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【開発秘話】コロナ禍の2か月間で累計10万個以上売れたシヤチハタ「手洗い練習スタンプ おててポン」

2020.06.13

■連載/ヒット商品開発秘話

 いまだ収束の気配を見せない新型コロナウイルス感染症。ワクチンや特効薬がないので、感染を防ぐにはマメな手洗いとうがいが欠かせない。

 新型コロナウイルス感染症の流行に伴い急激に売れているのが、シヤチハタの『手洗い練習スタンプ おててポン』(以下、おててポン)である。

『おててポン』は2016年11月に発売された手洗い練習スタンプ。手を洗う直前にスタンプを押し、印影がキレイに消えるまで石けんやハンドソソープを使って手洗いすることを繰り返すと、上手な手洗いを身につけることができるというものである。発売当初も話題性が高く快調に売れたが、新型コロナウイルス感染症が深刻になったことから需要が急伸。2018年11月に発売された『おててポン キャップレス』と合わせ、2020年2月の売上が対前年比で10倍に拡大した。また、同年3月と4月の2か月だけで累計10万個以上を販売している。

手洗い練習スタンプ おててポン

コンセプトは名古屋芸大の学生が提案

『おててポン』の誕生には名古屋芸術大学も深く関わっている。同社は2010年から名古屋芸術大学デザイン学部ヴィジュアルデザインコースとの産学連携活動を実施しているが、2012年のプロジェクトで学生から『おててポン』のコンセプトが提案された。スタンプを使って子どもたちの手洗いを促すという用途提案を最優秀賞と高く評価した。

 高く評価したポイントは、子どもの手洗いを促すことに特化して商品化のアイデアを出したところにあった。肌に押すスタンプは、これまでにもアイデアとしてはあったが、それは用途・目的が別のもの。加えて、子どもの手洗いを促すことに特化したアイデアは、同社には思いつかないものであった。

 商品企画を担当したデジタルマーケティング部商品企画課 主任の松田孝明氏は、「素晴らしいコンセプトでしたので、専用のものをきちんとつくりたいと考えました。インキだけでなく、使われる場所や親子が楽しく使うシーンを意識して、形状やサイズを一から検討するところから始めています」と振り返る。

シヤチハタ
デジタルマーケティング部商品企画課 主任
松田孝明氏

安全だが少し洗い落としにくいインキの開発

 子どもの手に押すことから、『おててポン』にはインキが安全であることが何よりも重要であったが、石けんやハンドソープで30秒ほどしっかり洗ってもらえるよう少し洗い落としにくくすることも求められた。

おててポンの使い方

 同社では様々な種類のインキを取り扱っているが、食用色素を使ったものは理想に比較的近かったことから、これを基にして研究を進めていくことにした。中には洗い落ちてしまいやすいものもあったことから、組成を1つずつ検証。どんな石けんを使っても同程度の洗い落としにくさでなければならないことから、少なくとも13種類以上の石けんで洗い落としにくさを検証したという。

 松田氏のもとに最初のサンプルが届いたのは2015年12月のこと。色も含め最終的な仕様が決まったのは、2016年夏だった。

 インキの色はブルーとピンクの2色。イエロー、ブラウン、レッド、グリーンも候補に挙がり試作をつくったが、手に押したときの見やすさや子どもには明るい色調が喜ばれるといった理由から、ブルーとピンクに決まった。

 印面については、100案程度考えられた中から両手を前に向けて迫ってくるばい菌を漫画チックにしたもの2パターンが採用される。「子どもの手に押すもののために怖くないものにした」と松田氏。ばい菌をモチーフにしているが、イメージとしては細菌やウイルスに近いものにこだわって絞り込んでいき、現在のものに決めた。

おててポンの印面。インキ色ごとに異なるデザインを採用している

 商品名は当初、学生から提案されていた『ウォッシュポン』で考えていた。ところが、商標権の関係から使うのが難しいことが判明し、新たに考案することになった。

 商品名の候補はいくつも挙がったが、絞り込みを進め最終案として残った4つの中にあったのが『おててポン』。他の案より短くて覚えやすく、子どもが使う商品らしい可愛さとなじみやすさがある点が採用の決め手になった。

