フィンセント・ファン・ゴッホ《ひまわり》1888年 油彩・カンヴァス
年間入場者数が600万人を超え、世界の美術館・博物館のトップ10に入るロンドン・ナショナル・ギャラリー。質の高い西洋絵画を網羅する世界屈指の美術館から、ゴッホなどの選りすぐりの傑作を披露する「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」は、新型コロナウイルス感染症の感染予防・拡大防止のため開幕が延期されていたが、ついに2020年6月18日より東京・上野の国立西洋美術館にて日時指定制で開催される。
約200年の美術館の歴史において、英国外での所蔵作品展の開催は初めてのことで、全ての作品が日本初公開だ。同美術館が規定する新型コロナウイルス感染症の感染防止策に応じながら、この貴重な展覧会を楽しみたい。
※本記事は2020年3月に取材時のものです。
レンブラント・ハルメンスゾーン・ファン・レイン《34歳の自画像》1640年 油彩・カンヴァス
粒ぞろいの傑作ばかり。本展覧会で必見の作品
カルロ・クリヴェッリ《聖エミディウスを伴う受胎告知》1486年 卵テンペラ・油彩・カンヴァス
受胎告知と言えば、通常は大天使ガブリエルとマリアのみが描かれることが多いが、この作品には様々なモチーフと、日常の場面が描かれている。
ガブリエルの隣で町の模型を持っているのは、この作品が描かれた町の守護聖人である聖エミディウス。受胎告知という聖なる日に、教皇が治めていたこの町に自治権が与えられたという意味が込められている。
鳥の羽、建築物の装飾など、緻密に描かれている。色調も明るく、また絵画の大きさにも圧倒されるだろう。
ヨハネス・フェルメール《ヴァージナルの前に座る若い女性》1670-72年頃 油彩・カンヴァス
本作品はフェルメールの晩年に描かれた。光の加減や、フェルメールブルーと言われる青色も、作者を代表する「真珠の耳飾りの少女」などと比べると、穏やかな色合いに感じられる。
一見暗い作品であるように思われるが、額縁が立てかけられている背景の青い壁と、照明が作品をより一層美しく見せており、作品からはやさしい明るさが放たれている。
首元の真珠が点々と光沢し、手前のヴィオラ・ダ・ガンバや女性の白い袖も明るく際立っている。今にも話し掛けてきそうな、動き出しそうな女性の眼差しに惹かれてしまうだろう。
ピエール=オーギュスト・ルノワール《劇場にて(初めてのお出かけ)》1876-77年 油彩・カンヴァス
本展覧会ではルノワール、セザンヌ、ポール・ゴーガン、ドガ、モネなど名立たるフランス近代絵画も多数展示されている。
このルノワールの作品は、若い少女が初めて劇場に出掛けて、桟敷に座る横顔が描かれている。花を持つ手にも自然と力が入っているようだ。緊張感と、これから始まる舞台にワクワクとしているような感情も読み取れる。背景は精緻には描き込まれておらず、ぼんやりとしているものの、賑やかな会話が交わされている様子が感じられる。
フィンセント・ファン・ゴッホ《ひまわり》1888年 油彩・カンヴァス
何と言っても、今回の一番の見どころはこちら。
展覧会の最終章の最後に、特別な一室に静かに鎮座している《ひまわり》。
ひまわりについて簡単に説明したい。
ゴッホが南仏アルルで過ごした時代に、花瓶に挿したひまわりは7作描かれ、本作品は4作目に当たる。最初に描いた4枚は、ゴッホが友人のポール・ゴーガンをアルルに迎え入れるために描いたものだ。ゴーガンの寝室に飾るにふさわしいと認めた2作に自筆のサインを入れ、本作品はその貴重な一枚である。
この4作目の特徴は、背景までもが黄色である点だ。背景が青色や緑色の作品もあるが、本作品は全て黄色で統一されている。クリームがかった黄色の背景は、明るくも柔らかな印象を与え、ひまわりの花を引き立てている。
そしてひまわりは、近くに寄って見ると、花の部分だけ厚塗りしていることが分かる。ぼってりと厚みがある力強い筆遣いで、ゴッホがゴーガンを待ちわびながら、情熱を注いで描いていた様子が思い浮かぶようだ。ゴッホの生命力や希望を感じる作品を目の前にすると、元気がもらえて明るい気持ちになるだろう。
また、ひまわりの連作を紹介するコーナーもあるので、作風がどのように変化していったのか、一覧で知ることができるのも魅力だ。