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第2の人生を模索する元Jリーガー・渡邉大剛が見つけた「1.5キャリア」

2020.02.12

 サッカースクール経営やクラブ運営、ファンド設立など複数ビジネスを掛け持ちしながら、新天地・ボタフォゴでオーバーエージ枠での東京五輪出場を目指す本田圭佑を筆頭に、二足の草鞋を履くサッカー選手が増えている。長友佑都(ガラタサライ)や小林祐希(ワースランド・ベフェレン)らも会社経営に乗り出すなど、彼らは第2の人生の準備に余念がないようだ。

 その一方で「現役のアスリートである以上、持てる全ての力をプレーに注ぐべき」と考える選手も少なくない。2019年2月に現役生活にひと区切りをつけた元Jリーガー・渡邉大剛氏もその1人だ。千真(ガンバ大阪)、三城(元YSCC横浜)の2人の弟もプロ選手というサッカーエリート一家で育った彼は、名門・国見高校時代に同期の柴崎晃誠(広島)、1つ下の平山相太(仙台大コーチ)らとともに全国制覇を経験。2003年に京都サンガに入りし、大宮アルディージャ、釜山アイパーク、カマタマーレ讃岐で16年間プレーした。日本代表歴こそなかったが、献身的かつアグレッシブなサイドアタックを見せる彼を熱心に応援するファンも多かった。

現役を長く続ければ続けるほど、社会人にシフトするハードルは上がる

「子供の頃から『サッカー命』で、『選手をやっている間に一生分のお金を稼ぐんだ』と必死に取り組んでいました。セカンドキャリアのことも考えなければいけないとは感じていましたけど、そこまでの余裕はなかなか持てなかったですね」と本人は述懐する。

 けれども、どんな選手もいつかはユニフォームを脱ぐ時がやってくる。渡邉氏も2018年末に讃岐から契約満了を宣告された。現役続行への意欲は強く、トライアウトにも参加した多、34歳という年齢は想像以上に厳しかった。Jクラブからのオファーが届かないまま年を越え、徐々に引退へと傾いていき、2月に正式発表するに至った。

「その時点では正直、サッカーが嫌いになっていました(苦笑)。現役を長く続ければ続けるほど、社会人にシフトするハードルが上がる。その厳しい現実に打ちひしがれていたのも事実です。

 セカンドキャリアはサッカー以外の道に進みたいと思ったので、自分から元所属先に働きかけることはしませんでした。大宮で2011年から5シーズンを過ごした縁で埼玉に引っ越しし、当時お世話になった方々に今後のことについて相談しましたが、30代半ばの自分に何ができるかも分からなかったし、目標も見つけるのも難しかった。

 やりたいことがあっても何からどう手を付けたらいいのか分からず、そのスキルもなかった。1年くらいは無収入でもいいと思ってましたけど、このままだと来年収入を得られる保証もない。具体的な話が進まないまま3、4ヶ月が過ぎ、さすがに焦りを覚えましたね」

 一足先に引退してフットサル場に勤務する下の弟・三城氏に会って実情を打ち明けたのが6月。すると、彼から「週末は神奈川県1部でプレーしながら、平日は働く環境を用意してくれる品川CC横浜というクラブがある。そこの吉田祐介GMが兄貴に会いたがっている」という耳寄りな情報が舞い込んできた。直後に会うことになり、吉田GMから「30代でチームをリードできる選手を探していたところ、トライアウトで断トツに光っていたのが大剛選手でした。ウチに来てくれれば、セカンドキャリアに本格的に進む前の準備として『1.5キャリア』と積むことができます」と熱望された渡邉氏はオファーを了承。7月末から仕事とサッカーを両立させる新生活をスタートさせたのだ。

平日はセカンドキャリア支援、週末は神奈川県リーグでプレー

「平日はアスリートのセカンドキャリア支援事業に主眼を置いている『リスタンダード』という会社でプランディングアドバイザーとして働くようになりました。仕事の内容は、昨年の半年間は広告主回りやYou Tubeチャンネルでのアスリートインタビューなどが中心。

 今年に入ってからは、体育会所属の大学生を対象とした就職セミナーとインターン紹介も手掛けるようになりました。自分もセミナーで20~30分話をするのですが、どうしたら学生に耳を傾けてもらえるか、どんな内容なら関心を持ってもらえるかを考え、工夫を凝らさなければいけない。不安もありますけど、今は楽しみながらやっています」と35歳の社会人1年生は目を輝かせる。

 出社は週1回程度。それもオフィスワークは午後から夕方までの数時間ということで、それ以外はかなり自由に活動で来ている。それも渡邉氏にとっては魅力的だという。

「16年間もサッカー選手をやってきた自分が朝9時から夕方5時まで勤務するような仕事にいきなり就くのはかなりハードルが高いですよね。でもリスタンダードでは柔軟な勤務形態が認められているので、生活リズムを大きく変えることなく、ムリなく取り組めていますね。出勤日以外は大学の監督と会って趣旨を説明したり、エクセルやパワーポイントを使った資料や議事録作りなどを行なっています。

 現役時代はPCを使う機会もほとんどなかったけど、やっぱり社会人になれば事務作業は必須。そういうことも現役のうちに地道に勉強しておけばよかったと痛感します。そういった自分の体験談を大学生に伝えることで、セカンドキャリア意識を高められればいい。今の仕事にはやりがいを感じています」

 渡邉氏をサポートする吉田GMは「サッカー選手が現役引退した後、セカンドキャリアに移行するための助走期間がないのが今の問題点。それは他のプロスポーツも同じでしょう。『1・5キャリア』の期間を用意するのは、彼らにとって非常に重要なこと。渡邉選手が先駆者になってくれれば、僕ら品川CC横浜にとっても、リスタンダードをはじめとした支援企業にとってもプラスになると思います」と強調していたが、確かに渡邉氏はいいチャンスを得たと言っていい。

「僕は選手の仲介人(代理人)も並行して始めたんですが、マネージメントしている3人には自分の経験を伝え、引退後を視野に入れてどんな準備をすればいいかとアドバイスし始めているところです。いずれは彼らを一流企業に紹介できるくらいの知識やスキルを備えられるようにしていきたいという夢もあります。

 サッカー選手のうちはステイタスも名前もありますから人が寄ってきてくれますけど、引退した瞬間に普通の人になる。現役時代からいかに自分自身をブランディングし、社会との関わり方を持てるかが本当に大事だと僕自身、痛感しました。自分が関わっている選手や学生には、そのあたりをしっかりと理解してもらえるように、これからも一生懸命努力していきます」

 渡邉氏は16年間もプロキャリアを過ごしていたとは思えないほど腰が低く、謙虚で、物腰の柔らかい対応のできる人物だ。筆者の取材に応じてくれた後も、1時間も経たないうちに「貴重なお時間をいただきましてありがとうございました」というメールを返してくれた。彼が尊敬する選手だという元日本代表の岩政大樹氏(現解説者)も「あれだけ礼儀正しく、挨拶を欠かさないサッカー選手はめったにいない」と絶賛していた。そういう人柄の彼ならビジネス面でも地道にスキルを身に着け、いずれは夢を現実にできるはず。品川CC横浜でのプレーの方も興味深いが、ビジネス領域で渡邉氏がどのような飛躍を遂げていくか。それを温かい目で見守っていきたい。

取材・文/元川悦子

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