会社で社員食堂や仕出し弁当などの「食事補助制度」は今、働き方が見直される中、多くの企業で実施されている。2019年10月の消費税増税を受け、ランチ代節約のためにも、会社勤めのビジネスパーソンにとって食事補助は貴重な制度だ。
しかし問題もある。それは「食事補助」の非課税枠が30年以上も据え置きのままである点だ。この問題に取り組む国民民主党 古賀之士参議院議員に、現状を聞いた。
また福利厚生制度の一環として、電子食事カードの発行代行を行っている株式会社エデンレッドジャパン代表取締役 マリック・ルマーヌ氏に、海外との比較や日本の食事補助の未来についても聞いた。
「食事補助」制度とは
社員食堂や仕出し弁当、食事券の支給、現金での手当など、会社が従業員の食事代を負担する制度を「食事補助」制度という。法定外福利厚生の一つで、法律によって企業に実施が義務付けられていない、任意の福利厚生の一つだ。
食事補助には主に4パターンある。
●社員食堂
企業の拠点内に設置する給食施設
●仕出し弁当等
提携弁当業者などからの配送やケータリング
●食事券
毎月食事券や電子マネーなどを付与。加盟している飲食店で食事、精算可能
●現金
現金での手当
このうち、社員食堂、仕出し弁当等、食事券は、従業員1人につき食事そのものに対して月3,500円までを企業負担、かつ従業員が企業負担と同額以上の金額を支払う場合は、非課税運用が可能だ。つまり、従業員の給与所得とならず、非課税対象となる。
一方、現金支給は、食事に用途を限定できないため給与所得となり、全額課税対象となっている。
食事補助は3,500円の非課税枠、35年間据え置きのまま
この食事補助の非課税枠3,500円と従業員負担(3,500円を想定)の合計7,000円だけで、一ヶ月のランチ代すべてをまかなうのはむずかしい。20日勤務して毎日ランチを食べるとしても、一食300円では足りない。節約ムードが高まる中、お小遣いからランチ代を出すのは厳しいものがある。
この非課税枠の拡大に取り組む国民民主党の古賀之士参議院議員は、次のように話す。
「働く人の大きな楽しみ、それはランチでしょう。しかし、限られたお小遣いからランチ代をまかなう結果、栄養バランスが取れないものに目が行ってしまう可能性もあります。そのツケは、毎年の健康診断で会社側が思い知らされることになるでしょう。日本経済の最大の課題は生産性の向上だと考える私にとって、働く人の健康を支えることは大きな政治テーマです。
その一環として取り組んでいるのが、月に3,500円までなら会社が従業員に非課税で支給できる『食事補助』の拡大です。実はこの非課税枠、なんと35年間も引き上げられていません。昭和から平成を通り越してずっと据え置きの枠を増やすことで、毎日のランチを充実させ、健康面での『働き方改革』が少しでも実現できればと考えています」
総務省の統計によると、年消費者物価指数(総合)は過去30年間で1.2倍に上昇している。
同じ法定外福利厚生の通勤手当は、その上昇に合わせ、20年間で非課税枠を2回改正しており、50,000円から150,000円と3倍に拡大している。
一方で、食事補助は35年間、非課税枠が据え置きになっている。
ヨーロッパと比較して日本の「食事補助」は遅れている
条件を満たせば非課税で運用が可能な電子食事カードの発行代行を行う、株式会社エデンレッドジャパン代表取締役マリック・ルマーヌ氏は、20年以上もの在日経験を持ち、ヨーロッパ企業の日本における事業展開をけん引してきた中、ヨーロッパ諸国と日本における食事補助制度の違いについてもよく知る。
マリック氏は、ヨーロッパと比べ、日本の食事補助制度は遅れているという。
「例えばフランスでは、食事補助が『法定福利厚生』として企業が補助を提供することが義務付けられています。2016年以降、一日5.37ユーロ(約670円)が企業から従業員に非課税で支給可能な上限額です。日本では『法定外福利厚生』で、補助は義務ではなく、35年以上、非課税で補助できる金額の上限が月額3,500円です。一ヶ月20日勤務の場合、フランスは月額107.4ユーロ(約13,425円)の支給となり、日本の約3.8倍の金額です。日仏の平均月収の差(OECD調査)よりも、月収に占める食事補助額の割合の差の方が大きい状況があります」
日本で食事補助制度が推進されないのはどうしてなのか。
「最も大きいのは、日本では法定外福利厚生なので、経営者の方針で優先度が違うことが理由でしょう。日本では同じ法定外福利厚生の住宅費や通勤費の割合は60%ほどですが、食事補助まで支給している企業の割合は30%程度と半減します(※)。
ただ、大手企業の充実した社員食堂が従業員満足度向上や、健康増進を促す術として話題となり、2010年代後半から人材不足が深刻化してきたこともあり、福利厚生としての食事補助に対する意識が高まってきたように思います。また以前は食事補助というと社員食堂を設けなくてはいけないという固定概念があったのですが、昨今は特に中小企業が導入しやすい様々な形での食事補助ソリューションが展開されてきています」
※「旬刊福利厚生No.2276 ’19.7月下旬 p5」2019年7月調査より
住宅手当・家賃補助(61%)、新幹線通勤補助(60%)、食事手当(32%)
今後の日本の食事補助制度はどう変わっていくべきだろうか?
「労働人口が激減していく中、政府も民間も『働き方改革』を通じた『生産性向上』、『健康経営』にシフトしてきています。これからは、ますます従業員の健康への投資が当たり前になっていく時代です。一人でも多くの従業員に健康で長く働いてもらうために、企業ができることはまだまだあります。
節約志向の従業員が、企業の補助によって少しでも栄養価の高い食事をとる習慣ができたら、よりよい労働環境につながることは間違いありません。政府は非課税枠の上限を見直し、企業は食事補助制度を積極活用し、官民あげて健康への投資を推進していくことで、外食市場が活性化し、結果的に税収の増加にもつながると考えています」
従業員にとっては、消費増税もあり、ランチ代についてはシビアになっているはず。食事は「健康」という面からも重要になってくる。食事補助拡大により、従業員、雇う側、国それぞれがベネフィットを得られる時代がくるのを願うばかりだ。
【取材協力】
国民民主党 古賀之士参議院議員
1959年久留米市生まれ。1978年福岡県立明善高等学校卒業。1984年明治大学政治経済学部卒業。FBS福岡放送入社後、「ズームイン!朝!!」「めんたいワイド」などを担当。2016年参議院議員に初当選。現在は参議院ODA特別委員会理事、財政金融委員会委員、決算委員会委員、資源エネルギー調査会委員、国民民主党税制調査会副会長などを務める。
マリック・ルマーヌ氏
株式会社エデンレッドジャパン 代表取締役
20年を越す在日経験のなかで、ヨーロッパ企業の日本での事業展開を牽引し、事業成長に向けた取り組み、マーケティング戦略などにおける豊富な経験と実績を持つ。
2017年7月のエデンレッドジャパンの代表取締役就任前は、高級食材輸入販売を手掛けるフレンチF&Bジャパン株式会社(クラシックファインフードグループ)の代表取締役、その前はハイジュエリーブランドのヴァンクリーフ&アーペルジャパンおよびカレラ・イ・カレラの最高経営責任者(CEO)を歴任。また、カルティエなど様々な企業の日本市場におけるビジネス戦略の開発・展開、組織の最適化やメディア戦略によるブランドイメージの向上などに携わった経験を持つ。
取材・文/石原亜香利