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ブルックリン・ブルワリー創業者スティーブ・ヒンディ氏に聞く、Withコロナ時代のクラフトブルワリーに必要な変革

2020.08.05

クラフトビール大国アメリカ。今日の人気の背景に、ブルックリン・ブルワリーの存在は欠かせない。1988年。アメリカ・ニューヨーク州ブルックリンに創業。マンハッタンの隣町であるその街は当時、観光客は“行ってはいけない”場所だった。

そのブルックリンをブランドにしたブルックリン・ブルワリーは今、アメリカのほかヨーロッパ、オセアニア、日本にも販路をもつ世界有数のクラフトビールメーカーであり、クラフトブルワーのリーダー的存在になっている。そしてブルックリンは世界からツーリストの集まる、ヒップな多様性あふれる街に生まれ変わっている。

ここに一冊の本がある。『ビールでブルックリンを変えた男』(訳:和田侑子/DU BOOKS)。創業者スティーブ・ヒンディ本人によるブルックリン・ブルワリー起業ストーリーだ。

刊行されたこの春、東京兜町にあるブルックリン・ブルワリー旗艦店「B」を訪れる予定だったというヒンディ氏。そのイベントは新型コロナで流れてしまったが、日本におけるパートナー、ブルックリンブルワリー・ジャパン社の協力でオンライン取材が実現した。

さっそく、甚大なコロナ禍に見舞われたアメリカのクラフトブルワリー界の状況について聞いた。

スティーブ・ヒンディSteve Hindy:
ブルックリン・ブルワリー共同創業者。コーネル大学で英米文学教育の修士号修了。AP通信社の記者になり、1980年代の中東やエジプト・カイロで内戦を取材。帰国後、39歳のとき、ビールで起業することを決意。88年にブルックリン・ブルワリーを創業。

創業時のラベルデザインのスケッチ画。

アメリカ、レストランもバーも営業禁止の打撃

「現在、アメリカには8000近いクラフトブルワリーがあります。今年3月初めに業界で調査したところ、州によって違いはありますが、レストランやバーなどが営業禁止になり、40%のクラフトブルワリーが生き残れるかどうかわからないという回答でした」

アメリカの営業禁止は強制力を伴う。日本の“自粛要請”とはワケが違う。また、多くのクラフトブルワリーはバーやパブを併設、営業しており、その収益が事業収益の多くを占める。そのためレストランやバーの営業禁止は経営を直撃する。(外食チェーン店では7月時点ですでに1300店舗以上が閉鎖に追い込まれている。)

ただ、6月に同様の調査をしたところ、多少、楽観的な回答が増えたと言う。

「経営難を訴えるのは20%ぐらいに減りました。多くのブルワリーが2か月ほど行政上の支援を得られたためです。それでも20%は1600社ですから、大きな数字です」

州によって規模は異なるが、営業禁止になった事業者にはなんらかの休業補償があり、クラフトブルワリーもその対象になったそうだ。

ブルックリン・ブルワリーを含め、大手は今のところ経営難に陥る状況ではない。それでも多くのパブ事業が大きな損失を被っていることに変わりはない。

「われわれも売上の45%はバーやレストランからの収益です。特に地元ニューヨークの市場の打撃が大きいですよ」

ニューヨークの感染拡大のニュースは日本にいる私たちをも不安にさせたものだ。7月後半現在、状況はだいぶ落ち着いているようだが……。ムリを承知で、クラフトブルワリー業界の今後の見通しについてたずねた。ヒンディ氏は厳しい表情で応えた。

「非常に不透明。半年後にはある程度、見えてくると思います」

日本でもコロナ禍が深刻になった3月時点に行われたあるアンケート調査で、この1年の間に経営難に直面すると答えたクラフトブルワリー事業者が半数を超えていた。

小ロットのブランドはD2Cへ移行する?

