人気のタグ
おすすめのサイト
企業ニュース

2018年ベルリン国際映画祭金熊賞受賞の問題作「タッチ・ミー・ノット」がついに日本で公開、監督が「会話への招待」と語るその内容とは?

2020.06.30

■連載/Londonトレンド通信

 2018年のベルリン国際映画祭で金熊賞に輝いた『Touch Me Not』が、7月4日から『タッチ・ミー・ノット~ローラと秘密のカウンセリング~』として公開される。この映画はアディナ・ピンティリエ監督の初長編で、ベルリンでは初長編作品賞とのW受賞になった。

 受賞会見でピンティリエ監督はこの作品を「多くの人にとって心地よい映画ではないかもしれません」と評した。カンヌ、ベネチアとで世界三大映画祭とされるベルリンで最高賞を獲得しながら、日本公開まで2年余りを要した理由も、そこかもしれない。

 確かに心地よい映画ではない。ついでに言えば、感動の涙を流したり、大笑いするような映画でもなく、カタルシスは得られない。では、どんな映画か。ピンティリエ監督がベルリンでのワールドプレミアを振り返った言葉が、答えとなろう。

 「プレスがどう反応するか、観客がどう反応するか、とても気になっていました。この映画は会話への招待だからです。わたしたちは、親密さ、美しさ、他者とつながる意味といったことを観る人に再考させようとしています」。

 ピンティリエ監督は、ドラマとドキュメンタリーを混ぜながら、性を深く掘り下げている。老い、トラウマ、執着、また障害者の性などタブー視されている部分にも踏み込んでいく。

 主人公となる中年女性ローラは触れられることに拒絶反応を示しながら、触れられる喜び、親密感を強く希求する。そのためにローラがしていくこと、男娼を買いもすれば、様々な人に会って話を聞き、また、話を聞いてもらう、がこの映画のストーリーになっている。

 もう1人、道案内役となるのがトーマスだ。ローラが父親を見舞う病院で見かけたグループの中にいたのがトーマスだった。トーマスは病院でグループカウンセリングを受けている。

 ローラを演じるのはフランスの舞台で活躍しているローラ・ベンソンで、トーマスを演じるのは『ブレードランナー2049』(2017)などにも出演しているアイスランド出身の俳優トーマス・レマルキス。そのほかの主要キャラクターは、ほとんどが俳優ではなく、例えば本業がセックスワーカーの人がそのままセックスワーカーとして登場している。

 プロの俳優であるローラとトーマスも、演じているだけではない。会う人々に対するローラの反応はリアルで、グループカウンセリングを受けるトーマスの全身脱毛症で体毛が無いという症状もほんとうのことだ。

 ローラとセックスワーカー/カウンセラーのシーニー・ラブのセッションは印象的だ。細やかなチェックを重ねながら進めるシーニーに、その手を心臓の上に置くことを許したローラは、鼓動をシーニーの手に伝えながら涙を流す。

 トーマスがグループカウンセリングでペアを組むクリスチャン・バイエルラインとのやりとりは、時に哲学的でさえある。クリスチャンは脊髄性筋萎縮症で肢体の自由が利かない。お互いの顔に触り、感想を述べあう場面で、トーマスはクリスチャンの顎を濡らしている涎に触れてしまう。他人の唾液に触れた衝撃を語った後、自分の言葉でクリスチャンを傷つけたのではと気遣うトーマスに、クリスチャンは、善悪ではなく、ただの反応だから正直に表されるべきだと返す。

 見られる体、性の対象ともなる体がテーマの1つでもあるこの映画には、クリスチャンと実際のパートナーであるグリット・ウーレマンを含めた登場人物たちの全裸シーンや性描写もある。美を競うコンテストには決して登場しないような体の数々と、性の場面だ。

 この映画にベルリンが最高賞を与えたことは意義深い。ピンティリエ監督からの「会話への招待」が、金熊賞によって、より広く届けられたのは間違いないからだ。セックスレス大国となった日本でこそ、親密さ、美しさ、他者とつながる意味を再考することは有意義と思う。

文/山口ゆかり
ロンドン在住フリーランスライター。日本語が読める英在住者のための映画情報サイトを運営。http://eigauk.com

新型コロナウイルス対策、在宅ライフを改善するヒントはこちら

@DIMEのSNSアカウントをフォローしよう!

DIME最新号

最新号
2020年7月16日(木) 発売

DIME最新号の特別付録はミクロの世界を楽しめる「90倍スマホ顕微鏡」!特集は「家ナカ オフィス改造計画」

人気のタグ

おすすめのサイト

ページトップへ

ABJマークは、この電子書店・電子書籍配信サービスが、著作権者からコンテンツ使用許諾を得た正規版配信サービスであることを示す登録商標(登録番号 10401024号)です。詳しくは[ABJマーク]または[電子出版制作・流通協議会]で検索してください。