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IT批評家・尾原和啓氏が語るビジネスパーソンへの提言「自由を手に入れるハンマーとしてのアルゴリズムを身につけよ」

2020.05.13

 マッキンゼー、ドコモ、リクルート、Google、楽天などに籍を置き、現在はバリ島やシンガポールを拠点にスタートアップ支援を行なう傍らで、精力的に執筆や講演などを行なうIT批評家の尾原和啓氏。彼の近著『アルゴリズム フェアネス』(KADOKAWA、2020)は、テクノロジーによって大きく変わろうとしている社会を「自由」というキーワードで説いていく内容だ。

今、東南アジアがおもしろい理由

 そもそも尾原氏はなぜ、日本を離れて活動をしているのか。

「一言でいうと、いま東南アジアは、すごく面白いんです。

 理由は2つ。ひとつ目は、ウェア開発者向けのソースコード管理サービスであるGitHub、そしてオンライン大学など、知識の無料プラットフォームができて、約10年の時間が経った。つまり、10年前に物心がついて、ベトナムの片田舎とかでハーバード大学やコロンビア大学の授業を見まくって成長した方たちが社会で活躍し始めている。彼ら彼女らの社会課題を解決したいという目の輝きって、すごいんですよ。

 もうひとつは、4Gネットワークの減価償却が済んできたこともあり、ここ数年の東南アジアのスマホ代の低価格化はすごいこと。月額2000円払うと、50GBまで使えます。また、端末代金も安くて、300ドル(日本円で約3万円)くらい。なので、スマホのベンチャーが次々と出ている。

 結局、通信料を安くすると、利用者が増えて活発に使うようになるので、産業が育成されるんです。

 これはインドのケースですが、昨年世界で一番再生されたYouTubeの音楽ビデオのうち、トップはヒスパニック系ですが、5位くらいになるとヒンディーです。インドは、もともと音楽好きな文化があるので音楽系のベンチャーが、ぐわぁ~っと伸びていて、こうした傾向は東南アジアにも当てはまる。

 オンライン教育で育った若い世代が社会で活躍し始めたこと、スマホが低価格で利用できる環境が整っていること。この2つの理由から東南アジアの急成長しているんですが、特許の使い方の工夫や、日本やアメリカなどの大企業との付き合い方などは、知識や経験が足らないところがある。

 そういうところを、私の人力アルゴリズムでマッチングすることが増えています」

 尾原氏は『アルゴリズム フェアネス』でGAFAなどの人の手を離れたアルゴリズムが人々の生活に「自由」をもたらしてくれていることを紹介する。そうした人の手を介さない、数式のようなアルゴリズムのほかに、ビジネスパースンが身につけるべき、「リベラルアーツのようなアルゴリズム」もあると考える。

「リベラルアーツを、そのまま日本語にすると、自由になるための技術です。いまFacebookというナビゲーションがなければ、新しい友だちと出会う機会が激減しますし、情報検索のナビゲーションをしてくれるGoogleがなければ不便です。こうしたもののアルゴリズムを知ることは、GPSがなかった頃の航海術のようなものかもしれません。『アルゴリズム フェアネス』でも触れていますが、それは自由を得るためのハンマーを手に入れることにつながります。

 その意味では、デジタルのアルゴリズムを知ることがリベラルアーツのような役割を果たすと思います。

 このほか、人とコミュニケーションをする際は、立場の違いや、プライオリティ(優先順位)の違いを踏まえる必要があります。そのコミュニケーションには、修辞学(レトリック)が大事です。日本では、どうしても身近な生活などをナビゲーションしてラクにするライフハック的なアルゴリズムに関心が集まるんですが、より深いレベルのアルゴリズムを知っておくと、よりいろいろな人と仲良くなれるようになると思うんです」

 少し補足をしよう。辞書を参照するとアルゴリズムは、


ある特定の問題を解いたり、課題を解決したりするための計算手順や処理手順のこと。これを図式化したものがフローチャートであり、コンピューターで処理するための具体的な手順を記述したものがプログラムである。イランの数学者・天文学者、アル=フワーリズミーにちなむ。

デジタル大辞泉


という説明となる。

 尾原氏はアルゴリズムをもう少し広く、問題や課題を解決する定式として捉える。

 では、私たちは、どのようにアルゴリズムの恩恵を得ているのか。身近なところでは、スマホやPCなどで使うソフトウェアやアプリを通じて接しているはずだ。また、AIや機械学習など社会実装されているテクノロジーならば、より安く航空券が購入出来た、お目当ての宿泊施設が予約出来た、というようにサービスや体験として提供されていることも少なくない。

