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敬遠されがちなGKを花形ポジションにしたい!コーチとしての第一歩を踏み出した元サッカー日本代表・楢﨑正剛

2020.05.21

Photo/GettyImages Sport,Etsuo Hara

「みんな、準備はできてるかな? 学校始まるのが嫌だと思ってる子はいないかな?」

 5月16日の朝9時から行われた名古屋グランパスの小学生向けオンラインGKセミナー。今年からアカデミーダイレクター補佐兼アカデミーGKコーチに就任した楢﨑正剛(クラブスペシャルフェロー=CSF)が子供たちに優しく声をかけた。100人近い参加者は北海道から九州まで幅広く、「いろんな土地の言葉で話しかけられるのは新鮮」と彼自身も充実感を持って、GK最大の仕事であるシュートストップについて映像やスライドを使いながら分かりやすく説明した。

 1時間近い講義の後、楢﨑氏は「1つ質問があります。講義の間に僕の何が変わりましたか?」と子供たちに投げかけた。答えはジャージの色。「そういうところも見て気づくことがGKにとっては大事なんですよ」とウイットに富んだ言い回しで、つねに集中力を持って状況を見極めることの重要性を強調した。
 指導者というのはさまざまな工夫を凝らしながら選手に気づきを与え、新たな意欲を湧かせることが仕事。GKコーチ業の第一歩を踏み出したばかりの彼は今、積極的なトライを繰り返しているという。

日本代表として4度ワールドカップへ

 2019年1月に現役引退を発表した楢﨑氏は、ご存じの通り、日本の最高峰守護神として24年間にわたって活躍した名守護神だ。95年に横浜フリューゲルス入りし、99年元日の天皇杯制覇を最後にクラブが消滅したのを機に名古屋へ移籍。それから20年間在籍し、2010年のJ1初制覇の際にはMVPにも輝いている。J1・631試合出場というのは現時点で歴代最高記録。今年2月23日に遠藤保仁(ガンバ大阪)に並ばれ、このまま行くとJ再開後には追い越されてしまうが「ナンバーワンというのが1つの名刺代わりだったんで、それがなくなるのはちょっと寂しいですけど、最高に相応しい選手が1位になるんで、僕が1位でも大丈夫です」とフリューゲルス時代の後輩に敬意を払っている。

 日本代表としても98年フランス、2002年日韓、2006年ドイツ、2010年南アフリカのワールドカップに参戦。4回の世界舞台に赴いたのは彼と川口能活(日本サッカー協会アスリート委員長)の2人だけ。「能活とは現役時代はつねに切磋琢磨してきたし、GK指導者ライセンス講習も一緒に受けた仲間。特別な絆を感じます」と言う。彼らが揃って指導者になるべく本格的に動き出したことは、日本サッカー界にとって朗報と言っていい。

 とはいえ、引退後の1年間はGK指導だけに専念していたわけではない。クラブのイベント参加などアンバサダー的役割をこなすことも多かったようだ。
「引退を決めた時はその後のビジョンを明確には決めていなかったんです。自分の中では『いろんなことに挑戦したい』という思いがあって、クラブがCSFという新たな役職を用意してくれたので、広告塔的な役割も重要だと考えて取り組み始めました。『フェロー』には『研究する人』という意味もある。自分なりのGK指導を突き詰めていきたいという希望も持っていました」
 そんな楢﨑氏が引退後、最初に赴いたのは協会のGKプロジェクトの合宿。全国の優秀なGKを集めて教える場で、一足先にGKコーチになった川口氏も参加していた。

「僕も能活もそうだけど、長年現役をやってきた人間は感覚でプレーしていたところが多いと思うんです。それを人に伝えるのは簡単なことじゃない。言葉で分かりやすく説明したり、改善点を指摘したりすることの難しさを再認識させられましたね。ただ、現役を終えたばかりの自分たちはまだ体が動くので、実際にやって見せることはできる。そこはアドバンテージだし、生かしていこうと思っていました」

 その後は北海道や秋田など全国各地のサッカークリニックに参加。子供たちにGKへの関心度を高めてもらおうと働きかけてきた。ただ、日本では香川真司(サラゴサ)や南野拓実(リバプール)らが世界で活躍していることが影響しているのか、アタッカー人気が絶大で、GKはそれほど重要視されていないところがある。そこはイタリアやイングランドなど欧州強豪国との大きな違いだ。

