
■連載/ゴン川野のPC Audio Lab
直熱三極管と傍熱ビーム管で比較試聴イベント
トライオードは創業1994年、日本の真空管アンプメーカーである。その名前の通り三極管を使った真空管アンプ『VP-300BD』がロングセラーで、早い時期から真空管アンプキットも販売してきた。また、イギリスの名門スピーカー、スペンドールの輸入代理業もおこなっている。現在は厳選した海外オーディオブランドから、マルチメディアプレーヤー、トランジスタアンプ、アナログプレーヤー、ヘッドホンと扱うジャンルを広げている。
今回のイベントはトライオードの最新モデル、大出力ビーム管KT-150を4本使ったプッシュプル方式の真空管プリメインアンプ『MUSASHI』と、直熱三極管300Bを使った『TRZ-300W』で、井筒香奈江さんの発売前のダイレクトカッティングレコード『Direct Cutting at King Sekiguchidai Studio』を聴き比べるというもの。さらに録音機能のあるカクテルオーディオ『X45Pro』を使ってアナログ信号をハイレゾ化して再生するという試みも行われた。
トライオード社長の山崎順一さん自らが『MUSASHI』について語った
2本録り、3テイクが絶対条件だった緊張の収録現場
司会進行はオーディオ評論家、土方久明さん、ゲストに井筒香奈江さんが登場して、早速、レコーディングの話がスタートした。ダイレクトカッティングと言えば、ものすごく大変であると話には聞くが、実際には何が大変なのだろう。
土方さんによれば、レコーディングには編集作業が不可欠で、録音、編集、マスタリング、そして最後にレコードの原盤になるラッカー盤と呼ばれるディスクに音を刻み込むカッティングという作業をおこなう。これがダイレクトカッティングでは、録音中の音をそのままラッカー盤に刻み込むことになるという。つまり、曲の途中で失敗すれば、全てやり直しになり、ラッカー盤も廃棄しなくてはならない。一発勝負でやり直しが効かないために演奏者にはものすごいプレッシャーが掛かるという。その見返りとして鮮度の高い、情報量の多いレコーディングが可能になるのだ。
キングレコードからは、1曲だけ録るならDSDレコーディングの一発録りがあるので、それに対抗して2曲、続けて録って欲しいということ。さらにカッティングエンジニアからは、ラッカー盤はキズが付きやすいので予備も含めて3枚は刻みたいという要望があったという。つまり、2曲合計約11分の曲を3テイク、A面用、B面用で成功させなければ、レコーディングが終わらないのだ。
レコーディングダイエットに成功しました!
「人の集中力はそんなに続きません」と井筒さんは語る。彼女によれば、演奏者全員が緊張感を保って3テイクを成功させることは、非常に難しいという。レコーディングエンジニアとして参加したベテランの高田英男氏でさえ緊張していたそうだ。その上、カッティングエンジニアは初仕事がダイレクトカッティングという通常ではありえない状況下でレコーディングが行われた。
「最近、私に会った方によくやせたねと言われますが、これはレコーディングダイエットの成果です」と冗談めかして話す井筒さん。非常に過酷な録音であり、ランナーズハイのような高揚感もあり、このレコードには緊張感だけでなく達成感も録音されていると語った。レコードを再生するのは本邦初公開となる。
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