 ところで、アルゴリズムは、従来の社会にあるものに着想を得ているものが少なくない。たとえば、Googleの検索結果のアルゴリズムは、確かな人に引用される機会の多いドキュメントは信頼できる可能性が高いというアカデミズムの習慣に着想を得たことはよく知られている。また、Facebookは、マーク・ザッカーバーグ氏が実名の学生名簿を作りたいという動機で開発がスタートした。

 このようにアルゴリズムの背景には、開発者の思い、文化、思想などが色濃く反映していることが多い。結果的には、アルゴリズムが提示する内容を「強制」されてしまうケースが排除できない。

 よって、そのようなアルゴリズムの背景、言い換えれば、社会の文化、習慣、規範など、広い意味のアルゴリズムを知ることが大切と尾原氏は考える。その深いレベルのアルゴリズムを知っておくと、いろいろな自由を手に入れることもできるだけでなく、その限界を知り、対処することもできる。そして、そうしたアルゴリズムの違いを言葉にして表現する、修辞の力を身につけることがこれからは大切だ、と尾原氏は提案するのだ。

依存することの反対は複数に依存すること
適度な距離があれば、“好きだよ、でもね~”が言える

 とはいえ、「より深いレベルのアルゴリズム」を知ったり、修辞の力を身につけよ、といわれても何やら難しそうと思われる方は多いはず。では、どうしたら良いだろう?

「難しく考える必要はなくて、相手に関心を持ってもらうことから始めるのが一番良いと思うんです。

 たとえば、僕がGoogleにいたときの経験です。当時の日本は、モバイルがめちゃ進化していることが世界的に知られていました。僕はiモードの開発に関わっていたから、Googleのエンジニアたちは、そのプロジェクトがどうやっ立ち上がったのかとか、知りたいわけです。そうすると、僕がどんなに下手な英語をしゃべろうが、『尾原さんが言っていることって、こういうことですか?』などと、足らないところを補ってくれるんです。で、『あっ、そうそう、それ。いまのもう一回、ゆっくり言ってくれる?』とか言いながらメモって、そこで知ったフレーズを別のところで話す。そうすると『尾原さん、いい英語しゃべるな』とかってやっていたんです。

 このように、僕たちには身近だけれど、海外の人は知りたくてたまらないことって、日本にはたくさんあるんです。昔ならば折り紙が定番でしたが、いまならばアニメやゲーム、日本食の話かもしれない。そういうことがきっかけで、窓が開くとそこから新しい文化や考え方などが見えてくる。さらには、いろいろなアイデアや気づきも生まれるし、言葉にすることもできるようになるはずです」

 要は、難しいことを考えず、相手のことを意識しながら、興味を持ってもらえるようなことを、習うより慣れていけ、ということなのだろう。そういうことを繰り返しながら、チャネルを増やしていくことで、いろいろな社会のアルゴリズムを知ることとなる。

「前に書いた『モチベーション革命』でバズったのが、『依存することの反対は依存しないではない。複数に依存すること』という言葉なんですね。何かひとつに依存していると、そこがダメになると自分もダメになる恐怖が生まれるので、保守的になってしまう。でも、よく考えればわかることですが、何にも依存しないことは無理ですよね。だから、2つ、3つとどんどん依存先を増やし、それが10個とかになると考え方が変わってくるんです。一言でいえば、相手の会社や仲間のために物事を考え、それを発言できるようになる。

 それは、自分の住んでいる国も同じで、日本以外にも依存できるようになると、もっと自由になれるんです。

 そして、適度な距離が生まれるから、“好きだよ、でもね~”と自分の思ったことが言えるようになるんです」

 日本は、有史以来、文明を貪欲に受容しながらも独自の文化を育んできた。今回のコロナ禍が終息した後、AI、IoT、5G、ブロックチェーンなどテクノロジーという文明をどんな風に社会実装し、日本らしい文化を作るのか。尾原氏の言葉や著作に触れながら、そんな問いが湧いてきた。

尾原和啓
IT評論家/フューチャリスト
京都大学院で人工知能論を研究。90年代後半のMcKinsey時代に、急成長する携帯電話市場に関わり、退職後にドコモ入社。iモードの草創期から開発に携わる。その後、Googleや楽天などに籍をおいたほか、経産省 対外通商政策委員、産業総合研究所人工知能センターアドバイザーなども務める。現在は、シンガポール、バリ島、東京をベースに精力的に活動する。『ITビジネスの原理』(NHK出版、2014)、『どこでも誰とでも働ける――12の会社で学んだ“これから”の仕事と転職のルール』(ダイヤモンド社、2018)など著書多数。GAFAやBATHと日本企業が戦うための指南書『ディープテック 世界の未来を切り拓く「眠れる技術」』(ダイヤモンド社、共著)など著書多数。

取材・文/橋本 保 撮影/干川 修

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