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人気小説家・佐野徹夜インタビュー。テクノロジーが進化し浸透する時代だからこそ、経験を届けるメッセージ=小説が必要だ

2020.01.22

君は月夜に光り輝く』や『アオハル・ポイント』などベストセラーを次々と送り出す人気作家の佐野徹夜。いまTwitterで<デビュー作を書いていた頃の崖っぷちの気持ちを思い出して頑張ります>という彼に、普段とは違う、テクノロジーの切り口で話を聞いた。いま人気作家が感じていることとは?

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テクノロジーが人間を変えて行くことを小説家として面白がりたい

「ブロックチェーンや仮想通貨については、自分の興味・関心のある範囲でしか知らず、決して詳しくはありません。ただ、新しいテクノロジーに触れると、いつも面白いなと思います。テクノロジーは、ときに人間の認識や行動を変えていきます。小説家として、いずれは正面から扱ってみたい」

 死に至る架空の病「発光病」に罹った主人公をめぐる『君は月夜に光り輝く』、ある日、人々の頭の上にポイントが見えるようになり、近未来のスコアリング社会を予見させるような『アオハル・ポイント』(メディアワークス文庫/KADOKAWA刊)などベストセラーを次々と送り出す人気作家の佐野徹夜だが、いつかは、何らかの形で、テクノロジーが人間に及ぼすことについて書いてみたいと考える。

「テクノロジーは、どんどんスピードを上げて、世の中を便利にしていくところがあります。それは別の見方をすると、(良い悪いではなく)中間項がなくなっていくことだと思うんです。

 例えば、作家として個人的にそう感じる場面もあります。これまでは読者からお便りをいただくと、編集部を経由して作家のところに届くという流れが一般的でした。今では、メールやTwitterのDMで、読者の声がダイレクトに自分のところに届く。励まされることもある。あるときファンの方から、個人的な相談がメッセージで送られてきました。それが非常に個人的な内容で、考え込んでしまう。つい返信してしまうときもたまにある。それにしても、距離感が近い。

 現代は、日本の総理大臣やアメリカの大統領にメッセージを送ろうと思ったら、Twitterのリプライであれば1秒後には送信できてしまうのが現実です。“死ね”も“好き”も簡単に送れる。もちろん、それが読まれるかは別の話ですが、送ったら目に止まる可能性はゼロではない。指を伸ばせばすぐに届く『近さ』が、心理的距離を近づけている。

 だからといって、テクノロジーとは一定の距離を置いて付き合った方がいい、とか説教じみたことを思っている訳ではない。そうした変化によって、人の意識は変わっていく。距離感とか、コミュニケーションの線引きの仕方とか。そういうことって、小説家として、僕はつい面白がってしまう」

 佐野が言う中間項は、メーカーと消費者の関係ならば、その間に携わる生産、流通、販売、広告、サポートなどに関わっている業種や人々のこと。間にある物事がすっ飛ばされ、さまざまにつながり合う。それが究極まで進んでいく社会はどうなるのだろうか、という問いなのだろう。確かに、早くなったから便利、手続きが減って簡単など、テクノロジーの利用が広がることで得られる便益は中間項の存在を隠したり、消していく。そうすることを良い悪いと判断する前に、まず認識してみることで、別のことが見えてくるということかもしれない。

普通の言葉を敷衍して物語る、小説家の役割

「ダークウェブに関心があります。抑圧されたものが集積していく場所。人の無意識と対応しているようにも思います。

 新しいテクノロジーには、デザイナーベビーのように倫理的な問題を孕んでいるものがあります。先進国では規制をかけていくが、それで問題が解決するわけではない。

 目に見える場所はきれいになるかもしれないけれど、それ以外のところにグレーなものが集まり、その純度がどんどん高くなっていく。その流れが加速しているように見える。そのこと自体に倫理的な問題があると言えるかもしれない。

 人の負の部分、薄暗い部分、絶望をきちんと描きたい、常にそう思っています。

 ただ、僕はそういう現実を描くとして、長編小説では希望のないことを書けないんです。読者としての自分は、絶望しかない小説が大好きだし、読むことで逆説的に魂が救われることさえある。ただ、少なくともデビューしてまだ数年の今の自分は、小説できれい事を書きたいと思っていて」

 佐野がいう「きれい事」は、倫理的な振る舞いや、希望を指すのだろう。そうしたことは、“意識が高い”“うざい”“アツい”“痛い”などと冷笑されることが少なくないが、やはり大切なもの。

『アオハル・ポイント』の主人公・青木は、人のことをポイントで見てしまうが、最後に、とても大切なことに気づく。それは、言葉にすると意外と普通なことだった。以下は、一緒にポイントが上がる努力をしてきた同級生の女のコの春日とのやりとり。

「この世界がもし、俺たちに、ポイントをつけてくるなら。俺はそれには乗らないよ。本当に」
 俺はテレキャスターを、パソコンに振り下ろした。
「俺、ポイントにならない何かを信じてる」
「ごめん。笑っちゃった」
 俺の話を聞いていた春日が、苦笑いした。
「要するに青木の言ってることって、超普通のことじゃん」
「……そうかも」
「そんな簡単なことに気づくまでに、これだけ傷つかないといけなかったの?」

『アオハル・ポイント』(メディアワークス文庫/KADOKAWA刊)
発売日:2018年10月25日
定価(本体630円+税)
人には目に見えない「ポイント」がある。ルックス、学力、コミュ力。誰もがそれに左右され、振り回されている――。これは不幸にも、そのポイントが「見える」ようになって しまった高校生・青木直人の青春の序章。

 佐野は、小説は経験を届けるメディアだと考える。言い方を変えると、「ざっくり言うと~」「ようは~」「一言で言うと」などと要約された形では普通の言葉になってしまうが、それを小説という形態にすることで伝わるようになるという。

「汚い現実を直視し、擬似体験することは大切だと思います。そのうえで、どうしていくのかを考えていく。言葉にしてしまうと普通のことを、単純化しないで、複雑なまま届けたい。

 普通でシンプルでそれなりに妥当な言葉は現実に溢れています。それが腑に落ちる人は、そのまま現実を生きていけばいい。でも、それがしっくり来ない人もいる。例えば小説の中で僕が書いているような『外見や能力だけで人を評価しないで』みたいな話って、言ってることはわかるし、ある意味普通だけど、それだけでは飲み込むのが難しい話かも知れない。僕の小説を読んだあと、そういう言葉が説得力を取り戻せていれば嬉しいです。

 小説って、読むことで何かを経験できるメディアなので、それが単純なメッセージではなく、その背後にある感情や感覚がトータルで含まれていることが大事なのかなと。そういう意味では、小説はスローなメディアなのかもしれません」

 要約されたテキストではなく、敷衍されたテキストを生み出し、物語る。それによって作家と読者の間で別のコミュニケーションの回路を作る。もし、小説家の役割が、そういうものだとするならば、佐野徹夜のような存在はテクノロジーが生活に浸透し、時間が早回しになる社会では、一層重要な役割を果たすようになるに違いない。

佐野徹夜
小説家。第23回電撃小説大賞で『君は月夜に光り輝く』が大賞を受賞してデビュー。『この世界に i をこめて』『アオハル・ポイント』、『君は月夜に光り輝く +Fragments』(以上、いずれもメディアワークス文庫/KADOKAWA)、『透明になれなかった僕たちのために』(『文藝』2019春季号、河出書房新社)など。

取材・文/橋本 保 撮影/干川 修

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