
今、化粧品メーカーをとりまく美容業界にはどのようなトレンドがあるのだろうか? それを探るべく、近年の美容関連の主要キーワードである「原液美容」「サステナビリティ」について、それぞれトピックスを紹介する。これらを押さえておくことで、少し美容のトレンドに詳しくなることができるはずだ。
トレンドキーワード1「原液美容」
耳慣れないという人も多いかもしれない。「原液美容」とは、原液美容液を利用する美容法のことである。原液美容液とはどのような意味か。医療法人康梓会Y’sサイエンスクリニック広尾統括院長の日比野佐和子先生は次のように述べている。
「『原液』の定義は難しいですが、基本的に美容成分自体が希釈されていない状態のことを示します。ただ、メーカーによっては成分を少々多めに入れているものを『原液』と呼称していることもあります。原料メーカーが製造している美肌に役立つ成分をそのままの状態の美容液を『原液美容液』と呼ぶべきでしょう」(日比野先生)
この原液美容液でスキンケアを行うのが、原液美容というわけだ。
純度の高い成分、しかも、その成分のはたらきのみで肌にアプローチするのが原液美容液。原液美容液はその成分自体が持つ効果をダイレクトに肌に届けることが期待できるという。
「美容医療の現場では、美容成分は成分そのままの原液の状態で直接注射などで注入することが多いです。これに似た原理で、より高濃度で手軽にできる美肌ケアとして、成分の効果を顕著に感じやすいのが原液美容液だといえるでしょう」(日比野先生)
より本格的なケアが自宅で、自分でできるようになってきたといえるのかもしれない。
市販の原液美容液の中には、「プラセンタ」や「セラミド」、「コラーゲン」、「ツバメの巣」などのエキスが入ったものなど種類も豊富。自分の肌に合わせて求めるものを選んで使うというのも原液美容の特徴だ。
「高濃度」「自分で選ぶ」というところから、より専門的な知見が必要にもなってくる。いかにサポートしてもらえる専門家を持つかで、美容は変わるのかもしれない。
トレンドキーワード2「サステナビリティ」
今や、どの業界でも取り組まれている、サステナビリティ。辞書的な意味は「持続可能性」で、広く環境保護活動を指す。このサステナビリティは化粧品メーカーの間にも広がっている。
1.グローバルな各化粧品メーカーが参加する「SPICE」
世界の化粧品メーカーが協業し、「持続可能なパッケージング」に取り組む「SPICE(Sustainable Packaging Initiative for CosmEtics:化粧品のための持続可能なパッケージングへの取り組み)」が2018年5月に設立された。
環境サステナビリティの大手コンサルティング会社であるクアンティスとフランスの化粧品会社ロレアルの共同設立によるものである。
日本企業からは資生堂が参加しており、現在、SPICEの公式サイト上では資生堂を含めて18社が参加しているようだ。日本でも名の知れたクラランスやシャネル、エルメス、ロクシタン、シスレーなども参加している。
●活動内容
参加企業は、サステナビリティ関連の専門知識を持つクアンティス社の指導を受け、パッケージのバリューチェーン全体について協働し、環境パフォーマンスの向上を図る。
具体的には、持続可能なパッケージングに関するポリシーの作成、パッケージング技術革新の推進、製品の環境パフォーマンスについての明確化とコミュニケーション改善などの協業を通じて、最終的に化粧品業界全体でのパッケージングにおけるサステナビリティへの取り組み強化を目指す。
化粧品パッケージのサステナビリティは、もはやグローバルに取り組む必要のある喫緊(きっきん)の課題と言えそうだ。
2.花王のESG活動「Kirei Lifestyle」
国内の化粧品メーカーの中で、特にサステナビリティに力を入れているのが、花王だ。
花王はESG*戦略(*ESG=Environment/環境、Social/社会、Governance/企業統治)として、2019年4月22日付けで人々が望む暮らしを「Kirei Lifestyle(キレイライフスタイル)」と定義し、それを実現するために積極的に活動している。
●これまでの成果
ESG部門を立ち上げたのは2018年。プラスチック包装容器に関する姿勢をまとめた「私たちのプラスチック包装容器宣言」を発表している。これまでの取り組みの実績として、つめかえ・つけかえ用製品による「プラスチック使用量の削減」と、「製品のコンパクト化」による効果を合わせて、2018年の全製品が本品容器であり、コンパクト化もされていないと仮定した場合と比較した場合に「93.1千トン」の削減を実現している。
●ESG戦略の内容
2019年に発表したESG戦略「Kirei Lifestyle Plan」は、「ビジョン」「2030年までの3つのコミットメント」「19のアクション」で構成されている。
【3つのコミットメントに関するアクション】
1.「快適な暮らしを自分らしく送るために」
この項目のアクションの一つ「ユニバーサル プロダクト デザイン」では、花王のユニバーサルガイドラインに適合する新規製品、改良製品の比率を2030年までに100%とする目標を掲げている。
2.「思いやりのある選択を社会のために」
この項目のアクションの一つ「暮らしを変える製品イノベーション」では、ライフスタイルに大きく、ポジティブなインパクトを与える製品を、2030年までに10件以上提案するとしている。
3.「よりすこやかな地球のために」
この項目のアクションの一つ「ごみゼロ」では、革新的なフィルム包装容器を2030年時点で年間3億個普及させるほか、花王の全拠点から排出されるリサイクルされない廃棄物量を2030年までにゼロにする目標を掲げている。
美容業界における「サステナビリティ」においては、パッケージや容器のプラスチック削減などの観点から取り組まれている。近年は、サステナビリティをコンセプトに置く化粧品メーカーも世界的に多く登場している。2020年はますますこのサステナビリティが美容業界で加速していくのかもしれない。
2020年にますます注目されるであろう、「原液美容」と「サステナビリティ」のキーワードを紹介してきた。今後もさらに注目して動向を追っていきたい。
【取材協力】
日比野佐和子先生
医療法人康梓会Y’sサイエンスクリニック広尾統括院長、大阪大学大学院医学系研究科臨床遺伝子治療学特任准教授、医学博士。内科医、皮膚科医、眼科医、アンチエイジングドクター(日本抗加齢医学会専門医)。同志社大学アンチエイジングリサーチセンター講師、森ノ宮医療大学保健医療学部准教授、(財)ルイ・パストゥール医学研究センター基礎研究部アンチエイジング医科学研究室室長などを歴任。
中医学、ホルモン療法、プラセンタ療法、植物療法(フィトテラピー)、アフェレーシス療法(血液浄化療法)などを専門とする。アンチエイジングの第一人者として国際的に活躍するほか、テレビや雑誌などにも数多く出演。
取材・文/石原亜香利