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あのIR問題の予兆を描き、現代の〝予言の書〟となった小説「ブロックチェーン・ゲーム」はどう生まれたか?

2020.01.30

 ブロックチェーン技術をモチーフにした沢しおんの『ブロックチェーン・ゲーム 平成最後のIT事件簿』は、物語であると同時に技術や法律などの専門知識がないと、わからない事象を解説する手引きとしても面白い。実は、あの事件を解説するような場面があったと作家本人もつぶやいて……

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 フィクションを現実が追いかける作品として、密かな盛り上がりを見せているのが作家・沢しおんの『ブロックチェーン・ゲーム 平成最後のIT事件簿』(インプレスR&D、2019)。この作品には、ゲーム業界で開発者や市場解説の執筆などで長く活動した背景がふんだんに生かされている。いま、作品内でも中核的なモチーフとなるブロックチェーン技術を用いたゲームが増えつつある。

「いまブロックチェーンを用いたゲームが次々とリリースされています。特にイーサリアムには派生したトークンを作る規格があり、主に使われているのはERC20とERC721。いま日本の資金決済法では、ビットコインやイーサリアムなどの暗号資産は1号仮想通貨と呼ばれ、その1号仮想通貨と交換ができる暗号資産を2号仮想通貨と定義しています。2号通貨であるトークンではERC20が用いられ、ERC721はゲームのなかのユニークアイテムのような唯一性のあるもの、例えばファンタジー世界が舞台のゲームで剣や鎧が何種類も用意されていたりしますが、形だけでなく色が違うとか強さが違うとか、それぞれに違いがありますよね。そういうアイテムにはERC721が使われています」

 このERC20とERC721の規格の話は、予備知識。このようにブロックチェーンを用いたゲームが出始めてくると、何年にもわたって議論されてきた問題が再びクローズアップされるのではないかと沢は懸念する。

「業界に長く関わってきたのでよくわかるんですけれど、このブロックチェーンを使ったゲームでは、コンプガチャ問題やその背景にあったRMT問題といったの話題が、再燃するかもしれないと思っています」

 コンプガチャとは、コンプリートガチャの略で、<携帯電話やスマートホン向けのソーシャルゲームの一部で採用された仕組みの一つ。「ガチャ」(カプセルトイのガシャポンに由来)とよばれる1回数百円程度の抽選をしてカードを購入し、ある特定の組み合わせのカードを全部揃える(コンプリートする)と、よりゲームに有利な希少なカードと交換できる>(デジタル大辞泉)というしくみ。このデジタル大辞泉では、補説として<希少なカードを入手したいがため「ガチャ」を繰り返すことで、利用料が高額になることがしばしばあった。これを受けて、消費者庁は平成24年(2012)5月、この仕組みが景品表示法違反になるとの見解を示し、ゲーム配信元各社はコンプリートガチャを終了することを発表した>を紹介しているが、これが沢が指摘する「コンプガチャ問題」のこと。これはコンプガチャが景品表示法(景表法)で禁止する「カード合わせ」に当たる。コンプガチャについて、消費者庁が法律に抵触するとの考えを公表したことで、ゲーム業界が対応に迫られた一連の動きも含み「コンプガチャ問題」と記憶されている(参考資料:平成25年版消費者白書)。

 RMT問題は、さらに歴史が古い。RMTとは、Real Money Tradingの略で、デジタル大辞泉は、<ソーシャルゲームやオンラインゲームの中で用いられるさまざまな仮想的な物品・武器・通貨を、利用者同士が現金で売買する行為。一般的には、ゲーム運営会社の不利益や不正アクセスなどの犯罪行為に結びつく恐れがあるため、多くのゲームでは禁止されている。リアルマネートレーディング。RMT。>と説明する。こちらについては違法ではないため、これのやり取りによって利益を得るRMT業者が存在する。日本では法的規制はないもののゲーム内の秩序を混乱させるため、多くのゲーム運営者はRMTを禁止している。一方海外では、日本でも十年ほど前に一時的に流行したが、現在でも根強い人気のある米リンデンラボ社の「セカンドライフ」のように、仮想の物品をリンデンドルで売買し、さらにリンデンドルを現実通貨と交換するサービスがある。また、韓国のように法律でゲーム内アイテムの取引機能をメーカーに対して年齢制限をつけるように規制し、現金売買に伴う詐欺をはじめとした被害を未成年者から守ろうとするなど、RMTに対する対応は様々である。