不透明な状況がいつまでつづくかわからない。心配なのは、せっかくここまで成長したクラフトビール文化そのものが打撃を被ることだ。この点について、ヒンディ氏は、ビールを片手に「ごく一般的に見て……」と前置きしてからこう語った。

「クラフトブルワーというのは非常に情熱を持ってビールを造り、ビジネスに向き合っている。技術の向上心も冷めることがない。この熱意とビールへの愛情がある限り、経営の方策さえ見つかれば,彼らは徹底的にがんばり、経営難にも立ち向かっていくでしょう。ただ今はまだ、その方策が明らかではないのです」

では、ブルックリン・ブルワリーはウイズコロナ時代に、どのように立ち向かおうとしているのだろうか。ヒンディ氏はまず、消費者の動きの変化について説明する。

「家飲みが増えて興味深い傾向が見えてきました。よく売れているのは、アメリカで親しみのあるトラディショナルなブランドです。当社の場合、ブルックリン・ラガーがよく売れています。こういう状況では人々は知らないものにトライするより、馴染みのあるもののほうが手に取りやすいのでしょう。ただ、それによってひとつ問題なのは、小売店が扱うブランドが売れ筋にかたより、品種が減ってしまうことです。

私たちは常に新しいブランドを開発し、提供していこうと考えています。新しい価値を提供する、それが創業以来の変わらぬポリシーであり、ブルックリン・ブルワリーのよさですから。

そこで小ロットのブランドは、自社のオンラインサイトでの直販に移行しつつあります。すでにオンラインショップは稼働していましたが、その規模を拡大しています。たとえば、特製品のヘイジーIPAはオンラインのみの販売で、どこの店舗も卸も扱っていません。将来的に、このようなDirect to Consumer(D2C)の売上が重要になってくるでしょう。もちろん、小規模なブルワリーにとっても。ただし実際にD2Cが機能するのか。儲かるのか。それが見えてくるのは半年から1年先になるでしょう」

日本でも3月以降、多くのクラフトビール事業者が続々とオンラインショップをオープンしている。オンラインショップによる直販はクラフトビール事業者を救うだろうか? アメリカの事情は日本とは少し異なる。

「アメリカでは州ごとに法律が異なり、ブルワリーが直販できる州とできない州があります。地元ニューヨーク州は直販ができます。現在は緊急措置として、一時的に全州で直販が許可されている状態です。クラフトブルワリー業界としては、この措置を恒常的なルールに変えてもらうよう州政府に働きかけていきたいところです。ただ、これには卸業界、流通業界からの反発が予想されますね」

SNSとクラフトビールは相性がいい

実はブルックリン・ブルワリーは1990年代後半に一度D2Cにトライしている。その頃すでに経営は軌道に乗っており、ドットコム商売の興隆期でもあった。著書にこのように記述されている。

「ぼくらが扱っていたスペシャルティ・ビール(既存のスタイルではない新しい創作ビール)のなかにも、ニューヨークのショップがうまく販売できているとは思えないものがあり、インターネットを使った顧客へのダイレクト販売に大きな抜け穴を発見した。」(146ページ)

しかし頓挫してしまった。2001年9月11日、ニューヨークWTCを襲ったテロにより、ブルックリン・ブルワリーはマンハッタンのビジネス街の顧客の多くを失い、D2Cも尻すぼみになって終わったのだ。その経験から20年近くが過ぎ、インターネットを取り巻く状況は大きく変わった。

「私はクラフトビールの発展とインターネットの発達は相関性があると考えています。インターネット、特にソーシャルメディアの発達が、クラフトビールの成功を下支えしているのです。ソーシャルメディアのユーザーの声がクラフトビールの今後にも影響を与えるでしょう。コロナの苦境の中、彼らがクラフトビールのD2C解禁に賛同の声を上げてくれると期待しています。

すでにワイン業界ではすべての州でD2Cの認可が下りています。ワイン業界の話も参考にしながらクラフトビールのD2Cを全米で可能にしていきたい」

コロナ禍は人々の消費活動を大きく変えている。流通業界のルール見直しは、日本でも求められてくるだろう。

ブルックリン・ブルワリー。ロゴは「I ♥NY」で有名なデザイナー、ミルトン・グレイザー氏の手による。グレイザー氏は今年6月、91歳で亡くなった。

→「ポストコロナ時代、クラフトビールに求められる価値」につづく

ビールでブルックリンを変えた男』スティーブ・ヒンディ著/DU BOOKS 
1600円+税

取材・文/佐藤恵菜

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