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脚本、コスチュームデザイン、プロデューサー、主演までこなした天才少年監督グザヴィエ・ドランの自伝的デビュー作「マイ・マザー」

2020.06.09

■連載/Londonトレンド通信

 ずらり映画タイトルが並ぶ配信サービスで、記憶に新しい最近の話題作や誰もが知る古典的名作を外した中から、秀作を取り上げていきたい。

日本で売れないはずがないドラン、時間差で来た『マイ・マザー』

今回もまた、前々回、前回と続いた長編監督デビュー作だ。監督の根底にあるテーマに、ためてきたアイディアをここぞと注ぎ、満を持して発表するデビュー作、面白くないわけがない。

 とはいえ、意気込みに力量が追いつかず、空回ることもあろう。その点、前々回、前回の監督は、すでにアーティストとして活躍中で力量は十分、年齢的にも成熟してのデビューで若気の至りみたいなこともなかった。

 さて、今回のカナダ出身グザヴィエ・ドラン監督『マイ・マザー』(2009)はどうだろう。カンヌで発表時のドランは20歳になったばかり、加えて内容は自伝的なものだ。自身に題材をとって10代で撮った映画とは、いかにも独りよがりで空回ってそう。だが、このデビュー作は、そんな先入観を粉砕するどころか、天才出現を告げるものだった。

 この作品でドランが務めたのは監督だけではなかった。16歳で書いたという脚本で、コスチュームデザインも手掛け、プロデューサーもしつつ、主演だ。カンヌでは8分間のスタンディングオベーションを受けたにとどまらず、3冠に輝いた。

 凄い人が出てきた。この人は日本で売れる、いや、日本でこそ売れると確信した。なぜかというと、若くて可愛いから。こちらは『マイ・マザー』で、ドランの可愛い顔立ちがよくわかるシーン。

©2009 MIFILIFILMS INC

才能は世界に通用するとして、若くて可愛いことを貴ぶのはなんたって日本だ。可愛い男の子を一手に引き受けるジャーニーズ事務所や、可愛い女の子をマネタイズする新手法を次々繰り出す秋元康氏みたいな人がいる国はそうそうないだろう。

 ここイギリスでも、若くて可愛いことで売れるものもなくはない。例えば、ボーイズグループとか。でも、ワン・ダイレクションで一番人気だったハリー・スタイルズなどは、セクシー・ランキングに名を連ねたりしていて、可愛いらしい感じでもない。小柄で華奢、童顔のドランみたいなタイプは日本の方が受けると思う。

 その予想は、半分あたって、半分はずれた。日本では、2011年に『マイ・マザー/青春の傷口』としてシネフィル・イマジカで放映されたが、劇場公開は後述するドラン長編監督3作目『わたしはロランス』(2012)の2013年公開後になった。

配給 ピクチャーズデプト

 『マイ・マザー』として劇場公開された映画は、今ではDVD/ブルーレイにもなっている。ドランが日本で紹介されると、監督作ばかりでなく出演作も話題になったり、ドラン特集を組む雑誌もあった。デビューの勢いが日本まで届くには思いのほか時間がかかったが、売れるという予想の方はあたったわけだ。
 
 前置きが長くなったが、『マイ・マザー』はどういう映画だったか。もちろん顔が可愛いだけでカンヌ3冠はとれない。ドランの根底にあるテーマを伝えることに、若さを感じさせる勢いだけでなく、映像の趣向と巧みなピッチ配分で成功した映画だった。思春期の息子と母の物語に、後に発展していく2つのテーマが見て取れる。

©2009 MIFILIFILMS INC

 テーマの1つはセクシュアリティだ。母(アンヌ・ドルヴァル)と2人暮らしの17歳になるユベール(ドラン)には恋人がいるのだが、それは母が親友と思っているアントナン(フランソワ・アルノー)なのだ。