 これについても沢は、以前よりゲーム業界の声を代弁しており、14年ほど前の「メーカー vs. 業者。RMTがはらむ問題と可能性をめぐる座談会」と題された記事なにもあるように、早くから警鐘を鳴らしていた。

「ゲーム運営側からすると、せっかく自分たちの作った場なのだから第三者が入ってきて、秩序を乱して欲しくないというのが普通の心情という話をしています。一方、RMT業者のほうはユーザーのニーズがあるから、ということで話をかわすのでこの座談会は議論が噛み合わなかったですね」

 これがブロックチェーンゲームが普及することでどう変わるのか、という点をもう少し踏み込んで聞いた。

「RMT問題が出てきたゼロ年代は、ゲーム会社のサーバーにあるデータを勝手に売買しているというのが(対談でも扱われた)問題だったんです。ゲーム運営側の預かり知らぬところで『伝説の剣が売れました、10万円でした』というときに、その10万円の根拠みたいなものはゲームの設計には含まれていないわけです。取引されるアイテムの出どころにしても、以前にテレビでも取り上げられましたが、外国でタコ部屋のような環境で「ゴールドファーマー」としてゲームプレイを続けて他のプレイヤーを押しのけるようにして取得したものかもしれないし、その取引もマネーロンダリングなどを含めて曰くつきのものかもしれない。売ったらもちろん売上ですが、それにかかる税金についてちゃんと処理されているのかどうか、などいろいろと問題があるわけです。

 これがブロックチェーンゲームのアセット(アイテムのこと)になると、ERC721であればイーサリアム(という仮想通貨)と交換され、イーサリアムが売却されて日本円になる。では、日本円に換えるにはどうするかというと、日本国内では金融庁が認めた仮想通貨取引所となるわけです。お金の入口と出口は法的に適切な規制のかかった安全な世界と考えられます。仮想通貨取引所のユーザーもKYC(個人情報確認)が行なわれた人になるので、安心感がありますよね。話を整理すると、ERC721などで作られたブロックチェーンゲームのアセットを、ゲームで楽しむのは当然として、取引までクリーンに利用できる環境が日本には整っているという見方ができる。

 もっと踏み込んでいうならば、日本が世界に先駆けて仮想通貨を法律で定めたことや、小説(『ブロックチェーン・ゲーム』)内のコラム欄に書いたような“事件”があったおかげで、将来的な安心感と言いますか、ブロックチェーンでアセットが作られているゲームに限っては、売買についてRMTでは問題視されていた部分がクリアになりつつある状態になっているんです。当然ゲームの設計者も取引されることを前提にゲームデザインをしますし」

 もちろん、いまでもゲームの外でアイテムが取り引きされるRMT問題は、ゲーム運営側にとっては快いものではないが、技術的、社会的な環境が変化していくことで、奇妙にも秩序が生まれていく状況になりつつあると沢は感じているという。

『ブロックチェーン・ゲーム』は、あの事件も予言した? 

「ただ、ゲームは宿命的にランダムの要素があるんです。それはガチャでなかったとしても。一時期流行ったソーシャルゲームの楽しさには型があって、分解すると概ね3つくらいあると私は思っています。。ひとつは何か数字が増えること。簡単にいえばレベルアップしたり、ゲーム内ゴールドが増えるなど、何でもいい。一般的な生活でも、ポイントが貰えるとうれしいじゃないですか。それと同じです。2つ目が、ランダム性。つまり、得体の知れない何かが起こること。1+1=2だけじゃ、面白くないわけです。2になりそうなところが100になったり、うっかりマイナスになったりする。ランダム性は、人を魅了して止まない。テレビゲームにはほぼこの要素があります。3つ目は、コレクション。これは資産の蓄積にも似ています。多くのゲームはアイテム集めるのが楽しい。また、集まってくると、ミッシングピースを埋めて図鑑を完成させたくなる。(ゲームの作成者の視点からいうと)この3つからはなかなか逃れられない。このうちのランダム要素は、有料アイテムだったり、それこそ仮想通貨に直結するブロックチェーンのアセットを用いるときに作り方を間違うと、賭博に見做されてしまう。ブロックチェーンゲームでは、前提として換金の環境が整っているので、企画設計の段階からその問題に向き合う必要が出てくる。全てのゲームクリエイターが法律に詳しいわけでもないですし、コンプライアンス視点からエンターテインメントが生まれるとは考えづらいので、ここは、今後の課題になるでしょうね」

