東急電鉄では2020年7月15日より、駅の券売機を使った『LINE Pay』の現金チャージサービスを開始した。今では多くの利用者が交通系ICカードなどを使って乗車するので、券売機は減少傾向にある。そんな中、新たに券売機を使ったサービスを開始した理由について聞いた。
『LINE Pay』の現金チャージサービスとは?
今回、スタートしたサービスは、東急線各駅の券売機を利用して、『LINE Pay』に現金をチャージできるというもの。『LINE Pay』は銀行口座やクレジットカードの『Visa LINE Payクレジットカード』を登録して利用できるが、そういった方法に抵抗がある人にとって、現金チャージは欠かせない。
セブン-イレブン店舗などにあるセブン銀行ATMや、ファミリーマートのFamiポートなどで『LINE Pay』への現金チャージができるほか、プリペイドカードの『LINE Payカード』を使ってコンビニのレジでチャージすることもできる。そんな現金チャージができる新たなスポットとして、東急線各駅の券売機が利用できるようになった。
利用可能なのは恩田駅・こどもの国駅を除く東急線各駅にある324台の券売機。チャージ可能な金額は1000円以上、4万9000円以下。手数料はかからず、利用時間は5:30~23:00(世田谷線上町駅は6:30~22:00)となる。
東急各駅の券売機に表示されるQRコードを『LINE Pay』アプリで読み取って操作する。画像提供:東急
今回の券売機での現金チャージサービスについて、担当者である東急の八巻善行氏は次のように語る。
「東急電鉄では改札のICカード利用率が約95%になります。ICカードでの乗車が増えるに伴って、10年ほど前は600台以上あった券売機も今では半減しています。ただ券売機を使ってPASMOにチャージするニーズが多いことや、鉄道は公共交通機関で様々な人が利用することもあり、券売機をゼロにすることはできません。1台が故障した場合を考えると、各駅に基本2台は必要。なくすことができないのなら有効活用しようと、いろいろな取り組みを行なっています」と八巻氏。
東急 フューチャー・デザイン・ラボ 事業創造担当 プロジェクトリーダー 八巻善行氏。
券売機を有効活用する東急電鉄の取り組みとは?
東急電鉄では2019年5月8日より、駅の券売機で現金が引き出せるキャッシュアウト・サービスを開始。ゆうちょ銀行の「ゆうちょPay」と横浜銀行の「はまPay」が利用できる。引き出せる券種は1万円札のみで1日3万円まで。PASMOチャージなどで券売機の中に貯まる1万円札を引き出して有効活用できるサービスだ。
一方、今回の『LINE Pay』の現金チャージサービスでは、券売機に投入した紙幣がそのまま『LINE Pay』にチャージされてお釣りは出ない。投入した1万円札はキャッシュアウト・サービスに。1000円札や5000円札はPASMOチャージのお釣りとして有効活用することができる。
「1万円を投入してPASMOに1000円をチャージする人には、9000円のお釣りが必要になります。その分の紙幣を『LINE Pay』の現金チャージで補うことができればと考えています。チャージ金額は1000円単位なので、1000円や5000円札が多く利用されるでしょう。券売機内で紙幣をうまく循環できれば、職員の現金管理の負担を軽減することができます」と八巻氏。
券売機の中で紙幣が循環するイメージ図。
八巻氏は「駅で新しいサービスをすることで、駅の付加価値をあげていきたい」と語る。東急線沿線では『LINE Pay』が利用できる施設が増えつつあるが、今回の現金チャージサービスによってキャッシュレス化に貢献できるよう、『LINE Pay』と連携していく考えだ。現金チャージサービスは東急全線の券売機で当初、1日500件の利用を想定している。
一方、『LINE Pay』の担当者である藤平賢人氏は次のような期待を寄せる。
「駅は生活に密接した重要な拠点。そんな場所で現金チャージができるのは、お客様の利便性向上に繋がります。キャッシュレス決済サービスは難しい印象を持たれがちですが、現金チャージサービスで『LINE Pay』でやることはQRコードを読み取るだけ。ほとんどが券売機側の操作で、案内に従って操作していけばOKなので、みなさんに利用して頂けると思います」と藤平氏。
LINE Pay 東急券売機チャージ プロジェクトマネージャー 藤平賢人氏。
今回のサービスは、東急とGMOペイメントゲートウェイが共同開発した「駅券売機スマートフォン決済チャージシステム」を利用したもの。GMOは昨年のキャッシュアウト・サービスでも銀行口座と連動したスマホ決済サービス『銀行Pay』の仕組みを提供している。
「元々、決済代行会社としていろいろなペイメント事業者と加盟店を繋げる役割を果たしています。昨年は銀行口座の引き落としでしたが、今回は現金チャージ。今後も、他の事業者とのハブとなる事業を展開していきたいです」と、GMOの入口慎平氏。
GMOペイメントゲートウェイ イノベーション・パートナーズ本部 戦略事業統括部 決済商品企画室 室長 入口慎平氏。
東急では2015年に券売機を現在のQRコードリーダー付きの新型に変更。元々は「定期券ネット予約サービス」を提供するためのもので、定期券をWebサイトで予約して、予約時に発行されるQRコードを券売機にかざすことで発券。混雑緩和の意図があった。
券売機のQRコードリーダーを活用する方法を模索していた中で、キャッシュアウト・サービスや現金チャージサービスがうまくハマった。そのため今回のサービス提供に至って変更したのはソフト面のみ。今後、現金チャージできる新たなサービスが登場する可能性も大いにあると言えるだろう。
取材・文/綿谷禎子