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「10年後、東京は今よりも柔らかい街になっている」建築家・隈研吾さんに聞く東京の未来

2020.06.27

隈 研吾さん

隈 研吾さん

1954年生まれ。東京大学建築学科大学院修了。大学院時代、アフリカのサハラ砂漠を横断して集落の調査を行ない、集落の美と力にめざめる。コロンビア大学客員研究員を経て、1990年、隈研吾建築都市設計事務所を設立。現在、東京大学教授。

東京は、壊して造るのではなく、増築や改築で少しずつ直していき、少しずつ自分たちの住みやすい街にしていく

 隈研吾氏は間違いなく時代の寵児だ。国立競技場の設計・デザインに関わったことは周知だが、JR高輪ゲートウェイ駅や明治神宮ミュージアムなど、近年の〝東京〟を象徴する建築の多くに携わっており、もはや氏を抜きに東京を語ることはできない。

 そんな隈氏にとって東京とはどんな存在で、どんな思いを持っているのだろう。

 今は海外での仕事が多いですが、東京から事務所を移そうと思ったことは一度もないんです。東京は帰ってくるたびに違って見える街なんです。例えば、自分が手がけた建築でも「格好いいな」と思う日もあれば「ここは直したい」ということもあります。自分自身が絶えず変化していますし、そういう意味では、水準器のような存在ですね。

──東京は今、日々変貌を遂げています。ご自身がその変化に携わる機会も多いと思いますが、作品における軸として重視しているのは何でしょうか。

 重視しているのは〝柔らかさ〟ですね。コンクリートから柔らかさを求めて木に行って、さらなる柔らかさを求めて紙や布、土を探したり。何が自分をそう駆り立てるのかというと柔らかさを求めているんでしょうね。でも、それは今だからではなくて、ずっと探しているんです。幼い頃に手放せなかったタオルとかあるでしょう? あの独特な柔らかさが理由だったのかな、と思うと、今でも変わってないなと思います(笑)。

 ヨーロッパは石の建築だから硬い、重いといわれますが、実際はカーテンなどの布ひとつを見ても、布自身を文化として突き詰めていて、日本よりも柔らかさを追求してきた部分もあります。柔らかさを欲する気持ちというのはどこにでもあって、IT化などいろんなことで人間にストレスがかかってくると、ますます柔らかさが求められるようになってきたのかな、と思いますね。

──建築は時間がかかります。どれほど先の未来を想像してお仕事していますか? その時代にはもっと柔らかい街になっていますか?

 10年くらいかかるプロジェクトも珍しくないですね。今スタートしても、2030年前後に竣工ということもあるでしょう。東京は今よりも柔らかい街になっていると思います。最近は日本の建築雑誌は色が変わったといわれています。以前の日本人はコンクリート打ちっぱなしの壁とか鉄、ガラスが好きで、本は(表紙は)カラーなのに開くとモノトーンでした。それが最近はパッと開くと木の色のページが増えたと、海外の友人にも言われました。建築雑誌というと、尖った感性の人による作品もありますが、そういう人たちも木を扱うことが増えていますし、徐々に世の中にも伝わるのでは、と思っています。

 ただ同時に、木だけを使えばいいのか、それが正義なのか、という疑いは持ち続けたい。例えば、木を使うにしても、どういった使い方をした時に、人をワクワクさせたり、楽しませる建築になるのか? 本当に木のやさしさが伝わるのか? 自分が造っている建築も絶えず厳しい目でチェックし続けたいと思っています。

──東京ではご自身の作品も増えていますが、都市として眺めた東京の特性とは?

 街それぞれに景観を構成する粒のようなものがありますが、日本の都市は粒が細かい。それは木造が主流だった時代、日本は直径の小さい木を使った〝小径木文化〟だったことも影響しています。日本は間伐で取れる細い木でも、それをうまく使って大きな建物も造っていましたし、日本の森林を守ることにもなりました。それが日本の繊細さや粒の細かさを生むことにもつながっています。コンクリートの建物だと繊細さを出すのは簡単ではありませんが、材料に木を用いると粒の細かさは達成できます。国立競技場も主に幅10.5cmという最も手に入りやすい、小径木の代表的なサイズを使いましたが、それは東京の繊細な空間にはそのサイズが最適だという思いからです。

──新たに何かを造るというのも大変だとは思いますが、一方で東京は飽和状態にもあるように感じます。この問題は解決できますか?

 日本と東京の10年を振り返ると、オリンピックの準備と震災からの復興も重なって、高度経済成長期のようにモノをたくさん造り、建設業は元気でした。造ることに忙しく、きたるべき未来、つまり少子高齢化や格差問題といった問題から目をそらしてきたのも事実でしょう。オリンピックが終わった後、私たちはそういった問題を突きつけられますが、それは必ずしもネガティブな問題ではなく、「やっと自分たちの問題に目を反らさずに向き合う時間がくる」とポジティブに捉えています。

 日本の木造技術は増築や改築で発展してきました。典型的なのは母屋に対して下屋を出す方法で、それによって縁側のような中間領域のデザインが発達した。木造建築自体は中国が源流ですが、中国にはそういう文化はありません。

 東京は、壊して造るのではなく、増築や改築で少しずつ直していって、少しずつ自分たちの住みやすい街にしていくというのが、最も良い解決方法だと思っています。

 短期的に一喜一憂しないのも大事でしょう。この10年を振り返ってもいろんなことがありましたから、もっと長いスパンで建物や都市を考える、そういう大らかさも必要になると思っています。

──人の生き方とも深く関わっているような気がしますが、ご自身のお仕事において大切にしていることなどはありますか?

 個人的な話ではありますが、私の事務所は経営の仕方も一貫しています。事務所を開いて40年ほどになりますが、どう経営するか上から考えるのではなく、まずは来た仕事に対してどう対応するか日々考えています。

 すべてはプロジェクト、ニーズからスタートします。トップダウンではなく、ボトムのところからどうやって対応するか、というんでしょうか。必要な人員や資源を足していくことで、自動的に組織が形になっていきます。場当たり的なんでしょうね。あとは無理をしないこと。「この仕事をどうしても取ろうぜ」とか「どんな仕事が来ても対応できる組織を作ろう」と考えて無理をすると、だまし、だましの方法では対応できないような、大きな困難が生じます。

 経営ポリシーを訊ねられたら「場当たり的なこと」と「無理をしないこと」この2つです、と答えています(笑)。

 建築家に何が必要ですか? と聞かれることが多々あります。そんな時は、造形力とかイマジネーションも大事ですが、やっぱり相手の身になれる〝感情移入の力〟だと答えています。

 こちらが柔らかさを追求しても、相手が「確かに柔らかいね」と感じてくれなければいけないでしょう。相手の身になる、毎日使う人に感情移入できる能力が不可欠だと思うんですよね。


 日々変貌を遂げる東京とその変化の一翼を担ってきた隈研吾氏。氏が思い描く未来都市東京は、人の本質を大切にした、やさしさと柔らかさに満ちた街のようだ。

隈氏

取材・文/村田尚之 撮影/干川 修

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