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日本では幻の名作になりかけた、実在のIRA活動家ボビー・サンズの生き様をリアルに描く映画「HUNGER/ハンガー」

2020.05.14

■連載/Londonトレンド通信

 ずらり映画タイトルが並ぶ配信サービスで、記憶に新しい最近の話題作や誰もが知る古典的名作を外した中から、秀作を取り上げていきたい。

事件をリアルタイムで見ていた少年が成長して撮った『HUNGER/ハンガー』

 スティーヴ・マックィーン監督マイケル・ファスべンダー主演『Hunger』(2008)は、両者が広く知られるきっかけになった映画だ。

 今でこそオスカー監督とスター俳優だが、『Hunger』前の認識は、マックィーン監督はアート界の人、ファスべンダーはテレビドラマの人で映画に出始めたところだった。

 ロンドンに生まれアートを学び、ターナー賞を受賞、ビジュアル・アーティストとして活動していたマックィーン監督にとって、長編映画はこの『Hunger』がデビュー作だ。それが、お披露目したカンヌでカメラ・ドールを受賞した。

 映画界への華々しいデビューを果たしたマックィーン監督は、ファスベンダーが性依存症の主人公を演じた2作目『SHAME -シェイム-』(2011)でヴェネツィアでの三冠、ファスベンダーが脇を固めた3作目『それでも夜は明ける』(2013)でアカデミー賞作品賞受賞まで昇りつめた。

スティーヴ・マックィーン監督とマイケル・ファスべンダー
ロンドン映画祭『SHAME -シェイム-』会見

 ドイツ生まれのアイルランド育ち、イギリスではアイリッシュ俳優として知られていたファスべンダーも、マックィーン監督と地歩を固めていくとともに、X-MENシリーズなどにも登場、今ではすっかりハリウッド俳優だ。

 そんな2人の活躍を予見するのは、『Hunger』を観ていれば難しいことではなかった。それほどの凄みが、この映画にはある。

 ファスべンダーが演じた主人公は、実在のIRA活動家ボビー・サンズだ。サンズが27歳で亡くなった1981年のハンガー・ストライキを、文字通り体を張って見せる。体重を極限まで落とし、やせ衰えていきながら、ストライキ中に下院議員に選出されるほどの支持を集めたサンズのカリスマ性をも感じさせる。

© Blast! Films – Hunger Ltd. 2008 All Rights Reserved.

 北アイルランドにあるメイズ刑務所の獄中という限られた中でのストライキは、5年に渡って段階を経て行われた。囚われていたIRA活動家たちが、政治犯の承認がなくなったことに対する抗議として、最初に行なったのは囚人服を拒否することだった。

© Blast! Films – Hunger Ltd. 2008 All Rights Reserved.

 マックィーン監督は、元囚人への取材を重ね、サンズが始めたハンガー・ストライキに仲間たちが続いたメイズ刑務所の様相に迫った。

© Blast! Films – Hunger Ltd. 2008 All Rights Reserved.

 ストライキをする囚人だけでなく、看守にとっても試練であったことが描かれる。

© Blast! Films – Hunger Ltd. 2008 All Rights Reserved.

 サンズ以外にもアイルランドの俳優が配され、アイルランドで撮影された。リアリティある中でも、サンズと神父(リアム・カニンガム)の討論シーンは17分の長回しで、その臨場感は圧倒されるほどだ。

© Blast! Films – Hunger Ltd. 2008 All Rights Reserved.

 ご存知のようにIRAはアイルランド統一を目指す組織で、手段としてテロ行為もあった。だが、この映画はIRAの是非を問うものではない。 

 長い歴史があるアイルランド問題、アイルランド人の中でさえ様々な立場があり、IRAに対しても賛否両論がある。

 確かなのは、ハンガー・ストライキで、注目、支持を集めながら、衰え死んでいったサンズが、リアルタイムでそのニュースに接していた11歳のマックィーン少年に、数十年後、映画を撮らせるほどのインパクトを与えたということだ。

 2008年のロンドン映画祭でインタビューした時、マックィーン監督は「ピュアな人間ドラマとして観てほしい。扇動したり、主義主張を押しつける気はない。ただ観て感じてほしい」と語った。政治的な見解ばかりを求められることに、反発するところがあったようだ。

 うがった見方をするなら、奴隷制度という人種差別の極みを描き、ポリティカルにコレクトだった『それでも夜は明ける』とは違って、『Hunger』はテロリストが主人公?と言われかねない映画なせいか、その評価の高さに比して、それほど大々的には公開されなかった。2008年5月にカンヌで世界へのお披露目、イギリスでは10月にロンドン映画祭でのお披露目後すぐの公開、ヨーロッパでも公開する国が多かったが、他はそうでもなかった。

 日本では、2008年の東京国際映画祭で上映されるも、公開されたのは2014年、『それでも夜は明ける』がアカデミー賞を受賞した後だった。まず、邦題『HUNGER/ハンガー』として限定オンライン配信され、その後、限定劇場公開、『HUNGER/ハンガー 静かなる抵抗』としてDVD/ブルーレイ化された。

価格:¥3,800(税抜)
発売・販売元:ギャガ

『それでも夜は明ける』のオスカー獲得がなければ、日本では幻の名作として終わったかもしれない。

Amazon Prime Video等で配信中 ※予告なく配信終了することがあります。

文/山口ゆかり
ロンドン在住フリーランスライター。日本語が読める英在住者のための映画情報サイトを運営。http://eigauk.com

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