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地産地消した電気をつないでネットワーク化する電力供給システム「デジタルグリッド」を実現するブロックチェーン技術

2020.02.07

小さなセル(細胞)の電力網(グリッド)をたくさん作り、そこで作られた電気を地産地消し、それらをつないで大きなネットワークにしていくデジタルグリッド。考案者の阿部力也氏は、それを実現する中核技術のひとつとしてブロックチェーンを挙げる

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デジタルグリッドとは何か?

 このまま放っておくと地球の平均気温は21世紀末に4度以上も上昇し、それによって甚大な被害を引き起こす台風や記録的な豪雨をもたらす一方で干ばつなど自然災害が起きるようになり、私たちの日常生活が脅かされるといわれている。その対策として2020年1月からスタートした「パリ協定」は、二酸化炭素・メタン・亜酸化窒素・フロンなどの温室効果ガスの排出を減らすことなどが定められていることはよく知られていることだが、より根本的には、私たちの生活や産業の形態が変わらなければ、いま起きている地球温暖化のトレンドを変えることはできない。

 そのために様々な取り組みがある中で、問題解決の突破口を作るセンターピンを「デジタルグリッド」というアプローチに求めようとしているのが、一般社団法人(非営利団体)の代表理事の阿部力也氏である。彼は研究者、そして事業家であると同時に、思想家でもある。

 大学時代に電子工学を学び、その後電力会社で火力発電所の建設や運転保守、海外電力会社の発電所設計、米国電力研究所、電力変換技術や蓄電池の開発などに携わった後、東京大学大学院技術系経営戦略学専攻特任教授となった阿部は、同大学で社会戦略投資学を研究していた。2008年の秋、当時の同僚とやり取りしたことがきっかけでデジタルグリッドのアイデアの原型が生まれる。

 そのデジタルグリッドとは何か?

 阿部氏は、2016年9月に著した『デジタルグリッド』(エネルギーフォーラム)で、<デジタルグリッドは電力系統の電気的な制約を取り払って、しがらみなしに電気を自由に取引できる仕組み>としたうえで、スマートグリッドとは根本的に異なることを強調する。

 スマートグリッドは、2009年に米オバマ大統領がグリーンニューディール政策の一環としても扱われ、地球温暖化対策の一つとして注目されたことで知られる。日本でもスマートメーターが導入されて電気料金の検針の人員削減や、「電気の見える化」「家電の自動制御」を謳うHEMS「Home Energy Management System」が話題になった。が、阿部氏は電力系統の電気的な制約を取り払われず、しがらみにとらわれているスマートグリッドではなく、そうした旧弊を能動的に突破していくのがデジタルグリッドであるとする。

 では、デジタルグリッドをどういうシステムか。

 ざっくりというと、電力会社が運用する電気系統を、地域や集合住宅など小さい単位の「セルグリッド」と呼ぶ電力網に括り直し、基幹系統との接続部分にデジタルグリッドルーターという電気的に柔軟な接続装置(非同期連系とか準非同期連系などと呼ぶもの)を追設する。このセル内では太陽光、風力、バイオなどの自然エネルギー、コージェネレーション(天然ガスを利用して熱と電力を発生させるシステム。いわゆるコージェネ)などによって電気を作り、そのネットワーク内の料金設定をする。そのうえで、足りない分は電力会社から供給を受け、余った分は電力会社に販売する。

 また、セルグリッド同士も電力を融通していく。さらに電力会社の送電網に停電が起こったときには、セルが自動的に分離し、内部では無停電で電気を供給し続けられるようにする。

 これを可能にするのが阿部氏らが発明をした電力の制御・変換装置「デジタルグリッドルーター」と呼ぶもの。この機器によって双方向ではなく、多方向に電力融通を可能にする。

 つまり、現在運用されている電力会社の配電網を、技術革新を取り入れながらその姿を段階的に変えていき、自然災害などに強くする一方で、発電と消費を内蔵する機能的な電力組織として最適化していくためのオルタナティブな選択肢というわけである。

ブロックチェーン技術の本質は、先後関係を決めるタイムスタンプ

 デジタルグリットを実現するための中核になるデバイスが前述したデジタルグリッドルーターである。これには個別のブロックチェーンアドレスを割り振り、どの発電源が、いつ、どこで、どれだけの電気を発生させたかを管理・記録することが可能となる。さらに、デジタルグリッドルーターに蓄電池を備えておけば、どこで、いつ、どれだけの電気を貯蔵し、放電したかも把握できるようになる。

 そのうえで発電家は、パケット(小包)化した電力をメールを送るように送信し、需要家に届ける。また、その電気が再生可能エネルギー電源(太陽光や風力など)によって作られた場合には、「非化石証書」やグリーン電力証書さらにはJクレジットと呼ぶ価値等を付与し、これらを取引することもできる。これらの証書やクレジットは、Appleなどが積極的に進めていることで有名な「RE100」(Renewable Energy 再生可能エネルギー100%の頭文字から名付けられた国際イニシアチブ)の影響もあり、今後は一気にニーズが増えていくことが予想される。その際、この電気が再生可能エネルギー由来であることを証明し、生産場所から最終消費者まで追跡可能な状態(トラッキング)であることが重要になってくる。その際にポイントになる技術がブロックチェーンだと阿部氏は考える。

