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新卒社員の「通年採用」は「一括採用」より良い効果を生むというのは本当か?

2020.01.07

■連載/るあるビジネス処方箋

 前回に引き続き、今回も新卒(主に大卒、大学院修士卒)採用について私の取材経験で得ている情報をもとに考えたい。今後、2021年入社の新卒採用活動が本格化するので、学生たちがあらかじめ心得ておくべきことを取り上げる。今回は、「通年採用」を切り口に捉えてみよう。

「通年採用」は通常、大学3年の3月頃から4年3月の卒業までの約1年間を通じて複数回の採用試験を行うものだ。たとえば、私が知るメガベンチャー企業は4年の4月、5月、6月と前半で計3回。その内定者や内定辞退者の数を検討のうえ、後半の10月、11月に数回実施する。この企業は「通年採用」としているが、実際は前半3回で内定者の大半(約9割)を獲得する。10月以降は、人事担当の役員に聞くと、「通年採用をする進歩的な会社」であることを世間にアピールするためだという。

 ここ10年の新聞やテレビの記事や社説、そこに登場する識者のコメントを見ると、「通年採用が従来までの一括採用よりも様ざまな意味で優れている」と捉えるものが目立つ。私はこの論調には、「企業の採用担当者に取材したうえでの事実に基づくものなのだろうか」と疑問を感じ続けている。仮に取材したとしても、10∼15社ではないかと思う。ほとんどの学者や研究者、新聞や雑誌の記者は、このくらいのレベルのはずだ。これでは、「取材(聞き取り調査)をした」とは決して言えないと私は思う。

「一括採用」とは、知名度やブランド力のある大企業がかねてから得意としてきた手法といえる。実際は、メガベンチャー企業も一括採用をしているケースが多い。ここ10数年で新卒採用をテーマにした取材で接した60∼80社の大企業やメガベンチャー企業の新卒採用担当者に聞くと、平均的なモデルが本エントリー者数2000人∼1万人で、2週間∼1か月で2∼5回の面接や筆記試験を実施するものが多い。内定者数は、毎年20∼50人。この2週間∼1か月で内定の目標者数を全部獲得するところに、以前から様ざまな声はあった。「閉鎖的だ」「優秀な学生も、時期を逃がすと入社できない」などだ。しかし、大企業やメガベンチャー企業の担当者のほとんどが、「一括採用の結果におおむね満足している」と答える。「不満がある」と私の取材で明言した人は、ゼロに近い。

 実際、大企業やメガベンチャー企業の新卒入社の入社後10年間程の定着率は中小企業やベンチャー企業よりも総じて高い。大半の大企業の業績(主に売上や経常利益)は、中小企業やベンチャー企業よりもはるかによい。社員の質はまるで違う。私がこの30年程で観察をしていても、大企業やメガベンチャー企業の社員のほうが、中小企業やベンチャー企業のそれよりも仕事力は少なくとも数ランクは高い。社員教育が行き届いているケースが多いためか、会社員としての性格や気質も優れているように見える。労使間のトラブルや労使紛争は、中小企業やベンチャー企業よりは断然に少ない。

 素直な目で事実関係や状況を見据えると、やはり、大企業やメガベンチャー企業は中小、ベンチャー企業よりも様々な点ではるかに優れている。これは、新卒採用についても言える。仮に「通年採用」が「一括採用」よりも優れているならば、大多数の大企業が数十年間、一括採用を継続しないだろう。間違いなく、大企業は「通年採用よりも、一括採用のほうにメリットがある」と考え、合理的な判断のうえ、続けてきたはずだ。そのことを前述のような新聞やテレビが正確に把握していない可能性が高い。伝統的に、新聞やテレビで働く人(記者やディレクター、プロデューサーなど)は人事や労務をテーマにした報道を苦手としている傾向がある。事実、そのようなものは少ない。

 私がみていると、「一括採用」についても問題はある。少なくとも、次のようなものだ。


1、 一括採用の時期(大企業は通常2週間∼1か月)にエントリーできなかった学生が一定数いるが、その中には優秀な人もいるかもしれない。

2、 海外から日本企業にエントリーしたい外国人学生がいる。この人たちが受験できない場合がある。

3、 一括採用の時期に大量の大企業が試験を行うので、希望する大企業を受けることができないケースが生じる。企業からしても、優秀な人材を他社に奪われる可能性がある。

4、 一括採用の時期に大企業の内定を得ることができないと、その多くは中小企業やベンチャー企業に「失意の就職」をする傾向がある。これが、若い人の勤労意欲を下げて、入社3年以内の早期退職につながる場合があるかもしれない。


 1や3の意味での「優秀な人」が実在する可能性は低いとは思うが、「いない」とは言い切れない。大企業やメガベンチャー企業の中で知名度やブランド力に見劣りする会社は、一括採用で内定目標数の少なくとも7∼8割を確保し、10月以降に1∼2回の「補充的な意味合いの試験」を実施してもよいのではないだろうか。ただし、通常はこの時期に内定を得ていない学生は労働力という意味で何らかのマイナスがある可能性が高い。従って、無理に内定は出すべきではないだろう。やはり、優秀な学生を確保するためには、一括採用で内定目標数の大半を確保するのが絶対生命線なのだ。「通年採用」はあくまで「一括採用」の補充の位置づけや社の知名度向上の機会と捉えるとみるのが、素直だと思う。

 私が問題視するならば、2の「外国人」と4の「失意の就職」である。特に「外国人」で、私が知る限りでも、中国人や韓国人などに20∼30人がいた。その多くは、欧米の企業に就職した。しかし、実際は日本の大企業の中には、特に商社や都市銀行(現在のメガバンク)は遅くとも1960年代から夏∼年明けの1月に外国人や海外留学から帰国した日本人学生のために「特別な試験」を行っていたケースがある。それを証言する人も、私の周りに10~15人(現在50∼70代)いる。今後は、このような大企業を増やしていくべきだとは思う。

 上記の1~4のような問題点は、特に1~3は一部の大企業では、はるか前から解決に向けて何らかの形で取り組んできたのだ。しかもその企業数はここ10数年、増えている。新聞やテレビ、識者はこのあたりの事情に疎い。相変わらず、「一括採用が時代錯誤で、通年採用が最先端」と言わんばかりである。事実に基づくものならばいいのだが、必ずしもそうとは言えない場合があるのだ。

 最後に…。これは、私の考えである。一括採用の大きな問題点は、10代の頃にドロップアウトした人がなかなか認められないのではないか、と思うことがある。たとえば、家庭環境に恵まれなかったり、学歴にハンディがある人たちだろう。私は1980年代前半に16歳で高校を辞めて、大検(現在の認定)を経て大学に進学したが、当時、大企業の新卒採用試験において「大学卒業見込み」であろうとも、「高校中退」ということで無念な思いをしたものだ。そこで不採用となると、自動的に中小企業にエントリーせざる得ない状況だった。だから、ずいぶんと面接で媚びざるを得なかった。何か、理不尽な思いを持ったものだ。幸い、希望の大企業に就職することができたが、あの頃から一括採用には「閉鎖的」な印象を持ち続けている。

文/吉田典史

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