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東京大学とソフトバンクがAIに特化した「Beyond AI 研究所」を開設する理由

2020.01.17

東京大学が、なぜソフトバンクと?ここ数年でAIの学びの場が10倍に

 ソフトバンクから見たときに、最高学府の雄とタッグを組むことにはメリットがあることは容易に想像がつくが、東京大学から見たときに、どんなメリットがあるのだろう。その問いの答えを会見から探っていくと、この取り組みが総長を本部長とする「未来社会協創推進本部」主導で行なわれていることが見えてくる。

 一言でいうならば、時代の変化に対応しつつ、社会の要請に応えていこうという強い意思が働いているようだ。

 改めて言うまでもないが、東京大学のルーツは、幕末・維新期の「蕃書調所(ばんしょしらべしょ)」や「開成所」に遡り、明治新政府のもとで、近代的な総合大学として整備されていく。現在は国際的に常識になっている総合大学に工学部を設置する世界で最初のモデルであったことはよく知られていること。中央官庁などに官僚を輩出する官吏養成機関という印象が強いかもしれないが、産業界を始めとした社会の要請に応える色彩も成立当初から色濃いのである。

 五神 真総長は、いま同大卒業生が就職ではなく、起業をするケースが増えていることを紹介し、優秀な学生が就職ではなく、起業することが多く、本郷周辺はベンチャーのオフィスが集積する“本郷バレー”とも呼ばれていることを紹介した。ただし、課題もある。

「いまインキュベーションのような形でお世話をしているのが100社くらいで、東大関連ベンチャーの法人としては300数十社あります。このうち上場した会社も20社近くあるんです。東京大学は日本の中では一番トラディショナルな組織のようにも思われていますが、一番新しいもの好きのソフトバンクとの連携が、むしろ社会に対して、良いインパクトを与えるんじゃないかなということも期待したところです」

東京大学の第30代総長・五神 真氏。孫氏との付き合いは、孫正義育英財団を創設する際に意見交換をし始めたのがきっかけだったとか。「孫さんと私と同じ年。私たちの世代は、テクノロジーが成長とともに、進歩した。(孫さんは)新しいことに挑戦しているということが頭に残っていた、何かコラボレーションできることがあればと思っていた」。東京大学周辺の本郷には、ベンチャーのオフィスが集っている。同大学関連のベンチャートップ5社の時価総額は1.1兆円以上(2019年5月現在)あり、金額的には、国際的にも引けを取らないレベルだとか。

 ただし、投資家から見ると、こうした状況はまだまだ物足りない。とくに孫氏のように、地球儀を俯瞰する投資家からすると、規模が小さいのだ。
「イノベーションを起こすためにベンチャーが大事なので、東京大学でも20年くらい前から準備を始めてきました。とくに最近は、ICTを使ったデジタルレボリューションとも呼ばれるようなトレンドの中で、AIを活用して社会課題を解決しようとするベンチャーがものすごい勢いで出始めています。

 しかし、孫さんのようなグローバルスタンダードの投資家から見ると、(日本のベンチャー企業の規模は)、まだ国際的に見ると物足りないと思うので、一桁大きい規模を目指せるような起業家を育てたい。これは東大が先行しているからこそ挑戦ができるので、孫さん、ソフトバンクと一緒にやることで、スピード感をもって進められるのではないかと思います」(五神氏)

 五神氏ら東京大学が、AI分野においてソフトバンクと手を組んだことについては、もう少し背景的な説明が必要かもしれない。ご存じのとおり、東京大学を始めとした国立大学は国立大学法人法のもとで、2004年から国立大学法人に移行した。さらに、改正された同法が2017年から施行され、世界最高水準の研究や教育を目ざし、イノベーションを創出できると国から認められた国立大学法人は、指定国立大学法人に指定され、日本国内の競争の枠組みを越え、高次元の目標を設定し、経済・社会の発展に貢献する研究成果を発信し、世界の有力大学と互角に戦っていくことを求められるようになった。東京大学も指定国立大学法人のひとつ。五神氏が総長就任時は、その議論が行われていた時期と重なる。

これまで国立大学は、国から交付される運営費のなかで活動しなさい、という話だったのですが、私が総長になった2015年6月に、文科省からも『運営から経営にシフトして、自立しなさい』といわれるようになりました。自立するためには、新しい資金ソース、さらには資金循環が必要です。

 いまちょうど、デジタルレボリューションによって、経済の価値の源泉が、モノから知識や情報、サービスに変化しています。そういう変化のタイミングだからこそ、大学自らが経営体になることも可能だと考えています。

 そのひとつの方法として、例えば大学が関係したベンチャーが大きく育っていく中で、そのリターンが入ってくるという仕組みを作りたい。一大学がベンチャーに直接出資することが現在の制度では難しいので、いま経産省が中心に進めているCIP制度などを活用したいと思っています。

 この制度を使うと、ベンチャーの前段階のところをコラボレーションしたり、事業化したときに、そこに貢献した大学は、株式などを3割程度の規模で確保できるようになります。

 こういうものがないと、東京大学とはいえども、自立した経営体になることは困難です。(ソフトバンクとの取り組みをきっかけに)こういう仕組みを使ってみたいという思いもあります」(五神氏)

 また、今回設立される「Beyond AI 研究所」で、物理学と医学の分野からスタートするのが、この分野に強みがあると、五神氏は語る。

「世界でみたときに、日本の数学や物理をやっている人たちは、優秀なんですね。そういう人たちがAIに直に触れるような形を整えて、新しいビジネスを起こす。私が総長になったときには、まだAIを教えるところがほとんどなくて、ソフトバンクグループ社のお手伝いもしている松尾(豊)先生が講座を始めてくれました。当時の受講生は年間100人くらいでしたが、現在は1000人規模で、学部学生から社会人まで含めて受講しています。いま、いろいろな分野でAIを活用した論文が出始め、その中から社会課題解決のためにベンチャーを作りたいという人たちも勢いよく出てきている。ここに集まっている人材や彼らが扱うデータは、国際的に見ても、かなり優位性がありそうだと考えています」

 確かにAIの需要が高まっているにも関わらず、その高等教育機関の講座が十分でないというのは厳しい。また、AIを学際的に活用する環境も十分でなかったようだ。より大きな課題はAIのニーズがあることを産業界が要求し、また大学側の事情も考慮した座組み作りがうまくいっていなかったのかもしれない。その先行事例作りを孫氏は考えているようだ。

「まず、AIについて十分な知識、そして学習場が少なかった。また、学習しても単なる基礎研究だけだと、すぐにお金にならない。それでは仕事としてどうかとなる。やはり、起業に結びつき、それがちゃんとエコシステムとして循環していかないと大きく続かない。ですから、今回は我々が東大と一緒に、そういう仕組みを作って、そういう人材、アイデア、資金が回っていくような仕組みを作りたいと思っています」

 孫氏が敬愛する坂本龍馬が活躍した幕末に、東京大学は原型を整え、明治維新以降は、お雇い外国人を招聘するなどして、近代化の推進役を果たした。令和の現在に、AI分野で似たような座組みを作りたいーー孫氏やソフトバンクの取り組みには、そんな思惑があるようだ。

左から、ソフトバンク代表取締役副社長執行役員 兼 CTOの宮川潤一氏、ソフトバンクグループ代表の孫正義氏、第30代東京大学総長の五神真氏、同大 理事・副学長の藤井輝夫氏

取材・文/橋本 保

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