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電力会社のしがらみなしに電気が地産地消できるようになると、生活はどのように変わるのか?

2020.02.06

毎年のように起こるといっても過言ではない「想定外」、「100年に一度」の自然災害。2020年1月からスタートしたパリ協定で掲げられる目標は、日本にとっては、他人事ではない。そうしたなかで、生活の根本基盤となる電気を地産地消できるしくみを実現したいという男がいる。彼が描く未来とは?

【関連記時】
ブロックチェーン技術を用いた電力網で自然エネルギーの普及を目指す

電気の供給していく仕組みを変えていく必要がある

 今年1月から温暖化対策の国際ルール「パリ協定」がスタートした。同協定は、地球の温暖化対策のために世界共通の長期目標として、平均気温の上昇を工業化以前よりも2℃を十分に下回ること、そして、1.5℃までに制限するための努力すること、さらに目標達成のため、今世紀後半における排出と吸収の均衡の達成などを掲げる(パリ協定に関する基礎資料)。具体的には、二酸化炭素・メタン・亜酸化窒素・フロンなどの温室効果ガスの排出を減らすための取り組みが産業としても行なわれることから、ゲームのルールが新しくなる節目ともいうべき時機にあると言っても良い。

「ここ数年、想定外の自然災害が何回も連続して起こり、長期停電で生活に支障が出る人の数が何万人にも及ぶようになっています。こうしたことは今まで経験したことがなくて、災害が起きては復旧し、それがまた破壊され、また復旧する、ということを続けていていいんだろうかと多くの人が感じ始めているはずです。地球温暖化の影響で、100年に一度の想定外の災害が毎年起こりうるわけですから。

 とするならば、電気のしくみもやり方を根本的に変える時代が来たと思います。今、ようやく太陽光や風力などの分散電源も増えてきているんですが、そうした分散電源で電気を供給することは許されていないんです」(阿部氏)

 こう話すのは一般社団法人(非営利型) デジタルグリッドコンソーシアム 代表理事で、工学博士の阿部力也氏。彼は2017年に東京大学を退官し、自然エネルギーの需要家と発電家をマッチングなどを行なうデジタルグリッド社を設立した。この会社は自然エネルギーの利用促進を促すために取引市場を運営するほか、ブロックチェーン技術などを活用し、取引された電気の環境価値の評価などのサポートなどを主力事業とする。現在、同社の経営は後輩に譲り、阿部氏自身は一般社団法人 デジタルグリッドコンソーシアムを拠点に、電力と情報のやり取りを融合して行なえる次世代型送電網を構築することに注力している。

 なぜ、阿部氏はデジタルグリッド社の経営から退き、非営利の一般社団法人で活動するのか。その理由は「エネルギーのインターネット」化とも呼ぶデジタルグリッドの理念を普及・啓蒙していく目的があるからだ。

 阿部氏は、2018年9月6日3時7分に北海道の胆振(いぶり)東部で起きた地震によって起きたブラックアウト、いわゆる大規模停電を例に挙げながら次のように解説する。

「あまり知られていませんが、北海道の地震のときにも太陽光発電は一週間以上止まり、バイオ発電機は動かせなかった。そういうことを防ぐために、自衛手段としてバッテリーを用意しているんですが、全部を賄えるしくみになっていない。

 また、停電したときに太陽が照るならば発電できると思われるかもしれませんが、そうではない。冷蔵庫だけ使えるなどを部分的に使うことは出来ますが」(阿部氏)

 阿部氏自身は過去に電力会社に籍を置き、長く現場に携わっていたため、電力会社の思考法や行動原理にも通暁している。

「一方、電力会社からみると災害時に分散電源をつながないようにしておくことは当然のこと。系統が停電している時に電力会社の知らないところで発電され、それが送電されると危なくてしょうがない。復旧工事をしようと触ったら、ビリビリ来ちゃうわけですから。誰が何をやっているかわからないので、一旦全部停電する。発電機は系統につながないというルールを決めている。そして、電力会社の担当者が来るまで待ってください、というのが、これまでのやり方だったんです」(阿部氏)

 ただし、北海道のケースに限らず、台風などの被害でも一度に何万、何十万の停電が頻繁に起こりだすと、電力会社の担当者が来るまで待っていてくれ、といっていられなくなる。電気が止まることは人の命に直接関わるから。しかも、道路が崩れ、電柱も流されるなどの被害で当面復旧のめどが立たない、といったことが毎年日本のどこかで起こりうる。

 地球環境の変化は、このように従来の常識の変更を私たちに迫っている。阿部氏が非営利団体を拠点に活動する理由は従来の利害を超え、持続可能性を備えた新しい仕組み、新しいルールを作りたいと願うためだ。

自由化前夜の通信業界に類似する電機業界
ルールを変えると、大爆発が起きる!?

