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人とは違うセカンドキャリアを求めてオーストラリアへ、サッカー元日本代表・田代有三さんの今

2020.03.14

 新型コロナウイルスの感染が世界中で拡大し、サッカー界も甚大な影響を受けている。国内ではすでにJリーグが3月中の再開を断念。4月3日の再開を目指すことになったが、それも現状では確実と言い切れない情勢だ。日本代表も3月末に組まれていたA代表とU-23代表の合計4試合が中止。東京五輪の貴重な強化時間が失われ、森保一監督も頭を痛めているに違いない。

 欧州でも、イタリア・セリエA、スペイン・リーガ・エスパニョーラ、フランス・リーグアンの中止など、主要リーグが軒並み苦境に追い込まれている。

 地球の裏側・オーストラリアも感染者が100人を超え、日に日に危機感が強まっている。Aリーグは3月中旬時点で通常通り行われ、育成年代の活動や子供たちの練習も継続できているが、今年2月からシドニー市内で「MATE(マイト) FC」を立ち上げた元日本代表FW田代有三さんも「今後の動向が気がかりですね」と心配する。やはりサッカーは平和と安全があってこそ成り立つ。それを彼自身も痛感する日々だという。

鹿島のJリーグ3連覇の原動力となり日本代表にも選ばれる

 田代さんと言えば、2005年に鹿島アントラーズに入団し、2007~2009年にJリーグ3連覇の原動力になった点取屋として名を馳せる。2008年には日本代表にも選ばれ、東アジア選手権(中国・重慶)にも参戦している。2010年にモンテディオ山形への1年間レンタルで赴き、2011年に鹿島に復帰した後、2012~3シーズンをヴィッセル神戸、2015~2016年にセレッソ大阪でプレーした。Jリーグ通算249試合出場65得点という数字はそう簡単に残せるものではない。
 そんな彼の転機となったのが、2017年のオーストラリア移籍だ。ナショナル・プレミアリーグ(ニューサウスウェールズ州1部=オーストラリア2部相当)のウーロンゴン・ウルブスへ赴いたことで、それまで考えてもみなかった新たな人生が開けたのだ。

「鹿島にいた28~29歳の頃、フランスからオファーがあったんです。その時は『給料を下げてまで行く必要はない』と考えて断りました。だけど、神戸の2年目くらいになって『このままJリーグにいても面白くないな』と感じるようになった。そこで思い立って2014年末から2015年頭にアメリカ・メジャーリーグサッカー(MLS)のトライアルに参加したんですが、契約に至らなかった。セレッソ入りを決断し、2年を過ごした後、『今度こそ』と一念発起して探した結果、出会ったのがウーロンゴン・ウルブス。実はその時、ヒザの負傷を抱えていて少し不安もあったんですが、簡単なメディカルチェックで通過できた。契約をもらえてホッとしましたね」

オーストラリアの永住権を取得

 妻と3人の子供を連れて渡豪。自身はウーロンゴン大学の英語コースで学びながら、新天地でのプレーに邁進した。練習環境や金銭面は明らかに日本の方がよかったが、「何とかなる」と前向きに取り組んだ。そして1シーズン目が終わった頃、クラブから思わぬ申し出を受けることになった。
「来季も現役選手としてプレーしてほしい。それと同時に、興味があれば、特殊な才能を持つ対象のビザでの永住権を取得しないか。我々がサポートするから」

 オーストラリアに長期滞在したいという希望を持っていた田代さんにとっては、まさに「渡りに船」だった。永住権さえあれば、引退後も生活できて、仕事もできる。外国人扱いだと子供たちの学校に年間1人当たり100万円近くかかるなど経済的負担も大きかったが、永住権があればそれも不要になる。そういったメリットを考え「お願いします」と返事をした彼はもう1年現役を続け、2018年10月に現役引退を発表。異国でセカンドキャリアを踏み出すことになったのだ。

「2019年はウーロンゴンのトップチームでアシスタントコーチを務めることになりました。監督のルーク・ウィルクシャーは元オーストラリア代表で、ディナモ・モスクワで長く活躍した名選手。ディナモとのつながりが今も深くて『コーチで戻ってこい』と言われている人物なんです。彼の下で指導を学び、不在時は公式戦で指揮を執ることもありました。試合前のコンディション調整やスタメン選考、ミーティング、試合の戦術や采配、そして試合後の総括、アフター・パーティーまで全部オージーイングリッシュでやるのはホントに大変だった。
自分は外国人なんでイライラや不満をうまく言葉で表現できないでしょう。それが逆によかった部分もありましたね。日本に来ている外国人監督の気持ちがよく分かりました」と常人とは異なるコーチングキャリアの第一歩をしみじみと振り返る。

