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竹中平蔵氏の提言「コロナ禍のニュースが洪水のように押し寄せる時こそ考えたい新旧メディアへの接し方」

2020.04.20

 慶応大学名誉教授で、ダボス会議の理事である竹中平蔵氏は過去に本誌の記事で、<ダボス会議に行くと、リーダーは必ず自分の国のメディアの悪口をいいます。うちの国のメディアはダメだと。これはどこの国にも共通する問題です>という話をしていた(当該記事はこちら)。メディアへの思いは、新型コロナウィルスの感染拡大が広がり始めた2月下旬に取材した際も変わらなかった。

「メディアはとにかく煽るんですよね。大変だよ、これ怖いよ、怖いよ、と。そうして怖がらせるか、こいつは悪いぞ、悪い奴だぞ、と吹聴する。

 日本で、『あなたは何を信用出来ますか?』と調査をすると、その一位に来るのは自衛隊なんです。そして、最下位に来るのはメディアと政治。これはものすごく実感に合いますよね」

 竹中氏が挙げている世論調査とは、日本経済新聞社が行なっている「数字で見るリアル世論」(2018年2019年の結果)。その背景にはスマホやSNSによって誰もが情報発信できるようになり、相対的にメディアへの印象が変わってきたこと。その一方で、メディア側は旧態依然のしくみであることを指摘する。

「黙々と行動で示してくれる自衛隊は信頼するけれど、批判ばかりして何もしない政治とメディアは信頼されない、ということと思います。

 インターネットやスマホの普及で、みんななジャーナリストになる時代になりました。今後は、こうした人たちに向けて、独立したジャーナリスト養成スクールのような機関も必要になるでしょう。

 これまで日本では、その役割は記者クラブで鍛えられることで担ってきた。その様子は、ジャーナリストの田勢康弘さんの『政治ジャーナリズムの罪と罰』に、よく描かれています」

 竹中氏が挙げた『政治ジャーナリズムの罪と罰』(新潮文庫、1996。底本は、1994)で田勢氏は、記者クラブ制度の弊害について外国プレスを締め出すなど閉鎖性を問題にすることは多いが、それ以上にジャーナリズムの質を低下させていることを指摘する。具体的には、取材姿勢が受け身になってしまうこと、また取材対象との距離が近づくことで価値観を共有する狭い世界を作り、そのものさしでニュースを判断してしまう危険性があるとする。

 また、日経新聞のワシントン支局長などをした経験から、米国では歴代政権と対峙し続けるベテラン記者がいること、また、終身雇用、年功序列の組織の中で活動する日本の新聞記者とは異なり、熾烈な競争を勝ち抜いて這い上がった、強烈な自信を持つ記者がいることが日米では大きく違うことを描く。

 そのうえで、日本の新聞記者が、どのようにキャリアを積んでいくか、その問題点を描く。


 わが国の政治記者がどのようにして育てられるかと比較すると、両国のジャーナリズムの本質的な違いがわかるように思う。日本では大学卒業前にマスコミの入社試験を受ける。倍率はかなりの高さで、難関を突破したこれらの若者たちは、潜在的な能力は相当高いはずである

 典型的なパターンは、初めの五、六年、地方の支局勤務となる。そこで地元の警察を担当するのが定番コースだ。長い間、わが国のジャーナリズムの世界では、「サツ回り(警察担当)こそ、新聞記者の原点」といわれてきた。いまでもそう思っている人も多いだろう。

 新聞記者が一般的に不勉強なのは、このサツ回りの経験によるものではないかと思う。この世界は一種の徒弟社会で、序列がものをいう。しかも、「頭ではなく足で書け」などと先輩記者がたたき込むものだから、物も考えず、本も読まない記者たちが異常発生した。

政治ジャーナリズムの罪と罰』P.105


 この文章は、新潮社の雑誌『フォーサイト』(現在は、ウェブ版のみ)に掲載していたものを書籍化したもの。1992年~1994年にかけて執筆されたものなので、取り上げられている事件や細かいディテールは古い。たとえば、記者クラブの閉鎖性については緩和され、現在は一定の条件で参加が認められている。ニコニコ動画で生中継が行なわれるなどは、その一例。だが、文章で伝えようとしている大意は現在も通用するものとして竹中氏は考える。新聞やテレビなどの旧来メディアの現場は同書が書かれた当時と変わらないのか、また、どのように変わったのかを知るうえでは参考になるに違いない。

メディアにネタをまく、「ハトの豆まき係」

 記者クラブについては、次のような経験を語る。以下の内容は竹中氏が2001年~2006年の小泉内閣の閣僚経験者であることを踏まえると、非常に生々しい内容だ。

「要するに、役所の記者クラブは役所にも、メディアにも、メリットがあるわけです。役所は情報をコントロールできる。私の仲間だった高橋洋一さんがある本でこんなことを書いています。『おい、3時ころになったら、ハトに豆まいてこい、あいつら豆をまいたら食いつくぞ』って。要するに、まぁ、そういう風にメディアをうまく使うわけですね。メディアはメディアで、記者クラブのメンバーは限定ですから、情報を独占出来る。私が大臣のときに、BBCが(竹中氏の)単独インタビューしたいと申し込んできたんですが記者クラブの反対で出来なかった。全部記者クラブを通せというわけです。自分たちに話してないことは、ほかのところに話すな、と」

