
新型コロナウィルスの影響による景気悪化が原油価格の急落を招いています。
一方で、一時はマイナスにまで落ち込んだWTI原油先物価格に連動するETFに個人の買いが殺到しています。まだまだ安いWTI原油ETFは今買いなのでしょうか。なお、原油相場に連動するETFは現在変動幅が大きくなっていることから、東証から注意喚起がなされています。
原油先物とは?
原油をその時の価格で買うことを現物取引といいます。ただ、原油価格は日々動きますので、先日付で価格が大きく変動してしまうのを防ぐため、現在算定されている先日付の価格で現在時点で予約買付することができます。先に予約することで、買付代金を確定させることができます。これを「先物取引」といいます。
原油先物は、上記のように買付代金を確定させるために価格変動リスクを回避する目的で取引する「ヘッジ目的」で取引することができますが、一方で投資としてファンドや金融機関などが取引していることもあります。
原油先物の主なものは、以下になります。
単位が1バレル(160リットル程度)で、先物価格は1バレル=◯ドルと表示されます。
1.ドバイ原油
アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで算出される原油で、アジア向けに取引されます。日本が輸入する原油価格もこの価格が一つの基準になります。
2.北海ブレンド
イギリス領の北海油田で生産される原油で、ヨーロッパ向けに取引されています。
3.WTI原油
アメリカテキサス州西部、ニューメキシコ州南東部で算出される原油で、主にアメリカ向けに取引されています。
WTI原油は、不純物が少なく商品価値が高いガソリンや軽油が多く採れるため、上記2つよりも取引価格が高いのも特徴です。
WTIは、世界最大の消費国であるアメリカ向けであることから、景気を占う指標としては一番注目度が高いです。
このように、主に3つの市場にで取引されており、景気動向を見るために重要な経済指標としてはWTIが一番重要となります。
原油は実物資産といって物自体に価値があるため、株式のようにゼロになることはないといわれています。しかし、2020年4月20日WTI原油先物5月物が初めて一時マイナスになりました。
一時マイナスになぜ急落?原因は主に2つ
原因は、主に新型コロナウィルスによる需要の消失と需給調整の決裂にあります。
新型コロナウィルスの感染拡大を防ぐためのロックダウンや緊急事態宣言により、移動や旅行制限、経済活動低迷により、石油需要が消失しています。
さらに、石油が使われないことで貯蔵していた原油の在庫が増え、保管しておけるタンク容量の上限が超えそうで、保管しておけない原油先物取引の買い手がどんな安値でも売らざる負えなくなったことで、一時マイナスとなってしまいました。
原油価格は採算が取れるよう価格を一定に保つために、産油国は需給調整を行うため独自のグループを作っています。価格が下がれば、グループ内で生産量を減らすことで需給を逼迫させ価格の値下がりを防ぎます。
<主な石油産出国グループ>
・石油輸出国機構(OPEC)
サウジアラビア、イラン、クウェート、イラク、ベネゼエラ、カタール、アルジェリアなどの中東の石油産出国13カ国が加盟。全世界の原油生産量の40%、埋蔵量の70%を占める。
・OPECプラス
OPECにOPECの非加盟国であるロシア、マレーシア、メキシコなど10カ国を加えたグループで、需給調整にのみ参加
・アメリカ
世界最大の生産量を誇り、OPEC非加盟国でかつOPECプラスにも不参加。さらに、アメリカでは今まで採掘困難だったシェール層から天然ガスを抽出可能になり、エネルギー供給が原油だけでなくなりました。ただ、天然ガスは採掘、運搬に原油よりコストがかかるため、原油価格の急激な低下はアメリカも望ましくないため、需給調整には協力すると思われます。
しかしながら、原油よりコストが高いアメリカのシェールオイル開発会社が採算が合わないようにしたり、シェアのあるアジアで中東石油のシェアが保てるようにしたりするための他、石油収入の依存度が高く安くても売らざる負えない国もあるため、大きく減少した需要に見合った思い切った減産ができず、供給を絞れていないのが原因で値下がりしました。
急落を受けて原油は買い?個人が原油に投資する方法
新型コロナウィルスの影響が出る前の2019年1バレル=61ドル台まで戻るのは難しいものの、2020年4月20日の-37.63ドルで底を打ち、直近5月7日には23.69ドルまで戻っています。原油在庫が積み上がり貯蔵場所がない問題はまだまだ続きそうで、再度下がることもあり得ます。ただ、経済活動が再開すればさすがにこの20ドルは低すぎるのでもう少し戻る可能性があります。
個人が原油に投資するのに、現物を買うのは現実的ではないでしょう。取引できるのはガソリンなどを扱う石油元売会社などに限られ、そもそも原油をたくさん購入しても置いておけるスペースがありません。なお、気軽に手に入れられるのは原油から精製されるガソリンですが、携行缶で購入するには消防法の規制があります。
原油を使うのではなく投資として運用するのであれば、原油先物取引となります。原油先物取引は、最終決済日の月を選んで取引します。同じWTIでも6月の受渡、7月の受渡など「限月(げんげつ)」を選びます。最終決済日に現物の引き渡しが行われるため、個人投資家は原油を受け取るわけにいかないので、反対売買をしなければいけません。
先物取引は、証拠金を預けてその証拠金の何倍もの金額を取引することができます。そのため、大きなレバレッジをかけられることができ、短期で大きな利益を得られますが、逆に思惑が外れると大きな損失となります。
先物取引はレバレッジをかけられる分大きなリスクがあるため、個人が原油に投資するならETFがおすすめです。
ETFは、上場投資信託といって原油価格に連動させるように運用し、証券取引所で売買することができます。ここ最近の原油相場自体乱高下が激しいため、変動が大きくリスクがあるものの、投資信託自体にレバレッジがかかっているわけではないため投資資金以上に損することがありません。
<原油先物連動ETF>
・(銘柄コード:1671)WTI原油価格連動型上場投信
・(1699)NOMURA原油ロングインデックス連動型上場投信
・(1690)Wisdom Tree WTI原油上場投信
原油先物ETFで注意したいこと
ETF自体にはレバレッジがかけられていないものの、投資対象は先物価格となっています。
先物価格は、限月によって異なります。原油先物ETFは、期近から次の限月に乗り換えていくことにより価格に連動させているので、期近を売却→翌限月を買付により損益が発生します。
そして、限月は近いほど(期近きぢか)保管コストが低いため先物価格は低く、限月が先になっているほど(期先きさき)変動リスクが大きく保管コストがかかることから価格は高くなる傾向があります。そのため、価格が低くなる傾向にある期近を売却して、価格が高くなる傾向のある期先を買付することから、損失が発生しETF価格の下落要因となります。
したがって、原油先物価格連動のETFに投資する際には、中長期で投資するのではなく、短期で利益を狙うときには損切りもできるような投資スタンスである必要があります。
長期での投資目的で原油先物ETFに投資するのは向いていないでしょう。
文/大堀貴子
フリーライターとしてマネージャンルの記事を得意とする。おおほりFP事務所代表、CFP認定者、第Ⅰ種証券外務員。
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