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私は文系だから…はもう通用しない!日本のビジネスパーソンに足りない「テクノロジー思考」

2020.02.19

ビジネスパーソンの中には「私は文系だから~」「私はITが苦手で~」などと、テクノロジーのトレンドや専門用語を敬遠する方は少なくない。だが、すべての人にテクノロジーに対する理解が必須となった時代、専門知識は必要なくともテクノロジーを理解している/いないで、仕事に大きな違いが出ると考えた蛯原健氏が著した『テクノロジー思考』は、ノンテクノロジストのための新しい教養といえる。その一端を紹介しよう。

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大切なのはテクノロジーを正しく理解すること

 日本で最も歴史がある日本合同ファイナンス(現JAFCO)に入社し、ベンチャーキャピタルやスタートアップの経営の現場に携わり、2008年に独立系ベンチャーキャピタルを設立した蛯原健氏。現在はシンガポール、インドのバンガロールに拠点を置いて精力的に活動している。

 2019年に上梓した著書『テクノロジー思考』(ダイヤモンド社、2019)で、ビジネスパースンに「テクノロジー思考」が必要であることを説く。その「テクノロジー思考」とは、どういったものなのか。

 蛯原氏は、トランプ氏が選出された2016年のアメリカ大統領選では、テクノロジーで勝敗が決したこと、世界最難関といわれる米国のミネルヴァ大学はキャンパスを持たずオンラインを中心に活動していること、テクノロジーの強い都市は軍事産業都市であることを挙げ、こうしたことは知られていないか、知られていたとしても背景にある本質まで理解されていないと前置きしたうえで、次のように続ける。

 そこにおいて欠けているものは何だろうか。何を持ってすればテクノロジーの本質と社会へのインパクトがはっきりと浮かび上がり、正しく認識され、明日からの行動に役立てることが出来るのだろうか。

 その欠けているものを表すために名付けた言葉が、「テクノロジー思考」である。言い換えると、テクノロジー思考とはこうなる。

近年において世界のあらゆる事象、組織、そして人間にテクノロジーが深く関与し、また支配的な存在として強い影響を与えている事実に焦点をあてた、新しい思考アプローチ

 機械工学やコンピュータサイエンスを体系的に学んだうえで設計やコーディング等に職業として携わる者をテクノロジストと呼ぶとして、テクノロジストのようにテクノロジーそのものを理解することは万人にとっては不可能であるし、またその必要もない。

 したがって本書では、テクノロジーそのもの詳細については、まったくといってよいほど論じてない。そのようなことを目的としていないからである。
(中略)

 私自身、テクノロジストではない。ノンテクノロジストとしてこの四半世紀にわたって第一線のテクノロジーを目の当たりにし、ともに歩んできた。その道程においてテクノロジーの人間社会に対する大きなインパクトを身にしみて痛感し、テクノロジーを仕事や生活に適切に取り入れそれをマネジメントする者とそうでない者の間において生じる、大きな差を認識するに至った。そのギャップを埋めること、そのために人間社会とテクノロジーとの接点を解き明かすこと、それが本書執筆の動機でもある。
『テクノロジー思考』15~18ページ

 非常に俗流に仕立てるならば「文系人間のための~」「知らなきゃ、やばい~」といったタイトルになるのかもしれないが、そうしたスタイルは取られていない。理系/文系と類型化することも、テクノロジーそのものを知ることを煽るのでもない、実践的な教養を学べる内容になっている。なぜならば、理系/文系と区別すること、テクノロジーの詳しいことを知ることよりも、その背景にある経済、社会、文化、政治、歴史などからテクノロジーを考えるというアプローチを取るからである。

「きちんと断っているのは、テクノロジーのことはほとんど書いていないこと。それは、巷にいっぱいあるので、それを読んでいただければいい。そうではないところ、いわゆるリベラルアーツと先端テクノロジーの接点みたいな所を書きたいな、と編集担当とやり取りしながら執筆したんです」(蛯原氏)

