
■連載/阿部純子のトレンド探検隊
野菜や果物の香り、栄養を加えた新しいオリーブオイル
昭和21年から香川県小豆島でオリーブと柑橘の農園を営む「井上誠耕園」では、15種類のフレーバーオリーブオイルを発売している。良質のオリーブオイルを製造販売している同園だが、フレーバーオリーブオイルを開発したのは、三代目園主の井上智博さんが10年ほど前に訪れた、ギリシャ・クレタ島での経験がきっかけだった。
「白髪の女性が営んでいた小さなレストランで、地中海で獲れた魚を炭火で素焼きにし、自家製のレモンオリーブオイルと塩だけで食べた。その味に非常に感動し、うちでも独自のフレーバーオリーブオイルができないかと考えた」(井上園主)
井上誠耕園主催の「フレーバーオリーブオイルセミナー」では、管理栄養士の豊田愛魅さん、井上誠耕園のオリーブオイルソムリエ・西田征弘さんの解説で、フレーバーオリーブオイルの魅力や栄養、美容面での効用、レシピが紹介された。
最新著書の「ずぼやせ」(光文社)で、オリーブオイルの腸内クレンジングを紹介した“オリーブ推し”という豊田さん。
「オリーブオイルの主成分であるオレイン酸は腸の動きを刺激したり、すべりを良くする作用があり、腸の中の汚れや余計なものを文字通りクレンジングしてくれる。オリーブオイルの緑の色素であるクロロフィルはデトックス効果があると言われており、腸内をきれいにして、美肌にもつながる。
油を摂ると太るのではと心配する方もいるが、最新の研究結果で、食べ物から摂った脂質の8割がエネルギーとして消費されたり、ホルモンや細胞膜に使われ大半が排出されることがわかった。一緒に食べた食事の栄養吸収をアップする効果もあるので、質の良い脂質は怖がらないで積極的に食べて欲しい」(豊田さん)
「オリーブオイル職人の世界ではエキストラバージンオリーブオイルを評価するときに『青いバナナの香り』『ナッツの風味』などと表現するが、原料がオリーブのみなので、品種による違いはあるが、結局はオリーブ以上の香りは出せない。
香りは料理のおいしさを決める重要な要素のひとつだが、フレーバーオリーブオイルも同じ役割があり、オリーブだけでは出せないフルーティーな香り、食欲をそそる香ばしさをプラスして食材を引き立てる。オリーブ以外の野菜や果物と合わせることで、香りや栄養をプラスする新しいタイプのオリーブオイルだ」(西田さん)
果実だからこそできた素材の香りをそのまま引き出すフレーバーオリーブオイル
食用油の大半は種子から搾ったものが多く、果実から搾る食用油はオリーブとアボカドのみ。オリーブは世界に2000種ほどあり、品種の違いはあるが、オリーブ果実なら他の素材とケンカすることなく、うまく合わせることができる。井上誠耕園では3つの製法でフレーバーオリーブオイルを製造している。
〇焚き製法
オリーブオイルと他の食材を低温でじっくり焚き合わせてオリーブオイルに香りを移して作ったもの。にんにくやしょうが、ごぼうといった野菜や、バジル、タイムなどのハーブを焚き込んだものがある。焚き製法で作られたフレーバーオリーブオイルは、「低温抽出ガーリックオリーブオイル」、「生姜オリーブオイル」、「にんにく唐辛子オリーブオイル」、「香りオリーブオイルねぎ」、「香りオリーブオイルごぼう」など。
〇アグロマット製法
オリーブ果実とレモンやネーブルの果実を一緒にペーストして混ぜ合わせ、その後に2つの果実を同時に搾る製法。柑橘の果皮が持っている油をオリーブの中に上手に取り込み、オリーブオイルに香りをまとわせる。柑橘系の皮に含まれるリモネンなど、オリーブにはない成分もあり、夏季限定の「新鮮檸檬オリーブオイル」はオリーブだけでは出せないすっきりとした味とさわやかな香りが特徴。魚、肉といったたんぱく質の食材とも相性が良い。「完熟ネーブルオリーブオイル」はネーブルオレンジの華やかな香りが。フルーツフレーバーオリーブオイルは、ワインビネガー、しょうゆと合わせれば簡単ドレッシングになる。
〇超熟製法
緑果から搾るオリーブオイルは青みのある若い香りで、苦み、辛みといったスパイシーでパンチのある味わいだが、これとは対照的なフルーティーで甘い香りのあるオリーブオイルとして開発したのが今年の9月に完成した超熟製法。
オリーブは熟すほどマイルドでフルーティーになるが、熟し過ぎると酸化してしまうため、熟し方に難しさがあった。井上誠耕園で新たに作ったのがオリーブとりんごを一緒に密封して熟成させる方法。りんごの力を使ってオリーブを短期間で熟成させることで酸度を上げずに、マイルドでフルーティーな味わいを出した。この製法を使ったものが「超熟オリーブオイル・林檎」で、糖分ゼロだがりんご由来のほのかな甘さがある。
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