 電力会社が電気を消費者に供給するためのシステム全体を電気系統(略して、系統)と呼ぶ。ここには、発電所、変電所、送電線、配電線など多種多様の設備が含まれ、日本では10の一般電気事業者がそれぞれに系統を備え、運用している。この系統に、太陽光発電などの分散電源を接続する際は、「系統連系規程」に沿って行なう必要がある。ここでは、被災時に電力会社以外が所有する発電機が、どのように作動するかなどが細かく規定されている。

 少し飛躍した類例かもしれないが、以前は電話網も通信機器を勝手につなぐことが出来なかった。これが80年代後半からファクシミリやコンピュータ通信などの普及によって風穴が空き、規制緩和によって新規参入事業者が競争し、現在の遠因となる勢力図を作っていった。つまり、電気における系統連系規程によって閉じている電気系統は、自由化以前の通信網の状態にも似ていて、今後関連する法規制が変わっていくと、通信業界で起きたような爆発的なイノベーションが電機業界にも起こりうるともいえそうなのだ。

「やはり、痛みを持っている人が自分の系統を運用できるようにしないと改善されないですよ。ということは、地方自治体、工場、学校など、電気が止まると困る人たちが自分で配電網を持つ、さらには自分で電源(発電設備)を持つ。このように、いろいろなことが自分で出来るようにならないと状況は変わらない。

 そんなことはとてもできない、難しいだろう、そう思いますよね。でも、そうしたことを可能にする技術はもう世の中にある。それが利用できるようなしくみにすれば、わぁっと、変わっていく。これは電話のときの電話機の関係と同じ。電話の技術はとても大変で、通信が途絶えたら国のインフラがダメになる、みたいなことを言っていましたが、通信自由化が始まったらいろんな会社が出てきましたよね。あと、通信切れたり、Wi-Fiが切れますよね。それでもサービスは継続するんです。そうしながら、便利になったんです。

 電気も同じで、切れた、電気が来ないなどをバッテリーや自分の発電機で自営しながら、自衛できるようになれば災害にも強くなる。ルールを変えれば、いろんな人が新しいモノを作り、販売し、マーケットが大きくなる。そんなことが実現できたら良いなと思っています」(阿部氏)

 電気が地産地消できるようになると、現在の常識は根本から変わっていくことになるかもしれない。なぜならば、電気さえあれば、ある程度の文化的生活は離島でも山間部でも可能になる。つまり、従来は人が集まる都市部から集落へのグラデーションでインフラの質が決まっていたが、太陽光発電などの分散電源でエネルギーが賄えるようになると、どんな場所に拠点を置くことも可能になる。しかも、そのエネルギーは自然の恵みから得られるものなので、温室効果ガスなどを排出するわけではないし、化石燃料の利用を最小限に抑えられる。

「私が構想しているセルグリッドをたくさん作ることで、既存系統に接続しつつ非常時には切り離して自立することも可能になる。発電に余剰が出れば既存系統の状態を見ながら近隣に送ることもできる。それぞれの地域で電気が賄えるようになり、地産地消・共存共栄みたいなことになる。そういうところでは、電力会社などのしがらみなどもなしに、新しい電源を入れることなどもできる。自分たちのネットワークなので何を優先して接続させるかなどを条例などで決められるほか、電線を地中化して災害に強くするとか、架空線(コンクリート柱や鉄塔などで空中に張り渡した電線のこと)の場合は、メンテナンスをシルバーセンターなどで行なうようにすれば雇用も生まれるし、安くするための工夫も自分たちで考え、いろいろなアイデアが出る。

 いま日本中のいろんな企業が発電機を作れるうえに、安く提供できるんです。日本で発電機を必要とするマーケットができれば、機器の値段はどんどん安くなり、地域の電気料金の値段を変えるんです。そこで電気料金の競争力が出てくれば、それを特徴にして企業を誘致することなどもできるんです」(阿部氏)

 まだ、身近とは言いがたい分散電源周りの産業はパリ協定という「外圧」も働くと、思いのほか早く、産業として立ち上がるかもしれない。いま必要なのは、その技術、その産業ができることで人の生活にどんな未来が広がっているかを提示し、共感の輪を広げていく阿部氏のような語り部なのだろう。

阿部力也氏
1953年福島県生まれ。工学博士。東京大学工学部電子工学科を卒業後、日本最大の卸電気事業者である電源開発(J-POWER)に入社。九州大学で博士号を取得。米国電力研究所派遣研究員などを経て、2008年より東京大学大学院技術経営戦略学専攻特任教授。2017年に退官し、デジタルグリッド社を設立。著書に『デジタルグリッド』(エネルギーフォーラム、2016)がある。

取材・文/橋本 保 撮影/高橋宗正

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