「改ざんできない信用というものは、今までは、国、公的機関、国のお墨付きを得た第三者機関等に認めてもらうことくらいでしか得ることができませんでした。この土地は誰が保有しているのか?となると法務局の登記簿にあるものが正しく、それ以外は認められません。送金がきちんとなされたかということになると銀行法で認可された銀行口座に書かれた事実のみが正で、それ以外はありません。海外への送金などになると、その認証行為にとても時間と人手とコストがかかっていました。

 しかし、最近、関係者で認証し合うという、新しい民間レベルの信用創出というものが生まれ始めています。UberやAirbnbなどでは国のお墨付きを得ていない運転手や宿泊場所にもかかわらず、それを信用してお金を払い、利用するという行為が始まりだしています。これは利用者たちが構築する全員参加型信用創出システムです。この中では、より高いサービス提供者が、より選択されやすくなるという構図になります。信頼度の低いことをやると損をするという社会になってきているのです。」

 阿部氏はブロックチェーンがサイバー空間における信用創出において重要な手段となり得ると期待している。

「ブロックチェーンも参加者間で認証し合うタイプの信用創出です。認証の合意形成にはマイニング、参加者多数決、資金ベース過半数合意などさまざまなアルゴリズムがあります。合意形成された記録のブロックは特殊なルールで数値化され、それが次の記録の一部に組み込まれ、また数値化されます。これを繰り返してつないでいくのでブロックチェーンと呼ばれます。この数値を見れば、すべての記録を見なくても、ごまかしや二重計上などを見破ることができます。ブロックチェーンは特にサイバー空間で取引される無形資産において、正しい記録とそうでないものを線引きする重要な手段となり得ます。」

 そのうえで、ブロックチェーンの真価はこの『先後関係が覆らないこと』にある阿部氏は考える。

「ちょっと話が飛びすぎるかもしれませんが、実は、量子物理学の世界では時間というものは存在しません。物理学者カルロ・ロヴェリは、その著作『時間は存在しない』で、物理学的に時間は存在しないと明言しています。それにもかかわらず私たちが時間が存在するように感じるのは、事象の積み重ねを行っているからです。何が現在で、なにが過去で、なにが未来なのかは、結局は確定した事象の順番で決まっていくのです。

 コンピュータによるサイバー空間上での取引でも、時間の観念が曖昧になり始めています。証券取引を例にとると、証券取引所のサーバーに入った受付時間を正とするか、ローカルな発注時間を正とするかなど議論が生まれます。さらに複数サーバーでミラーリングがされていくとサーバ間で時間が異なることも生じます。こうなると、どの時間が正なのか、どの注文が先なのか判断が微妙になってきます。量子物理学が事象の積み重ねに時間の流れを見出すように、ブロックチェーンも、先・後関係を積み重ねていくことで、サイバー空間での時間の流れを明確にすることができるのです。これがブロックチェーンの真価といえるのではないかと私は思っています。」

 阿部氏がいう、時間の感覚が曖昧という点を少し補足しておく。私たちが普段の生活のなかで認識している時間は、人間の一般的な生活の感覚から導きだされている。しかし、人間の感覚を超えた世界、たとえば相対性理論で言われているとおり、高速度で運動する物体や、強い重力が働くところでは、時間は延びてしまう、つまり時計が遅れてしまう。また、ある位置からある時刻に出発し、ある時刻になるとある場所に到達するという物理学における基本法則は、それを逆向き(マイナス運動)にしても成立する、というように一般の自然現象では成立しないことが前提とされている。コンピュータが行なう高速取引などが発達すると、大量のサーバーによって運用されているインターネット、GPSを前提にした時刻システムなど、地球規模に広がり、発展した科学技術は、一般的な時間の概念では人間の感覚を超えた別世界の存在を意識させ始めている。

 そうした現代社会では、ブロックチェーンのアルゴリズムで正しく順番を記録していけるしくみを作れるならば、二重計上や記録の改ざんはすぐに見つかってしまうため、抑止効果が働き、巨大な信用のネットワークが築けるようになる。より客観的かつ合理的なアルゴリズムに信頼を置くことで、近代社会が一応の妥協点として到達した合意形成のしくみを、さらに一歩進めるものと阿部氏は考えている。阿部氏が考えるデジタルグリッドを実現するために、ブロックチェーン技術の貢献は大きい。

阿部力也氏
1953年福島県生まれ。工学博士。東京大学工学部電子工学科を卒業後、日本最大の卸電気事業者である電源開発(J-POWER)に入社。九州大学で博士号を取得。米国電力研究所派遣研究員などを経て、2008年より東京大学大学院技術経営戦略学専攻特任教授。2017年に退官し、デジタルグリッド社を設立。著書に『デジタルグリッド』(エネルギーフォーラム、2016)がある。

取材・文/橋本 保 撮影/高橋宗正

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