
6月1日にいわゆる「パワハラ防止法」が施行され、順次、企業も対応していく必要が出てきた。上司としては、より気を引き締めなければならないと感じているかもしれない。現在はテレワークが通例になっていることも多い中、テレワークにおけるパワハラ予防策を特定社会保険労務士の毎熊典子さんに聞いた。
テレワークでパワハラに気をつける上司は約6割
パワーハラスメントを防ぐための法律、「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」、通称「パワハラ防止法」が2020年6月1日に施行された。これにより、パワハラ対策が事業主の義務となった。ただし、中小事業主は2022年4月1日から義務化されるため、それまでは努力義務となる。
これを受けてか、すでに企業では対策が意識づけされている。
ダイヤモンド・コンサルティングオフィス合同会社が2020年5月に、テレワーク業務で部下とコミュニケーションを取っている会社員109名に対して実施した「テレワークにおけるハラスメントの実態調査」の結果、60.6%の上司がテレワークをする上でハラスメントにならないように普段よりも気を付けていることがわかった。
テレワークでパワハラにならないための対策とは?
同調査では「テレワークをする上でハラスメントにならないようにどのような点に気を付けていますか。」と質問したところ、「強めの言葉を避ける」「対応時間、健康管理での報告内容」などの回答があがっていた。
上司はテレワークでパワハラにならないために、どんなことに注意すれば良いだろうか。毎熊さんは次の点を挙げる。
●声のトーンや言葉に気を付ける
「電話やメールでのコミュニケーションでは、対面で行う場合と異なり、相手の表情が見えていない分、声のトーンや言葉に気を付ける必要があります。同じ言葉でも、顔が見えていないことで、相手に与える印象が大きく異なることがあることを理解しておくことが大事です」
●自律的に働ける部下には必要以上に報告を求めない
「テレワークでは、こまめにコミュニケーションをとり、部下の状況を把握することは、仕事のスムーズな進行だけでなく、部下を孤独にしないうえでも大事なことです。ただ、日頃から自律的に仕事をしている部下については、過度な報告を求めないようにすることが、部下の集中力を高め、業務効率の向上を図るうえでも有効であると言えます。テレワーク中の部下を必要以上に監視する行為は『リモートハラスメント』と言われかねず、注意が必要です。テレワークでは上司が部下を信用する姿勢を示すことも大切です」
●指示内容を明確にして信頼関係を築いて
「部下に指示を与えるときは、何を、いつまでに、どのように、どれくらいの水準に仕上げるかについて、明確に伝えることが大事です。指示内容を明確にすることで、部下が仕事を進めやすくなるだけでなく、不要なストレスを感じたり、ミスを発生させたりすることが少なくなり、良好な信頼関係の構築につながります。上司と部下との間に信頼関係を築くことは、ハラスメント防止の観点からとても重要なことです」
パワハラを防止するために必要な「仕事とプライベートの棲み分け」
同調査では「部下に対するハラスメントを防止するために必要だと思うもの」として「仕事とプライベートの棲み分け」52.3%と「ハラスメントに関する知識の習得」45.0%が多い結果に。
やはりテレワークは仕事とプライベートが混合しがちだ。この点について毎熊さんは次のようにアドバイスする。
「上司が部下のプライベートに必要もなく踏み込むことは、ハラスメントにつながるという意識を持っていることは大事なことです。特にテレワークでは、仕事を生活の場が同じであるため、例えば、WEBカメラを設定する際には、できるだけ私的な空間が写り込まないように注意したり、たまたま写り込んだプライベート情報を話題にしたりしないなどの配慮が求められます。
また、就労時間外に電話やメール、チャットなどで仕事の連絡をすることも行うべきではありません。フランスをはじめとする欧州諸外国では、就労時間外の仕事のメールや電話を労働者が拒否できるという『つながらない権利』が法律で認められており、日本でも、ワークライフバランスが推進される中でつながらない権利に対する意識が高まりつつあります
パワハラ防止法を受け、さらに管理側はパワハラ予防のための具体的な対策が必要になっている。
「どのような行為がハラスメントにあたり、どのような行為がハラスメントにならないのか、職場におけるセクハラ、マタハラ、パワハラについての法的規制を正しく理解しておくことは、部下の指導・管理を適切に行う上で、とても大事なことです。ただ、それだけでなく、上司が一人ひとりの部下に関心を持ち、日頃から部下と積極的にコミュニケーションをとって働きやすい職場環境の構築に取り組むことが、職場のハラスメントを防止する上で必要不可欠であること理解しておいていただきたいと思います」と毎熊さん。
まずは上司としてできることからはじめる必要がありそうだ。
【取材協力】
特定社会保険労務士 毎熊典子さん
慶応義塾大学法学部法律学科卒。シニアリスクコンサルタント、プライバシーコンサルタント、健康経営エキスパートアドバイザー。ダイバーシティ時代における労務管理に関する講演・執筆多数。【主な著書】『これからはじめる在宅勤務制度』(中央経済社)
フランテック社会保険労務士事務所
https://www.maikuma.jp/
【参考】
東京労働局「パワーハラスメント対策等」
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/00330.html
取材・文/石原亜香利
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