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アウディの新感覚ショールーム「Audi City 紀尾井町」はクルマの売り方を変えるか?

2020.02.26

■連載/金子浩久のEクルマ、Aクルマ

 新しいコンセプトで建てられたアウディのショールーム「Audi City 紀尾井町」のオープニングイベントに行ってきた。ここは、訪れる前から既存のショールームとは違う予感が濃厚にしてくる。なぜならば、まず場所からして違う。住所は千代田区紀尾井町。ホテル・ニューオータニの北東の角隣に相当するところに位置していて、周囲には迎賓館や上智大学、清水谷公園、グランドプリンスホテルなどがある落ち着いた地域だ。最寄駅は麹町や赤坂見附、四谷など。かつて紀州徳川家、尾張徳川家、彦根井伊家などの中屋敷が存在していたことから町名が付けられたほどの由緒がある。

 アウディが数年前までショールームを構えていた原宿や、メルセデス・ベンツが複合型ショールームを展開している六本木などとは町としての歴史と格が違う。原宿や六本木も良いけれども、喧騒とは無縁のこの地を選んだセンスの良さがいかにもアウディらしくて好感が持てる。

 もちろん、郊外の街道沿いにあるような既存のショールームのようなフルサイズではない。「Audi City 紀尾井町」の1階と地下を併せた敷地面積は367.3平米しかない。既存施設の約半分だという。でも、窮屈さは感じない。現行のアウディ各車のモチーフやテクスチャーなどをサンプリングしていたり、同時にスダレや大谷石など“和”の素材を用いていたりする凝った造形の方に眼が行ってしまう。

 たしかに従来からの郊外型ショールームでは広さが最も重要に感じられてしまうが、ここに足を踏み入れると、都市部のショールームでは広さはあまり意味を持たないことを痛感した。一般的にショールームに於ける広さの意味とは、展示できるクルマの台数の多寡に掛かっている。特に、アウディのようなドイツのプレミアムカーメーカーは近年、モデル数をどんどん増やしているから、ショールームの床面積は商品を来場者に見せられなくなるという大問題に直結してくる。

 最近の顧客は、事前にさんざんウェブサイトで画像や動画などを見て、諳んじられるほどスペックを眺め、最後の最後になって“では、実物を見てみようか”とショールームに足を運ぶわけだから、実物がなかったら話にならない。現実に、すべてのショールームがすべてのモデルを揃えて展示できているわけではない。その危機感もあって、BMWはお台場に全モデルを展示する複合ショールーム「BMW Tokyo Bay」をわざわざ新設したのだ。トヨタはもっと早く、BMWの斜め前に「メガウェブ」を造った。

 しかし、「Audi City 紀尾井町」は、そうした課題をデジタルで解決しようとしている。VRグラスを装着してバーチャルにクルマの仕様を決めていくことができる3次元コンフィギュレーターを使えるようにしたのだ。来場者はVRグラスを掛け、モデルを選び、背景を選ぶところから始まる。ニューヨークやロンドンのような大都会から始まって、自然豊かな田園地帯、山岳路、ビーチリゾートなどさまざまなシチュエーションを選べる。

 森に停めたクルマに降り注ぐ木洩れ陽によって、クルマはどのように見えるのか?

 都会のビルの前に停めたクルマの陽が当たる部分と影になる部分の、どう違って見えるのか?

 さまざまに状況を変えながら、そこでクルマがどう見えてくるのか?

 ドアを開けて、シートに座り込んだ様子もバーチャルに再現でき、インテリアの素材や色、各種のオプションの有無なども即座に切り替えてVRグラスの中に再現できる。このVRグラス(と接続されているタブレット端末)を掛ければ、アウディのすべてのモデルを選ぶことができて、すべてのボディカラーやインテリア、アクセサリーやオプションなどを組み合わせながら比較検討することができるのである。

 VRではなく、オーソドックスなコンフィギュレーターを備えた自動車メーカーのホームページが増えてきているが、背景まで変えることができた上に、3次元で360度動かしながら目視できるのは先進的だ。このVRによる3次元コンフィギュレーターのプロトタイプは、筆者は4年前にインゴルシュタットのアウディ本社で試したことがある(その時の記事はコチラ)。

 基本的にはその時のものと変わらないが、VRグラスの装着しやすさが向上していた。他にも、デジタル化が推し進められていて、「デジタルカタログ」もそのひとつだ。アウディに限らず、プレミアムカーメーカーはこれまで上質紙に凝ったデザインと丁寧な印刷を施したカタログを競って制作し、ショールームで配布していたが、それを止めた。

「紙資源の節約と印刷に費やしていたエネルギーをセーブすることができました」(アウディジャパン代表取締役社長フィリップ・ノアック氏)

 カタログを眺めながら、ああでもないこうでもないと悩むのは、これもクルマに限らない買い物の楽しみだった。しかし、雑誌や書籍も電子化される時代だ。販促ツールであるカタログなどもっと早く電子化されて然るべきだろう。ノスタルジアだけでは未来は切り開けない。

 情報収集はインターネットでたいがいのことが済んでしまう時代だから、顧客がわざわざショールームに足を運びたくなる何かがなければならないのだろう。それは、なにもクルマの販売業に限ったわけではなく、あらゆる小売業が直面している現代の課題だ。

「以前にも増して“ショールーム体験”が重要になってきている」

 ノアック氏も、スピーチの中で強調していた。VRグラスによる3次元コンフィギュレーターはその決め手のひとつになることだろう。「Audi City 紀尾井町」の特徴はデジタル化ばかりではない。リアルでも新しい試みを充実させている。

 超一等地の立地にもかかわらず、30台分の駐車スペースを用意し、約20台の試乗車を揃えている。都心にもかかわらず、それだけ用意されているのは心強い。繰り返しになるけれども、クルマを購入する際の情報を取得するだけなら、ウェブサイトにはかなわない。でも、すべての実車を見せるには敷地に限りがある。

 都市型ショールームを成功させるには、この二重の制約を克服しなければならない時代になった。アウディに限らず、ショールーム受難の時代なのだ。「Audi City 紀尾井町」は既存の郊外型ショールームとは違ったコンセプトでまとめられた新しいタイプのショールームだ。“人々がクルマのショールームに頻繁には足を運びたがらない時代”と言われて久しいけれども、それに抗う試みが身を結ぶかどうか?

 気になった方は、一度足を運んでみてはいかがでしょう。

■関連情報
http://www.audi-sales.co.jp/showroom/detail_46.html

文/金子浩久(モータージャーナリスト)

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