東京五輪の1年延期が決定して1カ月が経過した。その間、新型コロナウイルス感染症は収束するどころか広がる一方で、「本当に東京五輪が2021年7月23日から開催できるのか」と疑問視する声も高まりつつある。日本政府と国際オリンピック委員会(IOC)の追加経費負担のの押し付け合いが表面化するなど、アスリートよりもカネのことばかりが注目される現状はスポーツに携わる者として非常に複雑で、憤りさえ感じる。五輪は選手あってのものだということを改めて強調しておきたいものだ。
そんな中、サッカー男子は「97年1月1日生まれ以降」という出場資格を維持する方針が国際サッカー連盟(FIFA)から示され、97年組の中山雄太(ズウォレ)や三好康児(アントワープ)、板倉滉(フローニンゲン)、前田大然(マリティモ)らは安堵したことだろう。
しかし、代表活動再開のメドが立たず、場合によっては2021年にズレ込むことを考えると、年長者たちは安穏としてはいられない。準備期間が長くなるということは、その分、若い世代にもチャンスが広がるということ。2000年以降生まれのU-20世代の面々が一気に追い上げてくることも十分にあり得るのだ。
2000年以降生まれには注目のタレントが勢ぞろい
実は日本サッカー界を見渡すと、この世代に有望なタレントがひしめている。2000年生まれだと、今季オランダでアヤックスと優勝争いを繰り広げたAZでリーグ16試合出場2ゴールという好結果を残した菅原由勢を筆頭に、同じオランダのトゥエンテで4ゴールをマークした中村敬斗、今季J1開幕・浦和レッズ戦で2アシストし、湘南ベルマーレの偉大な先輩・中田英寿以来の10代2アシストを決めた鈴木冬一らがいる。
2001年生まれはご存じの通り、日本の希望の星・久保建英(マジョルカ)が大きくリードしている。「建英には負けられない」と闘志を燃やす同い年の斉藤光毅(横浜FC)、松岡大起(鳥栖)、2002年早生まれの西川潤(C大阪)とポテンシャルの高い面々が揃っていて、大化けした20歳前後の面々が1年後の大舞台で主軸を担っている可能性も否定できないのだ。
彼らの顔ぶれから分かるのは、攻撃陣が圧倒的に多いこと。つまり、守備陣は既存勢力の年長組が大半を占める構図になる見通しだ。GKは「近未来のA代表制守護神」と評される99年生まれの大迫敬介(広島)が突出した存在で、センターバックもすでにA代表の主力になっている98年生まれの富安健洋(ボローニャ)と97年組の板倉、中山、岩田智輝(大分)らがリードしている。
2000年組のGK谷晃生(湘南)やDF瀬古歩夢(C大阪)もポテンシャルの高い選手だが、国際経験値と修羅場をくぐった回数では年長者たちには及ばない。森保一監督が本番まで指揮を執り、3-4-2-1の布陣をベースにするという前提で考えると、最終ラインには経験と実績を強く求めるだろう。それは吉田麻也(サンプドリア)や長友佑都(ガラタサライ)を重用しているA代表を見ればよく分かる。東京五輪代表もここまでの積み重ねを重視するはずだ。
一方、右アウトサイドは99年生まれの橋岡大樹(浦和)と菅原の一騎打ちが有力。どちらも魅力ある選手で、レギュラー争いは熾烈になるだろう。左アウトサイドは杉岡大暉(鹿島)が圧倒的リードと見られていたが、今季赴いた新天地で苦境にあえいでいる。ザーゴ監督の評価は厳しく、Jリーグ再開後も試合に出られるかどうか分からない。となれば、やはりフレッシュな鈴木冬一の存在価値が高まってくる。杉岡のようなレフティでもCBタイプでもないが、守備も攻撃も器用にこなす点は使い勝手がいい。もう1枚を超攻撃的な97年生まれの相馬勇紀(名古屋)を入れる可能性が高いため、1人は守備力の高い選手がほしい。バランスの取れた鈴木冬一の成長曲線に期待したい。
ボランチに関しては、やはり筆頭は98年生まれの田中碧(川崎)。彼は「近未来の柴崎岳(ラコルーニャ)のパートナー」との呼び声も高い。最近の一挙手一投足は2002年日韓ワールドカップの頃の稲本潤一(相模原)を彷彿させるものがある。本人は「イナさんの若い頃? 知らないですね」とそっけないコメントを残していたが、この1年の急成長ぶりは文句なしだ。
そこに食い込むU-20世代がいるとしたら、献身性と運動量が際立っている松岡。高校3年生だった2019年J1で23試合出場している実績は本物だ。とにかく真面目でひたむきな性格面も含めて伸びしろは大きい。鳥栖が経営問題で揺れていて、クラブ解散の危機に瀕しているが、彼自身は近い将来、海外へ行けるくらいの可能性がある。そういう意味でもこの1年間の身の振り方を注視していきたい。
人材豊富なアタッカー陣、リーグやチームの状況次第で序列の入れ替えも
最も人材豊富と言われるアタッカー陣はさまざまな候補者がいる。年長者では97年生まれの三好や前田、98年生まれの堂安律(PSV)と食野亮太郎(ハーツ)、99年生まれの安倍裕葵(バルセロナ)らがいるが、2000年代組の中村敬斗、久保建英、斉藤光毅、西川も負けていない。中村敬斗は両サイドとシャドウをこなせるマルチな能力を備えているし、久保は説明しなくても分かる通りのスーパープレーヤーだ。斉藤光毅のドリブル突破も破壊力抜群だし、西川は最前線と右サイドの両方をこなせるレフティだ。五輪代表は18人しかメンバー入りできないため、さまざまな仕事のできる選手はかなり有利になる。この4人はいずれも資質があるだけに、ここから1年間にどのようなパフォーマンスを見せるかが全てと言っていい。
中村と久保は欧州組で、試合から長く遠ざかっている点が気がかりだ。特に中村のいるオランダリーグは4月下旬にいち早くリーグ打ち切りが決定。新シーズンもいつ開幕するか分からないため、場合によっては半年程度も実戦から遠ざかってしまう恐れがある。久保がプレーするスペイン・リーガエスパニョーラも6月再開が有力と言われるものの、欧州最多感染者数を出している同国で短期間の収束が見える保証はない。今季を何とか終えたとしても、久保の場合は次のクラブが決まっていない。マジョルカに残るか、レアル・マドリードに戻るか、はたまた別のところに行くかで彼を取り巻く環境は激変する。そのあたりも見極めながら、東京五輪にピークを合わせていくしかない。
斉藤光毅と西川は再開後のJリーグでレギュラーに定着し、圧倒的な活躍を見せることが求められる。2月のJ1開幕戦では2人ともベンチスタート。チーム内序列が高いとは言えない状況だった。しかし、今季J1が降格なしになり、経営状況の悪化も踏まえて各クラブとも年俸の安い若手を積極的に起用していくことも考えられるため、彼らにとっては追い風だ。Jリーグ最大のピンチを自身のチャンスに変えられるか否か。それが若い2人に問われてくるだろう。
2021年7月に、日の丸をつけて東京五輪の大舞台に立っている選手は一体、誰なのか。2000年以降に生まれたメンバーが躍進するのか。コロナやサッカー界の動きも踏まえつつ、その動向を見守っていきたい。
取材・文/元川悦子