
■連載/阿部純子のトレンド探検隊
ブルックリンと兜町には共通点がある?
日本橋兜町のマイクロ複合施設「K5」にオープンした「B」は、アメリカのクラフトビールブルワリー「ブルックリン・ブルワリー」の世界初の旗艦店。
「ブルックリン・ブルワリー」は、AP通信の記者だったスティーブ・ヒンディと、銀行員だったトム・ポッターが1988年にニューヨーク・ブルックリンで創業した。19世紀のブルックリンにはさまざまな人種の移民が集まり、多くの個性的なブルワリーが存在していたが、20世紀になり原料価格高騰や禁酒法の影響により衰退。ブルックリン・ブルワリー創業当時は、多数あったブルワリーも撤退し、活気がなく治安の悪い地域となっていた。
スティーブとトムは地元とビールへの愛から敢えてこの地を選び、19世紀にブルックリンで人気だったウィーンスタイルラガーのレシピをベースにした「ブルックリンラガー」を発売。ライトな味のビールが主流だったアメリカで、豊かな味わいが楽しめる「ブルックリンラガー」は評判を呼び、次第に愛好家が集まるようになった。さらに地元のアーティストやミュージシャン、飲食店と共にビールとカルチャーのイベントを実施、ブルワリーの発展と共に街も活気を取り戻し、現在のブルックリンはアートの街として知られた、流行の発信地になっている。
1994年から醸造責任者を務めるギャレット・オリバーは、もともと同店でロックバンドのマネージャーとして働いていた。腕の立つ料理人でもあるギャレットは、北海道産ホップのソラチエースを使った「ブルックリンソラチエース」など、合わせる食事までイマジネーションした、多彩なビールを生み出している。
Bのロゴが印象的なブルックリン・ブルワリーの商品をデザインしたのは、「I♡NY」のロゴで知られるミルトン・グレイザー。当時は無名のブルワリーからの依頼であったが、スティーブの熱意に動かされ、同ブルワリーのビールを一生無料で飲める権利を報酬として、デザインを引き受けたというエピソードが残っている。
日本の店舗も本国のブルックリン・ブルワリーの精神を踏襲し、“ダイバーシティ”をキーワードにした店作りをしている。多様性を象徴する約20mのカウンターテーブルは、6000個以上の無垢材のピースによるモザイクで仕上げている。
「兜町は事始めの街とも言われ、日本で初めて銀行、証券会社ができた場所。また一説では日本で初めてビールが作られた地とも言われ、ビールには縁のある街と感じている。しかし最近では株式の電子取引が増えたことで、人の流動が少なくなっているのも事実。本国のブルワリーがブルックリンの再生と共に歩んできたように、ビールだけでなくさまざまなコンテンツ、さまざまなダイバーシティを提供することで、再び多くの人に足を運んでもらいたい」(ブルックリンブルワリー・ジャパン アカウントダイレクター 金惠允さん)
本国同様、音楽やグラフィックなどさまざまなアーティストのコラボレーション作品や、ワークショップなどのコンテンツも用意され、専用出入り口の「Bエントランス」には、ブルックリン在住の日本人アーティスト・中山誠弥さんが壁画を描いている。中山さんは本国のブルックリン・ブルワリーにも壁画を描いており、ブルックリンと東京を繋ぐということから選ばれた。取材時はオープン前で(下記画像)彩色されていない未完成だったが、創業者のスティーブや、キーパーソンとなった醸造家のギャレット、日本ならではの招き猫も描かれている。
「もとからある素材を残した状態で絵を描くのが僕の手法で、ニューヨークの店舗も同じ手法で描いている。ここは築100年近い歴史のある建物であり、その壁に最初に描くアーティストという、貴重な体験をさせていただいた」(中山さん)
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