 竹中氏が挙げた書籍は、経済学者の高橋洋一氏と、産経新聞特別記者・編集委員兼論説委員の田村秀男氏(元日経新聞ワシントン特派員)との共著『日経新聞と財務省はアホだらけ』(産経セレクト、2018)。同書は、89年年末に東証平均株価が史上最高値を更新した後、それが下がることも想定されていたなど衝撃的な内容も多くあるが、行政とメディアの関係を知るうえでも興味深い内容だ。


田村 高橋さんはこの本で話してきたような問題は、どこに責任があると思うの?

高橋 政治。手前味噌になりますが、私は小泉政権で竹中平蔵・経済財政政策担当大臣の補佐官、第1次安倍政権で内閣参事官を務めて、仕事をしたと自負しています。

田村 先ほどはインフレ目標2%未達の話をしましたが、それを有耶無耶にしようとする人たちがいるし、メディアも追求が甘い。

高橋 2%を達成出来ないと誰かが政治責任を問われることになる。すると政治責任の話になったらまずいと動く。そうして未達が有耶無耶になる。一度、政府の方針が決まるとくつがえすのは大変だよ。

田村 なぜ正しい方向が分かっているのに、そちらに向かわないのか、です。

高橋 正しいことをすると強烈に排除されます。

田村 メディアサイドは独立精神が必要だと思いますね。財務省の言いなりにはならないという独立精神。取材相手がもっともらしいことを言っても必ずすべて疑ってみせないと。

高橋 勉強が足りなければ、言いなりになる確率は極めて高いですよ。勉強していても財務省にやられる確率はけっこうあるくらいなのですからね。

 私の現役時代の昔ですが、役所では私たちは、上司にこう言われるんですよ。

「高橋、○時だから豆まいてこい」

 すると豆をぱっとまくわけです。つまり豆とは新聞に提供するネタ。「ハトの豆まき係」というのは広報担当のことで、エサをあげるということです。

 だいたい新聞の論説委員などで偉ぶっている人がいるでしょう。でも私は論説委員の書く社説のネタを何回も提供したことがありますよ(笑)。その人からすれば、取材して裏も取らなくていいのだからラクですよね。ご当局様(引用注:大蔵省)が言うのだから(笑)。記者の原稿を代わりに書いたこともありますよ。

田村 それはひどい。たしかに数字や専門用語などの事実関係に間違いはないだろうけれども、読者や国民のためにはなりません。

『日経新聞と財務省はアホだらけ』P.223「ハトの豆まき係」がいる


 緊急事態宣言の発出に伴い、私たちは経験したことのない生活を強いられている。それは、ビジネス、行政、政治など社会全般に及んでいる。インターネットの普及により、公式ウェブサイトや公式SNSアカウントなどから直接情報が得られるようになったとはいえ、膨大な情報を、手軽に効率よく処理する際、メディアは重宝するだろう。

 また、一次情報に分析や解釈などを加えることで、発表者の意図を汲み取る、読み解く場としてメディアは重要な役割を果たすはず。であるがゆえに、竹中氏はメディアに次のような戒めを持って欲しいと考える。

「やっぱり、メディアには自省してもらいたい。自省してちゃんとやって欲しい。権力を持っている人は自省が必要なんです。政治や行政はもちろんですが、メディアも権力を持っている。すごい力を持っているんですよ。だから自省して欲しい。

 あと、それをチェックするしくみが必要です。メディアが伝えた内容は、それが本当に正しいかが検証される必要がある。その意味では、一億総ジャーナリストになり、人々が発信できるようになったことは良い面もある。もちろん、とんでもないフェイクニュースが流されるという面もありますが」

 自分の考えや判断は、どういう情報によって組み立てられていくのか。毎日コロナ禍のニュースが洪水のように押し寄せてくるときだからこそ、新旧メディアへの接し方を考える良い機会になるだろう。

竹中平蔵氏
1951年、和歌山県生まれ。慶應義塾大学名誉教授、東洋大学教授。博士(経済学)。一橋大学卒業後、ハーバード大学客員准教授、慶應義塾大学総合政策学部教授などを経て、2001年より小泉内閣で、経済財政政策担当大臣、金融担当大臣、総務大臣などを歴任。『第4次産業革命! 日本経済をこう変える。』(PHPビジネス新書、2017)、『平成の教訓』(PHP新書、2019)、『竹中式マトリクス勉強法』(幻冬舎文庫、2011)など著書多数

取材・文/橋本 保

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