©2009 MIFILIFILMS INC

だが、この映画では、あっさりした扱いになっている。母がショックを受けるのも、息子がゲイだったことより、アントナンの母がそれを知っていたのに、自分が知らなかったことだ。もう1つのテーマ、母と子の愛憎の方に重点が置かれている。

 実生活でもドランはゲイであることを公表している。また、父母は離婚してはいないようだが、ドランが幼い頃に別れた。ドラン自身が自伝的な作品とコメントしているように、母と2人で暮らすゲイの男の子というユベールの設定は、ドランが家を出るまでの実生活そのままだった。

©2009 MIFILIFILMS INC

  母との絆はとても強い。だからこそ反発も大きい。コミカルなまでに大げんかする現在の母と息子に、穏やかに愛情が通い合った甘やかな幼少時が重ねられると、失われた時へのノスタルジーで涙してしまう。

©2009 MIFILIFILMS INC 

 フランス語の原題はJ'ai tué ma mère、直訳したI Killed My Motherが英題だ。ユベールが教師(スザンヌ・クレマン)を驚かせた、学校の課題につけたタイトルだ。もちろん母殺しの話ではないが、そこまで息子は母に苛立ち、自分の苛立ちに困惑もしている。過去の映像だけでなく、空想的な映像も効果的に差し込まれる。

©2009 MIFILIFILMS INC 

若くしてカンヌで受賞するほどの完成度で何でもこなしてしまうドランが天才肌であることは疑いようもないが、一方でたくさんの映画から学んでいることもわかる。カラフルな色彩を散らしながら大きく音楽をかぶせる、ウォン・カーウェイ監督が得意とする手法など、このデビュー作では様々な先人たちのテクニックが駆使されている。

 モノクロ、スローモーションなども使い、遊び心いっぱいのようで、上滑りにならない、効果を計算した映像だ。大真面目に語られては息苦しくなりそうな、あふれんばかりの肉親の情を、ユーモアで息継ぎさせながら伝えていく話の運びも周到だ。

 カンヌ当時は弱冠20歳のドランだったが、キャリアは長かった。俳優として子役から活動している。加えて、父親のマヌエル・タドロスも『マイ・マザー』にも顔を出している俳優で、歌手でもある。前述のように母と暮らしていたドランだが、父と過ごす時に連れられて行った映画やテレビのスタジオからも、芸能の世界に馴染み、学んでいった。ちなみに母親の方は教師だ。

 さて、日本で先に劇場公開された『わたしはロランス』は、セクシュアリティというテーマを強く打ち出した映画だ。彼が他の女に…というのはよくある別れの理由だが、この映画で描かれるのは彼が女に…だ。脚本もドランが手掛け、女性化していくロランスをメルヴィル・プポーが、その彼を諦めきれない彼女を『マイ・マザー』で教師役だったスザンヌ・クレマンが演じた。ドランはワンシーン顔出し程度に出演している。

 母と息子というテーマは、長編監督5作目『Mommy/マミー』(2014)でより濃い形にしてみせた。母親役は『マイ・マザー』と同じアンヌ・ドルヴァルで、息子役はアントワン=オリヴィエ・ピロン、この作品ではドランは出演せず、監督、脚本など裏方に徹している。息子はADHDで、より母の助けを必要としながら、成長するにつれ、母の手に負えなくなっているという設定だ。やはり、クレマンが2人を助ける長期休暇中の教師を演じている。

 『マイ・マザー』はドランの萌芽がみっしり詰まった映画だったのだ。その後、ドランは、映画界にとどまらずアデルのミュージックビデオを作ったり、ハリウッド俳優を起用し英語の映画を撮ったりと、ますますワールドワイドに活躍している。天才少年ドランも今年で31歳、もう少年ではないがまだまだ若手、たっぷりある時間を使って、どこまで伸びるだろう。

Amazon Prime Video、U-NEXT、TSUTAYA TV 等で配信中 ※予告なく配信終了することがあります。

文/山口ゆかり
ロンドン在住フリーランスライター。日本語が読める英在住者のための映画情報サイトを運営。http://eigauk.com

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