると、発生後1週間30万人~40万人が感染、4週間で約60万人超が感染すると考えられる。
南海トラフ巨大地震が発生した場合の避難所における累計感染者数の推定
災害時に医療現場での発生が想定されること
1. 医療機関の被災
2. 医師・看護師等の医療従事者の被災
3. 停電により人工呼吸器等の医療器具や設備が使えなくなる
4. マスク、消毒液、防護服、医薬品、医療器具の不足
5. 感染症以外にも地震・津波による負傷者の受け入れで医療機関が崩壊
避難所は典型的な「3密」状態、在宅避難による対応の重要性
静岡市・高知市で行われたアンケートで避難勧告が出た場合に「避難する」と回答した人は80%に達した。
一方で、まさに「いま」大規模災害が発生した場合、避難所には多くの人が詰めかけ、「ソーシャルディスタンス」を取ることなどは不可能に近く、いわゆる「3密」の状態となる。
通常時であれば、身を守るために避難することは非常に重要となるが、新型コロナウイルスが流行する「いま」は、避難所は「クラスター」になりやすく、感染症という二次災害を招きかねない場所となる。その場合、在宅避難というのも選択肢として検討しておく必要があると考えられる。
在宅避難か避難所避難かを慎重に判断を
スペクティでは判断の基準として、いま住んでいる場所について、以下の2つの条件を事前に確認しておく必要があると考える。
1. 自宅の場所は津波、洪水、土砂災害の警戒区域か
2. 自宅は耐震基準を満たしているか
津波、洪水、土砂災害の可能性がある場所や自宅の耐震性に問題がある場合は、やはり直ちに避難することが大切であると考えられる。
まずは身の安全を守る行動を優先し、その上で、避難所ではマスクの着用や人との距離を取るなど、可能な限りの予防対策を講じる必要があります。避難用の備品などにマスクを常備することをおすすめしたい。(使い捨てタイプ1か月分1人30枚程度と何度も使える布製のものを1人数枚程度は必要)
自宅が上記の問題をクリアしている場合は、在宅避難を検討することが重要と考えられる。
まさに今は避難所に行かない、「ステイホーム」で避難することも感染症の二次災害を防ぐ重要な行動となる。まずは、自宅が安全な場所、安全な建物であるかどうかを事前に確認し、安全である場合は在宅避難のための備蓄等の準備をしておく必要があると考えられる。
他県からのボランティアの受け入れの難しさ
被災地で感染症が発生した場合、被災地以外の都道府県からボランティアを受け入れることが困難になることが予想できる。
市民によるボランティアは復興には欠かせない存在となっている。しかし、感染症が広がった地域へボランティアが入ることは感染症をさらに広げてしまう危険性が高く、現実的に考えて感染地域への他地域からのボランティアの受け入れは難しく、復興の遅れにつながる可能性があると思われる。
尚、スペクティでは、引き続き災害発生時における感染症の影響について分析・研究を進めてるという。
※試算は公的発表をもとにスペクティが独自に分析したもので、大学や研究機関による科学的検証を経たものではない。
※試算は避難所での感染者数を推計したものであり、被災地全体の感染者数を表しているものではない。
※被害想定や数値は実際に災害が発生した場合、その時の様々な要因により、大きく変わる場合がある。
※試算は、新型コロナウイルス感染症が流行している今、大規模災害が発生した場合を想定している。検証データは同社ホームページより確認できる。
※この調査結果は2020年5月7日に発表されたデータとなる
構成/ino.