いくつになってもチャレンジできるのがオーストラリアの良さ

 ただ、そのままプロの監督を目指そうとは思っていなかった。そもそも「英語力をブラッシュアップさせたい」という理由から指導を経験した彼は、「次は違うことをやりたい」とウーロンゴンを退団。約100㎞弱離れた同国最大の都市・シドニーへ今年1月に引っ越し、旧知の知人である寺本貴生さんとともに「MATE FC」を発足させたのだ。

「オーストラリアで長くサッカーをしている寺本君がやっていたサッカースクールを発展的に組織改革して、2月から今のチームを設立し、5~10歳の子供たちを相手に週3回指導をするようになりました。ありがたいことに、今は日本人やハーフの子を中心に40数人の参加者が来てくれています。4月からはきちんとしたグランドを借りて、しっかりした体制にする予定です。
 内容はサッカーの練習が半分で、それ以外は遊びの中で体幹を強化したり、ステップワークを入れたりと子供の運動能力向上に主眼を置いています。普段は日本語で教えてますが、日本人以外が入る時は英語。オーストラリアで育った子は自由すぎて、なかなか言うことを聞きませんね(苦笑)。そういう環境なんで、一列に並ばせて挨拶をさせたり、礼儀作法を教えるなど、あえて日本式のアプローチでやっています。最初の1~2週間は反応がバラバラだったけど、さすがに子供は適応力が高い。今はだいぶ慣れてきました。自分の息子2人も父親を『1人の指導者』と見るようになってきました」と田代さんは手ごたえを口にする。

 発足したばかりの「MATE FC」だけでは、一家全員の生計を立てられるだけの稼ぎはまだ得られていない。先は長そうだが、指導のクオリティを高めて信頼されるクラブにして、経営面でもしっかりした基盤を築こうと彼は燃えている。加えて、サッカー以外のビジネスにも乗り出すことを視野に入れている。目下、日本料理店の経営、現地ファッション・雑貨の日本展開、留学サポートなどをプランニング中だという。

「まだシドニーに来て2カ月なんで、時間の許す限り、いろんな人に会って、ネットワークを広げる努力をしています。そんな中、具体化しそうなのが日本料理店。ウーロンゴンにいた時も日本食のニーズの高さには驚かされましたが、『本物の店』がなかなかないのが実情。自分が何とかしたいという思いが強くなり、道筋を探っているところです。
 現地ファッション・雑貨の日本展開、留学サポートについてもいろんな人と話をしています。昨季までV・ファーレン長崎にいて、今季からウーロンゴンに入った長谷川悠など何人かのサッカー選手のオーストラリア移籍の手助けもしています。そうやって自分が日本とオーストラリアのつなぎ役になれたらベスト。それだけ僕はこの国が好きだし、来てよかったと心から感じています」

 オーストラリアの何がそんなに魅力なのか。田代さんはその問いに対して、こう答えてくれた。
「この国は何度でもやり直しがきくし、いくつになっても新たなチャレンジができるんです。実際、僕が入った時のウーロンゴンの社長はメディア関係に転職し、それを辞めて、今はマネージメントや教育、マーケティング関係の人材を探しているところにアプローチしてます(笑)。『人生は楽しむためにあるんだ』と彼も言っていましたけど、僕もこっちの人々と接して人生観や価値観がガラリと変わりました。子供たちと過ごす時間も増えたし、毎日が休日みたいな感覚で過ごしてます。そうやってエンジョイしながら、新たなビジネスにトライして、しっかりとしたセカンドキャリアを築いていけたら最高ですね」

 実は東京・高円寺にも「さんり整骨院・はりきゅう院」という整骨院を持っている田代さん。神戸時代にセカンドキャリアを見据えて開業に踏み切り、すでに6~7年が経過しているというが、現役時代からビジネス的感覚を備えていたのだろう。そういう積極性のある人間だったからこそ、オーストラリアで永住権を取得し、新たな道を切り開くに至ったのではないか。
「僕は人と同じセカンドキャリアを送りたくなかった。自分ならではのJリーガーの第2の人生を構築していきます」
 爽やかな笑顔を見せる田代さんの今後の生きざまが非常に楽しみだ。

取材・文/元川悦子
長野県松本深志高等学校、千葉大学法経学部卒業後、日本海事新聞を経て1994年からフリー・ライターとなる。日本代表に関しては特に精力的な取材を行っており、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは1994年アメリカ大会から2014年ブラジル大会まで6大会連続で現地へ赴いている。著作は『U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日』(小学館)、『蹴音』(主婦の友)『僕らがサッカーボーイズだった頃2 プロサッカー選手のジュニア時代」(カンゼン)『勝利の街に響け凱歌 松本山雅という奇跡のクラブ』(汐文社)ほか多数。

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