
■連載/Londonトレンド通信
ずらり映画タイトルが並ぶ配信サービスで、記憶に新しい最近の話題作や誰もが知る古典的名作を外した中から、秀作を取り上げていきたい。
デレク・シアンフランス監督の現実となった悪夢『ブルーバレンタイン』
現代の三大離婚映画と言えば、ロバート・ベントン監督『クレイマー、クレイマー』(1979)、デレク・シアンフランス監督『ブルーバレンタイン』(2010)、ノア・バームバック監督『マリッジ・ストーリー』(2019)で決まりだろう。
離婚をとらえる角度が別で、それぞれに素晴らしい3本だが、ストレートに男女の愛の変遷として描いているのが『ブルーバレンタイン』だ。
出会いの頃と別れに向かう今を交互に描くことで、両時点での感情が相互に強調される。
様々な事情、中には生涯向き合わなくてはいけない事情もあるシンディー(ミシェル・ウィリアムズ)を受け入れ、結婚を決めるディーン(ライアン・ゴズリング)、結婚式では両者とも泣いている。そこに、別れの涙がかぶる。
過去と現在のストーリーを同時進行させることで、相反する感情がそれぞれに増幅されていく。結果、これ以上ないほど激しく心を揺さぶるラブストーリーかつ離婚劇になった。
2010年のロンドン映画祭でインタビューした時、デレク・シアンフランス監督はこの映画をとても個人的なものと語った。
「子どもの頃、2つのことが悪夢でした。1つは核戦争、もう1つは両親が離婚してしまうこと。そして、僕が20歳の時に両親は別れました。アーティストとして、それをとらえることが自分の責任と思いました」。
「そこから12年かかりました。その間にドキュメンタリー映画を作ったことや、結婚して子どもを持ったこともプラスに働いています」。
シアンフランス監督にとって、それほど大切な作品であることが、主演の2人にも伝わっていたのであろう熱演だ。
底なしに優しいディーンと、そんな彼に支えられるシンディー。観ているこちらまで、ディーンに恋をし、シンディーを愛しく思う。そのただなかで、唯一無二の結びつきとも思えたものがほどけていく様を観るのは、心破れる。
響き合うゴズリングとウィリアムズが、画面を超え、観る者をも共振させる。その2人を、シアンフランス監督は「時間と過程を経ていくことで、映画にはマジックが起こることがある」と表現した。まさにマジカルな1本だ。
Amazon Prime Video、TSUTAYA TV等で配信中 ※予告なく配信終了することがあります。
文/山口ゆかり
ロンドン在住フリーランスライター。日本語が読める英在住者のための映画情報サイトを運営。http://eigauk.com
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