 蛯原氏が提唱するのは、テクノロジーをテクノロジストのように自然科学的アプローチからだけではなく、人文科学や社会科学のアプローチから思考せよ、ということ。普遍的な法則性を持つ自然の現象を捉える自然科学の方法ではなく、人間の営みである経済、文化、歴史などの本質を認識する人文科学や社会科学の方法の前提である、リベラルアーツとテクノロジーと連携させて捉えていく方法ということもできる。端的にいうならば、自然科学のテクノロジーの背景にある人間に注目していこうという思考法ということもできるだろう。

人々の行動原理から、最新テクノロジーを眺める思考法

 では、具体的に蛯原氏らしい「テクノロジー思考」の一例をみてみたい。『テクノロジー思考』は、第3章までは、マクロ的な現状認識を概観し、第4章以降で米国の事例を挙げながら「データ資本主義」と呼ぶ、従来のとは質の違う社会の到来について紹介する。これをもの差しにして、地政学的アプローチで第5章は欧州、第6章はインド、第7章は中国と主要なエリアにおける状況に触れていく。

 ここからうかがい知ることができるのは、同じ「データ資本主義」でも、地理、経済、政治などが異なること。これを歴史、文化、宗教、民族などの要素も使って解説するところが本書らしさのひとつである。例えば、第5章「欧州という現代のデータ十字軍 vs.データ中央集権企業群」は、次のように始まる。

 2018年4月、ウィーンの街をマントを羽織った男たちが数百人行進した。その厳かな一団を構成する者たちはブルガリアの元大統領、ハンガリーの副首相、オーストリアの大臣、軍幹部、大手新聞社CEOらそうそうたる欧州の大物ばかりであった。彼らの正体はハプスブルグ家の騎士団だ。行進の最終目的地シュテファン大聖堂において、現存するハプスブルグ家当主カール・ハプスブルグ=ロートリンゲンに忠誠を誓った。

 当主カールは言う。「欧州はキリスト教の価値観によって成り立っている。それは我々の社会を象徴するもので我々の歴史と切り離せないものだ」

 テクノロジーが世界を支配する21世紀において蘇った中世の騎士団は、二度の大戦を経て世界に広まり、欧州も受け入れてきた自由と平等の理念は欺瞞であると考えている。

 彼らの基本理念とは、欧州人のアイデンティティーたるキリスト教の文化と価値観に基づくヨーロッパを護持するべきだ、という汎ヨーロッパ主義と言われる考え方である。特に2015年の欧州難民危機以降、イスラム教徒がヨーロッパに殺到していることを受けて、移民・難民の受け入れ制限を提唱していることで知られている。

 ハプスブルグ家や騎士団が現在のデータにまつわるEUの政策に直接の影響を及ぼしている事実はないだろう。しかし、その本質を考察する際にこの欧州のアイデンティティーの理解は不可欠である。欧州人が本来の拠り所としているキリスト教においては、根源的な人間の価値、個人の尊厳を重要視する。その価値観こそが、他の民族から見るとややもすると先鋭的にすら見える欧州の一連のデータ政策の根底にあるもので、いま個人データを全体主義的プラットフォーマーや国家権力から取り戻そうとしているのものだからである。

 これはプリミティブなまでに市場原理を貫く米国的リベラリズムとは対局的である。欧州のデータ政策を理解するにあたり、まずこのことをベースとして押さえておく必要がある。
前掲書110~111ページ

 ポイントは、<ハプスブルグ家や騎士団が現在のデータにまつわるEUの政策に直接の影響を及ぼしている事実はないだろう。しかし、その本質を考察する際にこの欧州のアイデンティティーの理解は不可欠である。>というところ。ハプスブルグ家に忠誠を誓う騎士団がいること、その彼らの振るまいなどの「事件」ではなく、そうした行動をする人々の内在論理、つまり、行動を起こす人々にとって「正しい」「常識」「普通」と思われることが何かを捉えたうえで、最新のテクノジーが引き起こす事象を重ねてみることだ。

 なぜならば、文化、歴史、宗教などが異なれば、その社会において「正しい」「常識」「普通」とされることが異なる。そして、その違いはアイデンティティーにまつわることなので、妥協の余地がない価値観や趣味の話になる。よって、人々が、どういう規範で考え、行動するかを知ったうえで、テクノロジーのトレンドを見る。これを繰り返していくのが「テクノロジー思考」への第一歩といえそうだ。