「子供たちと接していても『GKになりたい』という子はそんなに多くないのかなと感じる時があります。欧州では花形ポジションのはずなのに、日本では敬遠される傾向もある。そこを何とかしないといけないという思いは強いですね。
 GKの一番の醍醐味は『あまり目立たなそうで物凄く目立つところ』かな(笑)。サッカーでは点を取る選手が一番目立ちますけど、そこに対峙するGKも同じくらい目立つ。決定的シュートを止めたり、ピンチを阻止したら、味方も観客も大いに湧きますよね。僕自身は派手に目立つことを好む性格ではないけど、その快感はやっぱりすごい。それを多くの子供たちに知ってほしい。自分が彼らのきっかけになれればいいですよね」と彼はGK志願者増を強く願っている。

指導者に恵まれたからこそ、今がある

 子供たちや若い選手にとっては、やはりどんな指導者に出会うかが人生を左右する大きなポイントになる。楢﨑氏自身も奈良育英高校時代には名将・上間政彦監督(時之栖スポーツセンターGM)から多くを学び、プロになってからは横浜フリューゲルスや名古屋でマザロッピにGK哲学を叩き込まれ、日本代表入りした頃にはマリオという熱心なGKコーチに熱血指導を受けた。こうした人々との出会いが長いキャリアの糧になったのは確かだという。

「僕は本当に数えきれないほど沢山の指導者に教えてもらいました。その中でGKコーチに関して言うと、経験に基づいた指導されるとより説得力を持って聞き入れられるというのはありましたね。
 最初の外国人GKコーチだったのはマザロッピ。彼は練習内容が豊富だったし、左右両足で全く同じようにボールを蹴れたんで、すごく衝撃を受けましたね。負けたり、ミスをした後のメンタルの部分まで踏み込んでくれていろんな話をしたし、そういう部分でも助けられました。
 20代頭に代表でお世話になったマリオは『GKはキャッチングが全ての基本』だと身を持って示してくれました。僕らが絶対に取り切るまでは絶対に練習を終わらせなかったし、どこまでもボールを蹴り続けていた。そういう情熱を持った人と若い時に関わるのは選手にとってすごく大事。自分も少年たちにそういう影響を与えられる人間にならなきゃいけない。今はそう心掛けています」

キーワードは『自主性』と『主体性』

 一方で、名古屋の1スタッフとして、クラブの伝統や哲学を子供たちに伝えていく仕事も担っている。名古屋のアカデミーと言えば、日本代表キャプテン・吉田麻也(サンプドリア)や東京五輪代表候補の菅原由勢(AZ)のように自立心と発言力を兼ね備えた選手を何人か輩出しているが、彼らに続く人間を育てていくことが重要だと楢﨑氏も理解しているという。

「麻也や由勢は名古屋アカデミーの1つのモデルだと思います。彼らは『高みを目指そう』という野心もありますし、自分で考えて積極的に行動できる。人間的にもオープンですよね。そういうキャラクターは成功するために必要不可欠。グランパスでは『自主性』や『主体性』をキーワードにしていますし、そこは僕自身も強調しておきたい点ですね」

 こうして引退後の1年で多くの見識を深めた楢﨑氏は、2020年1月からアカデミーの指導者として本格的に動き出した。新型コロナウイルスの感染拡大によって、この3か月間はピッチ上でのトレーニングや指導ができていないが、冒頭のオンラインGKセミナーを筆頭に、できる限りの活動を行うように努めている。

「今はまだ愛知県独自の緊急事態宣言が出ていて、アカデミーの活動が止まったままなんですけど、再開に向けていろんな準備をしていかなければいけない時期には来ています。僕自身もコーチとしてはまだ新人なんで、勉強しないといけないことは沢山あります。いずれは協会に引っ張られるような指導者にならないとダメだと思うし、日本代表になれるポテンシャルの大きな選手も育ててみたいですね。これまでのプロ選手の経験を自分なりに還元できるように頑張っていきます」

 こう語気を強める楢﨑氏の中には「外国人GKに押されている日本サッカー界を何とかしたい」という危機感もあるはずだ。J主要クラブの大半が外国人守護神に依存する現状を何とか打開しなければ、Jリーグの発展も、日本代表のレベルアップもない。そのためにも、彼には持てる力の全てを注ぎ込んでほしいものである。

取材・文/元川悦子

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