カルシウムを除去して汚れを浮かせる
もう1つの課題が、洗剤の洗浄力が弱いこと。こすらず洗えることを実現するには、洗浄力の強化が不可欠であった。
汚れをこすり洗いせず水で流せば落とせることだけを目指すべく、処方はゼロベースで検討。効果が見込まれる成分の効果発揮の根拠などを科学的に検証・解明していったが、こうした作業を1つひとつ積み重ねる過程で、水道水に含まれているカルシウムが浴槽に汚れを付着させる原因であることを突き止める。
実はこれまで、汚れが浴槽に付着する原因はきちんと解明されていなかった。「浴槽の汚れは人間の体から出る垢や脂が主成分であることはわかっていましたが、汚れがこびりつく原因は、これまできちんと解明されていなかったところがあります」と宮川氏は話す。
カルシウム分を取り除くことができれば、汚れはこびりつく力を失う。そこで、カルシウムの除去に効果を発揮する成分を配合し、他の洗浄成分でカルシウム除去後の汚れを浮かせることにした。汚れを浮かせることができれば、水の力で汚れを流し落とせるというわけだ。
汚れをこすることなく水を掛けるだけで落とせるメカニズム。ライオンでは「無力化洗浄」と称している
タレントやキャラクターをインフルエンサーとして活用
販売に当たっては、ネガティブな印象がある「こすらず洗える」ではなく「ミストを掛けて流すだけで洗える」と訴求することにした。テレビCMでも汚れ落ちの強さや性能にはいっさい触れず、「シューっとまんべんなく掛けて、60秒待つだけ」と強調。これを使えば今までより楽ができそうな印象を持たせるようにした。
テレビCM以外で力を入れたのが、コラボレーション動画の制作であった。テレビを観ずCMに触れないユーザー層に対するアプローチとして考えられたもので、これまでにお笑いコンビのチョコレートプラネット、アニメ『ONE PIECE』とのコラボ動画を制作している。タレントやキャクターをインフルエンサーとして活用した形だ。「テレビを観ずCMに触れないユーザー層に向け、タレントやアニメ/マンガの力を使い商品の情報を届けることにしました。コラボ動画は今後も実施を検討したいです」と宮川氏は話す。
取材からわかった『ルックプラス バスタブクレンジング』のヒット要因3
1.つらさや面倒臭さからの解放
新容器の開発と洗浄力の強化で、つらく面倒臭い家事の筆頭である浴室の清掃を楽にすることができた。つらいことや面倒臭いことが楽になるものに、飛びつかない理由はない。
2.新方式であることを重点的に訴求
洗剤の機能や品質を謳わず、今までにない新しい使い方をすることを重点的に訴求。この使い方だと従来より楽にできると印象づけることができた。
3.何物とも似ていない
洗浄のメカニズムや使い方だけでなく、容器デザインも既存のものと違う。「次世代の商品」というイメージを持たれやすく、注目を集め手に取ってもらいやすかった。
SNSやネット通販サイトでのレビューでは、汚れがこすらず落とせたことで「感動した」という声があがったほど。掃除するのがつらい妊婦などからも大いに喜ばれているという。洗剤を使って感動したり喜ぶことは、滅多にない。こんな反響があれば、完成に要した7年という長い時間は報われたも同然である。
製品情報
https://look.lion.co.jp/lookplus/bathtub/
文/大沢裕司