「本書はテクノロジー思考というものに触れてもらう超基礎編みたいな感じで、テクノロジー思考の傾向が強い私から見えている景色を書いた随筆です。まず、これを読んでいただいて、この方向性が良いと思われるようでしたら、実際、いくらでも情報はニュースなどで届くので、それをテクノロジー思考で分析してみてください」(蛯原氏)

教育環境の充実が場所選びの決め手に

 もうひとつ、なぜ蛯原氏が日本ではなくシンガポールを拠点にして活動をするのかを紹介する。この答えがテクノジー思考をする人々を知るうえで、非常に示唆に富んでいるからだ。

「人間の活動は何事も物理的な場所に集積するものなので、クラスター(集団)で分析していく必要があります。昔は工場が注目されましたが、今は(知識労働を行なう)人がどこに集まっているかが大切です。これには2つのタイプがあって、ひとつはドメスティックな集積クラスター、もうひとつはグローバルハブとして機能する集積クラスター。シンガポールは数少ないグローバルハブで、世界中からここに集まる人は別にシンガポールの内需をどうしようとかは一切興味がない。APAC(アジア太平洋地域)全体のヘッドクォーターが集まり、金融機能、人材供給機能があるから集まる。

 では、いくつかあるグローバルハブのなかからグローバルエクスパッツ(国外居住者)が自らの居場所を決める時に何を基準に決めるかというと、実は子供の学校なんです。つまり、子どもの教育環境の善し悪し。というのも、家族を持つと誰もが子どもの教育に一番の関心を持つ。特にお母さんは教育環境が悪いところは好まない。みんな家庭が大事ですからね。

 あと、私も含めてビジネスパースンは一年の半分も家にはいない。なので自分自身は、東京でもシンガポールでも良い。日本の教育環境のほうが良ければ、家族は東京にいたままでも良かったんです。でも、残念ながらそうではないのでシンガポールなんです」(蛯原氏)

 日本では、大学入試改革に象徴されるように教育や子育ての現場が迷走している。なぜ、教育環境の改善が必要か。その議論が必要な背景には、グローバルエクスパッツの行動を決定的に左右しているから、という蛯原氏の指摘は、そのとおりなのだろう。能力の高い外国人を日本に招聘しようとすると、(観光で短期滞在するのは良いが)家族が日本に移住したがらない。英語は無論の事、あらゆる意味でグローバルスタンダードの教育環境や医療体制が十分でないことが大きな理由だという。

 このようにテクノロジーとは一見関係ないとも思われる教育や医療の分野の事象が、実はグローバルに活動する優秀なテクノロジスト/ノンテクノロジストの行動を左右していることを浮き彫りにしてくる。「莫大な富を生み出すグローバルエクスパッツ」と「日本の大学教育改革の迷走」という、一見無関係に見える社会の事象を有機的に捉えることを可能になるのも「テクノロジー思考」の効用だろう。人々がどういう規範で考え、どう行動するかというのは、その事象の外側や内側の要因に影響されていることが少なくない。蛯原氏がノンテクノロジストこそ「テクノロジー思考」を身につけよ、これこそが現代社会に必要な教養なのだ、という理由はこんなところにもあるのかもしれない。

蛯原 健
リブライトパートナーズ 代表パートナー、日本証券アナリスト協会検定会員 CMA
1994年 横浜国立大学経済学部卒業後、日本合同ファイナンス(現JAFCO)に入社。20年以上ベンチャーキャピタルおよびスタートアップ経営に携わる。2008年に独立系ベンチャーキャピタルのリブライトパートナーズを日本で設立。スタートアップ投資育成に携わり、2010年よりシンガポールに事業拠点を移して東南アジアでの投資を開始する。2014年にはインドにて拠点を開設してIT系スタートアップ投資活動を始めた。近著は『テクノロジー思考――技術の価値を理解するための「現代の教養」』(ダイヤモンド社、2019)

取材・文/編集部 撮影/篠田麦也

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