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撮影期間8年!ゲイポルノスターの人生の頂点からドラッグにおぼれる生活までを赤裸々に綴った映画「Jonathan Agassi Saved My Life」

2019.12.13

■連載/Londonトレンド通信

 トマル・ハイマン監督がゲイポルノスター、ジョナサン・アガシを撮った『Jonathan Agassi Saved My Life』が、この秋に結果発表されたオフィール賞(イスラエルのアカデミー賞にあたる)でドキュメンタリー賞を受賞した。イギリスでは3月のロンドンLGBTQ+映画祭での英プレミアを経て、11月18日からDVD、オンライン、限定劇場公開されている。

 ハイマン監督は、今、最も勢いのあるドキュメンタリー作家の1人だ。

 振付家オハッド・ナハリンを撮った『Mr.Gaga』(2015)は、サウス・バイ・サウスウエスト映画祭観客賞を受賞し、日本でも『ミスター・ガガ 心と身体を解き放つダンス』として公開された。

 弟バラク・ハイマンとの共同監督で、HIVに感染した男性を主人公に家族間の微妙な感情まで写し撮った『Who's Gonna Love Me Now?』(2016)は、ベルリン国際映画祭パノラマ観客賞を受賞した。

 そして、今回、故国イスラエルのアカデミー賞だ。

 今回の主人公ジョナサン・アガシを撮るにあたって、ハイマン監督は撮影期間のリミットを設けなかった。結果、8年に渡って撮り続けることになる。そして、アガシの絶頂期からどん底までがフィルムに収められた。

 たとえ期限を切って撮ったとしても、それなりの映画にはなったろう。アガシが活躍していたゲイポルノの世界だけでも、下世話な興味を満たすに十分な面白さだから。

 だが、ハイマン監督はそれで撮影を終えることはしなかった。アガシがショーに出演するドイツから、母、妹のいるイスラエルの実家まで追っていく。

 監督はアガシとテルアビブの街角で出会った。この時、監督はアガシが何者か知らなかった。それから、度々アガシを見かけるようになる。アガシはイスラエル風な実名ヨナサン・ランガーを名乗り、監督に自己紹介した。

 その後、監督はヨナサン・ランガーがゲイポルノスター、ジョナサン・アガシと知る。世界中に何百万人ものファンを持つ売れっ子だ。そしてドキュメンタリー制作を申し出るのだが、当初、アガシは乗り気ではなかった。

 トマルとバラクのハイマン兄弟でプロデューサー、監督もする映画制作会社ハイマンブラザーズフィルムスには、ドキュメンタリー出演者にはノーギャラというポリシーがある。

 そのためギャラの額ではなく、どういう映画を撮ろうとしているかで交渉していくのだが、その中でアガシが言った「僕の名前はもうヨナサンではない。僕の名前はジョナサン・アガシ、そして、あなたはこのペルソナ、ジョナサン・アガシが僕の人生を救ったことを知らなくてはいけない」という言葉がそのままタイトルとなった。

 救われたという人生はどんなものか。映画の中で、アガシは写真を見せながら思い出を語る。少年の頃からフェミニンなところがあり、そのせいで学校ではいじめられたという。

 アガシを受け入れなかったのは、学友だけではない。アガシが幼い頃に、母と離婚し、家族から離れた父も、ゲイである息子を否定した。それが今でもアガシを苦しめていることは、父を語る口調、また、父と再会する場面からも伝わってくる。

 アガシと母、妹との関係は良好だ。アガシは網タイツ、ハイヒールという姿で母と妹の前に登場し、新衣装としてどうかと感想を求めたりもする。

 ことに母とは、成人男子としては珍しいほど親密だ。自身の出演しているゲイポルノ映画をいっしょに観ることさえする。さすがに絡みが始まる前に止め、母も「ここからは私向けじゃないわね」と席を立つが。

 だが、ハッピーエンドにはならなかった。エスコートとして客をとっていることも明かされていくアガシには、ドラッグの問題もあった。

 長きに渡って自分を撮り続けるハイマン監督への信頼か、あるいは隠す余裕もないのか、カメラの前でもクリスタルメスを使用する場面が度々ある。それは次第にコントロールの範囲を超え、床をのたうち回る様さえカメラはとらえる。

 そんな状態で、ポルノ俳優として、さらには生きていくモチベーションを保つのさえ難しくなっているアガシの姿で映画は終わる。

 これから、この人はどうなっていくのか?苦しむ主人公の今後を思わずにはいられない。

 さて、ここから先は蛇足になるかもしれないが、ガーディアン紙オンライン版がイギリス公開に合わせ、アガシのインタビューを掲載していた。

 それによると、アガシはポルノ俳優を辞めて売店員として働きながら、母に伴われてリハビリサポートグループに通っているそうだ。

 さらに驚いたことには、ハイマン監督は、ドラッグから抜けていく時期まで撮っていた。ということは、せっかく撮ったそこを切り捨て、あの後を引く場面をエンディングとして選んだのだ。英断、刺さるエンディング、そして大成功だ。

文/山口ゆかり
ロンドン在住フリーランスライター。日本語が読める英在住者のための映画情報サイトを運営。http://eigauk.com

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