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「クラフトビールで人をつなげたくて…うちの街になかったので造りました」ふたこビール醸造所の女性ブリュワー市原尚子さん

2020.04.04

■連載/女性ブリュワーのクラフトビール

クラフトビール業界に女性ブリュワーが増えている……ということで、各地の気になる女性ブリュワーたちのクラフトビールを追った。第5回は、街のコミュニティづくりを目的にブルワリーを創業したふたこビール醸造所の市原尚子さん。

ふたこビール醸造所の代表・市原尚子さん

マニアでなくてもなぜか話が盛り上がる

ふたこビール醸造所の店舗は、二子玉川駅から徒歩数分の、恵まれた立地にある。この界隈は市原さんにとって20年来暮らす地元。2014年、住民の間で、「二子玉川を夢を叶える街にしよう」という掛け声のもと、地域を盛り上げるプラン大会があった。そこに知人と参加した市原さんは、当時、二子玉川になかった「ゆるキャラとクラフトビール」に着目し、“街のクラフトビールづくり”をプレゼンしたところ、大好評。ぜひやりましょうと周囲も盛り上げ、「ふたこビール」は走り始めた。

特にクラフトビールに興味があったわけではなかった、という女性ブリュワーも多いが、市原さんもそのひとり。ビールは好きだが特にクラフトファンではなく、起業してサクセスしたいのでもなかった。

当時は、メディア関連の仕事の会社員。平日は会社へ、週末にビアパブやブリューパブへリサーチに出かけるようになった。さまざまなクラフトビールと出会いながら、市原さんがいちばん興味を持ったのは、ビールの味や店のつくりよりも、ビールを飲んでいる人たちのつながりぶりだった。

「ビアパブでビールを飲んでいると、どこのだれだか知らないけれど気さくな人と話が弾んで仲良くなる。その場限りのバカ騒ではなく、その後も連絡が取れる人たちがたくさんいます。ビールってこんなに人をつなげる力があるんだと、大きな発見でした。これはうちの街にもあったほうがいいなと思いましたね」

その視点は醸造家というより、地元を愛する町民の目だ。2015年、市原さんは株式会社ふたこ麦麦公社を設立、代表に就いた。

どこでも造れるのがビールのよさ

会社設立した当初は、醸造所だけでなく店舗もオープンさせる予定だった。のだが、諸事情により先送りに。当面は卸販売とイベントなどへの出品に限られた。ビールは、市原さんがレシピを書き、茨城県にある醸造所を借りて造った。

「ふたこビール醸造所」は当初、卸販売とイベントなどでの現地販売から始まった。

「どこで造ってるんですか?」「原料はどこ産?」

イベントなどでビールを販売していると、よくこういう質問をされた。これに市原さんは少々面食らった。

「正直なところ、特別な原料を使っているわけではなかったので」

ふつうは大手メーカーのビールに、人は「この原料の産地はどこか?」と聞かない。どこの水を使っているのか気にしない。それがクラフトビールになると違う。クラフトファンならなおさら、そこが気になる。それだけではない。

「クラフトファンでなくても、見たことも聞いたこともないビールであれば、どんな原料を使っているのか、気になるものなんですよ」

「茨城で造っているのに、なぜ“ふたこビール”なの?」と尋ねる人もいた。それもまたもっともな質問かもしれない。クラフトビールといえば現地生産、特に最近はブリューパブが増え、“地産地消”が進んでいる。

「私はビールの醍醐味のひとつは、どこでも造れることだと思っています。ワインにはぶどうのテロワールがあり、日本酒は水の性質が影響する。でもビールは水の調整ができますし、原料も調達できる。だから私は、どこで造ってもいいと思っていたんです。でも、それでは飲む人は納得しない。ただビールを造りたいから造ってます、ではダメだな、と気づかされました」

知名度がない以上、説明する力が要る。店舗が必要だと市原さんは痛感した。

店舗探しは難航した。家賃が高いだけでなく、醸造設備を入れられる店舗は限られる。2018年11月、街のクラフトビール計画から足かけ5年をかけて、「ふたこビール醸造所」はようやくオープンにこぎつけた。

カウンター越しに醸造タンクを眺めながら飲める。

人をつなぎ、街のコミュニティを広げる場に

200リットルのタンクが3本、カウンターの向こうに光る。定番はペールエール「ふたこエール」、セッションエール「ふたこエール026」、ホワイトエール「ハナミズキホワイト」。ホップの香りが立ち、飲み口はスッキリ。

近所で栽培された農産物が副原料になることも。

市原さんにふたこビールの特徴を聞くと、「ホップの華やかさ、上品さ、何よりもずっと飲みつづけられるバランスの良さ」と答える。

「パッと見、オリジナリティないですよね(笑) でも、私は、ついうっかりお代わりしてしまうようなビールを造りたいと思っているんですよ」

とは言いつつ、ふたこビール醸造所は季節限定ビールや、地のものを使ったビールもしっかり揃えている。地のものとは、たとえば、隣街で人気のコーヒーショップのコーヒーや、近所の農園から仕入れた野菜や果実。特筆すべきは“世田谷ホップ”だ。

「ふたこビール」を立ち上げてから間もなく、市原さんは近所に“世界一小さくて、世界一地価の高いホップ圃場”をつくった。地元の知り合いに声をかけ、栽培に協力してもらっている。毎年、夏の終わりに収穫して、希少とも言えるフレッシュホップのエールを造っている。クラフトの醍醐味がここにもある。

店舗を構えたことで、ふたこビールは次のステージに入った。
「飲みに来るだけでなく、誰かに会いに来る場が出来たと思います。ビールと人が創り出す景色が、いっぱい生まれています」

2月の平日の晩、筆者が飲みに行くと、外国人のミュージシャンがギターで弾き語りをしていた。こうしたライブは散発的に行われている。メニューにはビールのほかソフトドリンクもあり、お酒を飲まない人や子ども連れの姿もめずらしくない。

「営業前の時間は、地域の人の集いやワークショップなどに使ってもらっています。先日はドローンの勉強会があって、みなさん店内で一生懸命、飛ばしていました」

ビアランも好評だ。月に1回、店をスタートして多摩川周辺を5〜7キロほど走る。自然や草花を愛でたり地形を観察したりしながらなので、「私でも十分ついていける」と市原さん。「ランして店に戻って来てふるまいビールで乾杯して。あとはご自由にどうぞという感じで」盛り上がっているようで、とても楽しそうだ。

店の一角の本棚。ゆるゆる飲みながら本を読む人もいる。右の黒板にはイベントや「ビアラン」のお知らせが。

二子玉川駅から歩いて数分のふたこビール醸造所。ここに集う人がクラフトファンの輪の外にも広がっている。「ここから何かが繋がる場になってほしいと思っています」と話す市原さんの顔は、地元を愛する起業家であり、うまさを追究する醸造家、ふたつがブレンドされていた。

(データ)
ふたこビール醸造所 営11:30〜23:00 休なし 電話:03-6411-7125
東京都世田谷区玉川3-13-7 柳小路南角2F

取材・文/佐藤恵菜 撮影/関口佳代

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