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IT評論家/フューチャリスト・尾原和啓氏が語る「ディープテック」深い社会課題を解決しながらも利益を出し続ける企業への変革

2020.01.29

リアルとデジタルが一体化された新しい世界との向き合い方を説いた『アフターデジタル』、そのアフターデジタルの世界で求められる新しいタイプの技術のあり方を解説した『ディープテック』と、ベストセラーを連発するIT評論家/フューチャリストの尾原和博氏。テクノロジーが社会に深く浸透していくなかで、なぜ尾原氏は明るいテクノロジーの未来が語れるのか。その契機を尾原氏自身が語った。

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社会課題を解決しながらも、利益を出し続ける企業への変革が求められている

 ビービットの藤井保文氏との共著『アフターデジタル』(日経BP社、2019)では、リアルとデジタル(≒オフライン/オンライン、アナログ/デジタルなども含む)を分けて二元論で語られる言説を「ビフォアデジタル」、現実世界もオンラインでデジタルな世界に包含されていく現象の認識を「アフターデジタル」と定義し、常時デジタル環境に接続され続ける現代社会のパラダイムシフトを解き明かした、IT評論家の尾原和啓氏。同書はAmazonの経営戦略部門でベストセラーとして取り上げられ、繰り返し増刷(2020年1月現在で10刷)を重ねている。

アフターデジタル』は実践書としての方法を多く紹介しているが、その背景の時間的な流れや、空間的な広がり、とくに東南アジアなどの新興国の状況を知り、新しいパラダイムである「アフターデジタル」の世界の中におけるトレンドを紹介しているのが2019年9月に尾原和啓氏が上梓した『ディープテック』(日経BP、2019)だ。

「いままで日本の企業では、SDGs(Sustainable Development Goals 持続可能な開発目標)やCSR(Corporate Social Responsibility 企業の社会的責任)の話をするときに、企業活動をするなかで利益を得ているのだから還元するのはご奉公であるとか、地球のために何かをしているいい企業でしょ、だから私たちを選んでくださいというブランディングで考えているように思います。

 これが本当に技術が発達したことで、深い社会課題を解決しながらも、利益を出し続けることができる、という新しいステージについて紹介しているのが『ディープテック』です」(尾原氏)

 深い社会課題を解決しながらも、利益を出し続けることを可能にする「ディープテック」とは何か。同書では、2000年代後半からテクノロジーを取り入れた広告業界のAdTech(アドテック)や金融とテクノロジーのFinTech(フィンテック)などを皮切りに、教育分野のEdTech(エドテック)、保険分野のInsurTech(インシュアテック)などとテクノロジーを取り込んだイノベーションが同時多発的に起きていることを触れたうえで、広告、金融、教育、保険などの特定分野や業界に限定されるのではなく、社会に横断的なイノベーションが起きる現象が欧米や東南アジアでDeepTechと呼ばれるようになっている、としたうえで、次のように解説する。

 ディープテックとはテクノロジーを使い、根深い課題を解決していく考え方、もしくはその活動を指す。具体的には、どのように定義出来るのだろうか。

 ひとつ指針となるのが、2011年にパリで設立されたHello Tomorrow というNPOだ。ウェブサイトによると、彼らは「最先端のディープテック研究者やスタートアップを、大企業、投資家、さらに政府系機関、メディアなど、様々なプレーヤーにつなぎ、革新的技術の市場展開を促進する活動」を行なっている」
(中略)

 これに対して、本書では、ディープテックを以下のように定義づけたいと思っている。

1.社会的インパクトが大きい
2.ラボから市場に実装するまでに、根本的な研究開発を要する
3.上市までに時間を要し、相当の資本投入が必要
4.知財だけでなく、情熱、ストーリー性、知識の組み合わせ、チームと言った観点から参入障壁の高いもの
5.社会的もしくは環境的な地球規模の課題に着目し、その解決のあり方を変えるもの
ディープテック』14~16ページ

 ボストンコンサルティングとHello Tomorrowの調査では、このディープテックへの投資は、2015年~2018年の4年間で180ドル(約2兆円)に及ぶのだとか。具体的には、アブラヤシの果肉から搾油されるパーム油は植物由来のマーガリンや石けんの原料として使われるほか、クリーンエネルギーのバイオ燃料として使われていて、その85%がインドネシアとマレーシアで生産されている。

 いま、このパーム油のプランテーション(単一作物を大量に栽培する大規模農園)が広がり、環境汚染が広がっていることやパーム油の搾りかす(パーム核粕)が放置され、メタンガスを発生させ、社会課題になっている。このパーム核粕を微細な繊維にし、インドネシアのディープテックベンチャーが開発した素材を加えることで鳥の餌に必要な成長促進剤の代わりとなる「マンナン」が抽出可能になった。つまり、これまで処分に困っていたパーム核粕がディープテックにより、新たな商品に生まれ変わったのだ。

 <ディープテックは特許でがちがちに守られた先端技術を使って課題を解決するものではない。喫緊の社会課題をテクノロジーで解決することが目的であり、最新の技術が使われることもあれば、〝枯れた〟技術が使われる>(同書、19ページ)こともある。

 要は、テクノロジーを幅広い視点で眺め、眠っている(=deep)技術を含めて活用し、社会的もしくは環境的な地球規模の課題を解決していくアクションがディープテックであり、それは技術のみを指すこともあれば、思考、発想、行動などを示す潮流のときもある。