 実は、この賭博性についても『ブロックチェーン・ゲーム』ではこんなシーンがある。登場人物の衡山ヒロシゲは、J-NEGA(ジャパン・ネット・エンターテインメント・ゲーム・アソシエーション)という劇中の業界団体所長で、官公庁へ太いパイプを持つ。彼が、部下で元“ネトゲム廃人”である湯浅ユウスケとゲームアプリの画面を眺めて懸念を話し合う場面があるのだ。

 小説に登場する『トレーディング・ファンタジー』というタイトルは、ゲーム内アイテムの売買を公式に認めた取引機能を持つゲームという設定だ。。この公式RMTともいえる機能は、ユーザーが不要なアイテムを売却して有料ポイントに変え、再びアイテム購入する際の原資にできる上に、ブロックチェーンを使用していたことから、ゲーム外での仮想通貨『クライシスコイン』を介した売買に「活用」されるようになる。以下のシーンは、これのプロモーションに人気Vチューバーが絡み、盛り上がっていくなかで、前述の衡山や湯浅のような業界関係者の目に止まったという場面である。

 <J-NEGA> のの事務所では、湯浅が <トレファン> をインストールしたスマートフォンを卓上スタンドに置き、気になる箇所を発見してはスクリーンショット画像を撮ることに躍起になっていた。

「これ、有料ポイントを売る時に特典でクライシスコインをつけているんですよ。やるなぁ。直接販売してないから、現行法では仮想通貨取引所にあたらないってことだと思うんスけど、ゲームだし、プレイヤーからそんなところを突かれることもないですよね」
「ん。総付け景品なら景品表示法で限度額が決まっている。そこには合っているのかね?」衡山は湯浅に尋ねた。
「あーっと、そうですね。取引価格の20パーセント超えてたらアウトか。クライシスコインは価格が変わるから……確認します」
(中略)

 衡山は後で湯浅が詳細のレポートを上げてくることを見越しつつも、重要な点を早期に確認しておきたいようだった。

「マーケット機能ッスね。早速売買している人が出ているみたいですが、混在はないですね。使えるのはクライシスコインだけ。1000コインとか、10万円分か。契機のいい値付けでアイテムが並んでいます。アイテムを出品してコイン価格を指定しておくタイプです。オークションではなさそう。アプリの外に出せる仮想通貨で売買できるってだけでヤバそうスけど」

「以前のカードゲームで懸念されていた賭博については、直接コインを購入しているわけではないから、ガチャで出たアイテムがレアだろうがノーマルだろうが、マーケットで売ったあとにコイン価格が上下しようが、表向きは得喪を競っていることにはならないのではないかということだったな」

「賭けたわけじゃないですね。マーケットで売れるとも限らないし、売れなきゃ値付けを下げるわけですよね、ユーザーは。需給があるから必ずしも得になることもないし、このマーケット機能があることで射幸心煽るのはちょっと難しそうだなァ。どうなんだろ」『ブロックチェーン・ゲーム』(139~143ページ)

 その後、物語は上述したRMT問題などをめぐるやり取りへと続き、いま話題のIR推進でのギャンブル定義などの思わぬ話に展開していく。沢は、Twitterで<いまニュースになってるIRが云々で紛糾みたいなこともぼくの小説に書いてあって、にわかに令和元年の預言書になってた感じある。>とつぶやいている。たしかに、ニュースで話題になっていることをフィクションの立場から紐解くという楽しみ方ができるという点で、『ブロックチェーン・ゲーム』は最新技術の世界を理解する一つの手段かもしれない。

沢しおん
@sionic4029。2018年、出版系イベント「NovelJam」(主催:HON.jp)にて、SF短編小説『マイ・スマート・ホーム』で小説家としてデビュー。オンラインゲーム企業の役員として15年以上のキャリアを持ち、スマートフォンゲームのシナリオ編集者として年間400万字以上の物語をリリースしている。

取材・文/橋本 保 撮影/関口佳代

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