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竹中平蔵氏が語る、時代の転換期だからこそ考えたいダボス・マニフェストと渋沢栄一の「論語と算盤」の共通点

2020.04.19

 先日、日本経済新聞に世界経済フォーラム会長(いわゆるダボス会議)のクラウス・シュワブ氏が「ステークホルダー主義の浸透を」という一文を寄稿した。

<コロナ危機は、どの企業へ本当にステークホルダー主義が浸透しているかを明らかにする「リトマス試験紙」となるだろう>というもので、従来の株主志向のシェアホルダー主義の組織は、短期的利益を維持する傾向にあること、そして利害関係者のためのステークホルダー主義を標榜しながらも実態が伴わない人々も露わにする、と分析する。

「ステークホルダー主義」とは何か。ダボス会議の理事を務める竹中平蔵氏は、次のように解説をする。

「今年のダボス会議では、気候変動や環境のことが取り上げられた報道されていました。が、もう少し広くいうと、今年はダボスは50周年。1月に行われた会議の前に『ダボス・マニフェスト 2020』を出しているんですね。そこで掲げているポイントが、シェアホルダー・キャピタリズムです。これまでのステイクホルダー・キャピタリズム、株主の利益を最大化する株主資本主義ではなく、従業員、コミュニティ、地球環境などステイクホルダーを全員を巻き込む資本主義目指すというものです。

 これは日本人には割とわかりやすい。渋沢栄一は『論語と算盤』という本で、利益を求める算盤だけでなく、社会に対する貢献の論語の精神も必要であることを説いていますし、“三方一両得”というのもなじみがある。アメリカのウォールストリート流の収益最大化の資本主義からすると、相当の変革を迫るものですね」

「日本資本主義の父」ともいわれ、2021年のNHK大河ドラマ「青天を衝け」でも描かれる渋沢栄一。『論語と算盤』は、彼を慕う人々によって設立された竜門社(渋沢栄一記念財団の前身)の機関誌に掲載された講演録をもとにして昭和2年(1927)に出版された(初版は、忠誠堂より発行)。

 同書の「罪は金銭にあらず」で渋沢は、<余は平生の経験から、自己の説として、「論語と算盤とは一致すべきのものである」と言っている。孔子が切実に道徳を教示せられたのも、その間、経済にも相当の注意を払ってあると思う。(中略)世に立って政を行なうには、政務の要費はもちろん、一般人民の衣食住の必要から、金銭上の関係を生ずることは言うまでもないから、結局、国を治め民を済うためには道徳が必要であるから、経済と道徳とを調和せねばならぬこととなるのである。ゆえに余は、一個の実業家としても、経済と道徳との一致を勉むるために、常に論語と算盤との調和が肝要であると手軽く説明して、一般の人々が平易にその注意を怠らぬように導きつつあるのである>(『論語と算盤』角川ソフィア文庫、2008。P.137)と説く。

 この本が出されたのは、第一次世界大戦への過剰投資や関東大震災などの影響で恐慌が度々起き、昭和6年(1929)の世界大恐慌のあおりを受けて昭和恐慌になるという時代である。IMF(国際通貨基金)が「世界大恐慌以来の危機」という今回のコロナ禍と世界恐慌。ダボス・マニフェストで提唱されたステークホルダー主義と、渋沢栄一の『論語と算盤』。何か歴史的な巡り合わせのようなものを感じさせる。

危機のときは、プロアクティブな対応も考えよ

 しかし、こうした危機を迎えているときだからこそ、それと向き合う姿勢が大切であることを竹中氏は力説する。

「今年のダボス会議の時点(注:1月21日~24日)で、コロナの話は伝わっていましたが、深刻な状況とは伝えられておらず、あまり話題にはなりませんでした。もちろん一般論として、パンデミック、疫病、伝染病の話はされていましたが。

 印象に残っているのは、こうした問題にはリアクティブな対応と、プロアクティブな対応に分類できることを、ある議論の中で中国の人が言っていたことです。リアクティブな対応とは、いかに防ぐか、いかに患者に対応するか、いかに早くワクチンを開発するかなど、危機に対する受動的な対応のこと。一方、プロアクティブな対応とは、そうしたことをきっかけに行動を起こすこと。私は北京大学のイベントに招待されていたのですが、当然ながら中止になりました。日本だとイベント中止で終わりですが、北京大学は、この際、授業をネットでやれるように、2か月間に集中投資をして準備を整えた。これをきっかけに勉強の仕方を変える、これをきっかけに仕事の仕方を変えるということにチャレンジをしているのです。

 日本でいえば、これをきっかけに遠隔医療を認めればいい。また、遠隔教育も始めればいい。日本はリアクティブなことに一生懸命で、攻めてないように思います」

 この取材は、WHOがパンデミック宣言が出す約1か月前に行なった。それだけに、竹中氏の発言は、将来を見通した内容になっていることがわかる。竹中氏が提唱したオンライン診療は、緊急事態宣言が発出された4月8日から5日後の13日から院内感染を防ぐため、初診患者でもオンラインや電話で診療を受け、薬を配送で受け取ることが可能になった(加藤厚生労働大臣の会見)。ただし、この取り組みは非常時の時限的・特例的な対応なのだとか(厚労省の中央社会保険医療協議会)。この対応が早かったのか、遅かったのかの評価はともかく、リアクティブのみならずプロアクティブな取り組みという竹中氏の視点は、企業の現場にも応用できそうだ。

「たとえば、通信会社ならば、この際テレワークに取り組みましょう、とマーケティングすればいいんです。その際、機器はどうするのか、光熱費は誰が負担するのかなど、いろいろな課題が浮き彫りになるでしょう。それはプロアクティブに行動を起こすから、見えてくる。この危機を、行動を切り替えるチャンスにする発想にしていくべきですよね」

 前述のとおり、今回のコロナ禍は「世界大恐慌以来の危機」とも言われ、ポスト・コロナの時代は、社会が大きく変わることは間違いない。次の時代に備え、どう考え、何をすべきかを考える際は、竹中氏のようなグローバルな舞台で活動する知識人の発言を意識すべきではないか。

竹中平蔵氏
1951年、和歌山県生まれ。慶應義塾大学名誉教授、東洋大学教授。博士(経済学)。一橋大学卒業後、ハーバード大学客員准教授、慶應義塾大学総合政策学部教授などを経て、2001年より小泉内閣で、経済財政政策担当大臣、金融担当大臣、総務大臣などを歴任。『第4次産業革命! 日本経済をこう変える。』(PHPビジネス新書、2017)、『平成の教訓』(PHP新書、2019)、『竹中式マトリクス勉強法』(幻冬舎文庫、2011)など著書多数

取材・文/橋本 保 

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