「いまサスティナブルPSSD(Product Service System Design)という考え方があるんですね。これはIoTによって、すべての物体であるプロダクトとインターネットでコネクトされて、サービスシステムと不可分になっています。すると、モノとしてではなく、サービスを設計できるようになる。日本語には、売り切りという表現がありますが、これが従来のもの作り。やはり、売り切るからある程度は壊れてくれないと、都合が悪いというのは隠せない事実です。最近はサブスク(サブスクリプション・モデル。モノを手に入れるのではなく、利用し、それに対価を払うビジネスモデル)になると、長持ちしてくれたほうがメーカーにとっても儲かるようになる。また、インターネットにつながると、面倒なメンテナンスも負担が減るでしょう。

 例えば車の場合、面倒だからメンテナンスに出さないケースが多いと思うんです。これが自動的に修理時期を判断し、ユーザーの利用傾向から使わないタイミングで代車、それも普段聴いている音楽などの設定は、すべてクラウド経由で同期されて、普段と変わらない状態のものが用意されて、修理が終わると戻ってくる。こうしてくれることで、メンテナンスの面倒から解放されるし、車も長持ちする。当然、廃棄物も減るので地球環境への負荷も少ない。そして、こういうサービスの世界観が実現するためには、裏側のスマートコントラクト技術でブロックチェーンが使われるといったことが始まろうとしている。そうした環境の変化に、日本の企業やビジネスパースンは、どう切り替えていくかが問われているのだろうと思います」(尾原氏)

なぜ、テクノロジーの進化をポジティブに考えられるのか

 AI、IoT、ブロックチェーン、ロボティックス、5Gなど、新しいテクノロジーが語られる際、それと同時に、そうした技術が広がった社会はディストピアだといった言説に触れることも珍しくない。が、しかし、尾原氏は「テクノジーは自由を増やしてくれるもの、特にインターネットテクノロジーは遠くにあるものをつないでくれるので、今まで、得られなかった自由が得られるようになる。そこが、まずここだけは、ストロングビリーブなんです」と断言する。テクノロジーに対してご自身はディープオプティミズムという態度であることを公言する尾原氏は、なぜ、そのような立場に至ったのか。

「あまり言いたくないんですが、直接のきっかけは阪神淡路大震災です。あの時、四年前まで通っていた高校が地震の中心地近くで、校庭は自衛隊の駐屯地とお風呂になった。私は被災地でボランティア活動をしたんですね。そのときに、世界中の方々が私たちが発信する情報を拾い、救援物資を送ってくれたり、ボランティアに来てくれた。遠くにあるものがつながることの素晴らしさを体験したんです。

 また、私自身がコンピュータおたくだったんですが、昔のコンピュータ通信は匿名社会だったんです。掲示板などではテキストのやり取りのみだったので、ディスプレーの向こうにいるのが高校生ということはわからず、良い質問や素朴な質問をすると、『おもしろいね、キミ』『良い視点を提供してくれるね、それは、どういう風に考えたの』などと大学教授などともコミュニケーションが出来た。そういう環境で私は成長させてもらえたので、つながること、それによって互いが補完し合って成長しすることがインターネットにあるし、その力を信じていきたいんです。

 もちろん、(政府や大企業などが)権力を持っている人たちは暴走をするので、そうならないためのしくみは必要です。けれども、暴走をするからといってその妄想にとらわれて、テクノロジーを使わないということはしてほしくない。そのために、どういう声をあげるべきか、という問題意識を持っています」(尾原氏)

 1995(平成7)年1月17日(火)5時46分に起きた阪神・淡路大震災。戦後初の大都市直下型地震が起きたこの年は、Windows95が発売されことをきっかけにインターネットが普及した年という文脈で語られる事が少なくないが、それと同時に自然災害時における情報通信技術のあり方が本格的に語られ始めたきっかけになったのではないか。東日本大震災においてSNSやスマホが果たしたような役割は、阪神・淡路大震災の被災地でインターネットが使われることで広く知られるようになった。尾原氏は、多感な時期に、テクノロジーの持つ可能性を経験したゆえ、ディープオプティミズムの立場でテクノロジーを語ることができるという。

 情報通信技術による社会の変化が、必ずしも楽観的に語れなくなり始めている時期だからこそ、尾原氏のような専門家が何を、どう考えるのかを知ることが大切なのだろう。

↑都内某所の大手書店にて。実は前著の『アフターデジタル』も継続的に売れ続けている。同書も『ディープテック』に共通するのは、単なる技術解説ではなくビジネスパースンが身につけるべき現状認識や思考法など新しいタイプの教養を具体的に説いているところに人気の秘密がありそうだ。

尾原 和啓氏
IT評論家/フューチャリスト
京都大学院で人工知能論を研究。90年代後半のMcKinsey時代に、急成長する携帯電話市場に関わり、退職後にドコモ入社。iモードの草創期から開発に携わる。その後、Googleや楽天などに籍をおいたほか、経産省 対外通商政策委員、産業総合研究所人工知能センターアドバイザーなども務める。現在は、シンガポール、バリ島、東京をベースに精力的に活動する。『ITビジネスの原理』(NHK出版、2014)、『どこでも誰とでも働ける――12の会社で学んだ“これから”の仕事と転職のルール』(ダイヤモンド社、2018)など著書多数。GAFAやBATHと日本企業が戦うための指南書『ディープテック 世界の未来を切り拓く「眠れる技術」』(ダイヤモンド社、共著)を10月に上梓。

取材・文/橋本 保 撮影/干川 修

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