 検証では小さな子どもがいる社員に協力してもらったが、子どもたちは概ね、楽しみながら使ってくれた様子。普段は素直に言うことを聞かない子どもが寄ってきて、手を広げて「スタンプ押して」と言い喜んで洗面台に向かった、という声が聞かれた。松田氏の子どもも、普段は面倒臭がって手洗いを一瞬で終えてしまっていたが、『おててポン』を押すようなったら、喜んで手を洗うようになったそうだ。「伝えたこと、教えたことを、子どもがうまうできない、やってくれないのは、親にとってストレス。ちゃんとしたことを喜んでやってくれるようになったので、手をきちんと洗ってくれず困っていたことを解決できるという期待が試作段階から持てました」と松田氏は話す。

大人が使うことを想定した『おててポン キャップレス』

 こうして『おててポン』は完成し発売に至る。発売後すぐにテレビで紹介されるなど、話題性は十分あった。その後はギフト商材や文具の見本市に出展した際に洗面台を設けて体験もらったりしたほか、使い方や使用シーンを紹介する動画を制作。2017年2月の「東京インターナショナルギフトショー春2017」の新製品コンテストで準大賞を受賞した。

『おててポン』は子どもに手洗いを促すためのツールとして開発されたが、同社は大人をターゲットにする検討を始めた。その結果誕生したのが、『おててポン キャップレス』である。

おててポン キャップレス

『おててポン キャップレス』は介護施設や食品工場といった手洗いの徹底が求められるところでの使用を想定して開発された。大人が自分の手に自らスタンプを押して手を洗うという面倒なことをするとは考えにくいことから、一般家庭ではなく介護施設や食品工場などでの使用を想定したという。

 これらのところは、衛生面が原因による問題が起きてはならないところだが、「施設や工場の管理者が職員や従業員にもれなく、手洗いをしっかり指導するのは大変なこと」と松田氏。手洗いの習慣が身についていない外国人労働者も増えてきていることから、少しでも手洗いの指導を行き渡らせるために活用してもらうことを狙った。

 ターゲットの違いに伴い、『おててポン』から細部が見直された。最大の違いであるキャップレス仕様にしたのは、一般家庭と違い大人数で使うことから、使用の都度キャップを外すのは非効率な上に、力の弱い高齢者でも使いやすいものにするため。キャップレスにすることで連続して押せるようになるわけだが、この特性を利用すれば、幼稚園や保育園で園児に手洗い習慣を身につけてもらうために活用することもできるという。

 印面のデザインも異なる。『おててポン キャップレス』はシンプルに手のイラスト。松田氏は「『おててポン』のようなばい菌をやっつけるというストーリー性は必要なかったので、きちんと落とせたかどうかの目安という意味だけを持たせました」と話す。

おててポン キャップレスの印面。おててポン同様、インキ色ごとに異なるデザインを採用している

取材からわかった『おててポン』のヒット要因3

1.毎日使える

 新型コロナウイルス感染症で注目を一気に集めた感があるが、手をきちんと洗うということは感染症だけでなく、食中毒の予防にもなる。子どもが手洗いを習慣として身につけることができるまで、毎日使うことができる。

2.子ども向けのやさしいイメージ

 購入するのは大人だが、使うのは子ども。子どもが怖がらず親しみを持ってくれるよう印面や本体のデザインを配慮したことで、子どもも使うことを受け入れてくれた。

3.親のストレス軽減

 小さな子どもが手洗いを習慣にするには、親はこれまで、何度も繰り返し言い続けるしかなかったが、これだけではなかなか習慣にならない。言うことを聞いてくれないと親はストレスを溜めがちだが、『おててポン』を活用すると子どもが喜んで手洗いをするようになり、親のストレスを軽減する効果もあった。

 シヤチハタの商品は印鑑のように印を残すものが主力だが、『おててポン』はその逆で、つけた印をあえて消す。自らアイデンティティーを否定するようにも映るが、その潔さが子どもたちに手洗い習慣を身につけさせ、ひいては感染症から守ることに貢献しているのかもしれない。

製品情報
https://www.shachihata.co.jp/products/new_item/otetepon/index.php
https://www.shachihata.co.jp/products/new_item/otetepon2018/index.php

文/大沢裕司

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